135 魔族襲来
ペリシュオン大陸。
アンリの前世で言えばオーストラリア大陸にあたるそこは、争いが絶えない地域だ。
何かが理由で争いが起こり、争いが終わったかと思えば、また争いが始まる。
領地を奪うための戦い。
自国を守るための戦い。
独立するための戦い。
争いが常のペリシュオン大陸では、国境など存在しない。
戦争により国境が日に日に変わってしまい、誰も把握ができないのに加え、国が誕生しては滅亡し、誕生しては滅亡しての繰り返しでキリがないからだ。
争っている本人達は自分の正義を信じ、志を違えた敵を淘汰しようとしているのかもしれない。
しかし傍から見た時、ペリシュオン大陸の者は野蛮だと一括りにされていた。
そして、いつしかペリシュオン大陸はこう呼ばれるようになっていった。
紛争国家
複数の国が存在するにも関わらず、その大陸全体を一つの国として認識されるようになったのだ。
「おらぁぁぁぁ!! 死ねぇぇぇぇ!!」
ペリシュオンでは、今日もまた独立戦争が行われていた。
「っしゃぁぁぁぁぁ!! 俺たちの勝利だぁぁぁぁぁ!!」
その戦いには決着がつき、この場でひと時の平穏が訪れた。
新たな勢力が打ち勝ち、今まさに建国されたのだ。
「旗を立てろぉ!! ここが、俺たちの領土だぁぁぁ!!」
絶えず新たな国が生まれるペリシュオンでは、建国の際に他者の承認など必要としない。
旗を立てれば、そこが立てた者の領土になるという、なんとも世紀末なルールが存在していた。
新たに国が生まれる。
国が亡びる。
そしてまた、どこかで国が生まれる。
その連鎖は、ペリシュオンでは永遠にも続くかと思われた。
しかし今日を境に、紛争国家ペリシュオンの在りかたは大きく変わることとなる。
「んぁぁ? なんだぁありゃ?」
その異常に気付き、その場にいた全ての者が顔を上げる。
突如、空高くに黒い渦のようなものが発生したのだ。
「台風……?」
「はぁ? あそこだけで……?」
戦いに勝利して高まった興奮は、みるみると収まっていく。
それだけ、見える光景は不思議なものだった。
黒い渦はゆっくりと、だが確実に大きくなっていた。
一体どこまで大きくなっていくのかと皆が不安になった時、ふいに渦から何かが出てくる。
「ひぃ!?」
「な、なんだあれは!?」
その男の姿は人間に似ていた。
しかし、似ているということは、明確に違うということだ。
見るだけで嫌悪感を抱いてしまう青い肌。
通常の人間の三倍はあるであろう、巨大な体。
側頭部には天上を突き刺すかのように尖った二本の角。
圧倒的に感じられる強者のオーラ。
「なかなか旨そうな生物が蔓延っておるではないか。見たこともない生物に大地……ふむ、これが異世界か……素晴らしい、海がなんと綺麗なことか」
大男を見ているだけで、その場から逃げ出したいという生理的欲求が込み上げてくる。
しかし、人間達は体の動かし方を忘れたのか、大人しく耳を傾けていた。
「くく、手始めにまずはこの大陸を我の物にするか……行け、我がしもべ達。この世界の生物に、我ら魔族の恐ろしさを刻め!」
黒い渦から男以外の生物が飛び出してくる。
青い肌という共通点をもった者達は、ペリシュオンの至る所へ飛び立っていく。
「聞け! 下等な生物達よ!」
その男の声は、ペリシュオン中に響き渡った。
そして、その口から告げられた正体は、なぜか皆が納得してしまうものだった。
「選べ! 家畜として一時の平穏を得るか! 下らぬ尊厳を守り今死ぬか! 今よりこの地は我の物だ! 我の名はジャイターン! 魔王である!」
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