151 七つの大罪
「転生!? ふざけたことを! そのような奇跡、あり得るはずがないであろうが!」
自身の理解が及ばないことを、大概の人間はまず否定する。
マズダールも例に漏れずそうであった。
「あはは、実際に転生したんだよ。神様なんて信じてないけど、もしいるのなら、この奇跡にだけは感謝だね」
これだけファンタジーな世界になっているのだ。
もしかしたら、万に一つ以下の可能性ではあるが、アンリの言うことは本当かもしれない。
そう感じたマズダールは初めて不安になる。
だから、それを否定をする。
「ふん、輪廻転生などお伽噺の中だけだ! 貴様の世迷いごとに付き合うほど、余は愚かではないわ!」
「あはは、別に信じてほしいわけじゃないんだよ。ただ、気付かないのかな? 世界改変前の僕たちからしたら、"大罪人システム"に違和感を感じなかった?」
マズタールは確かに当時、"大罪人システム"に違和感を感じていた。
しかし何千年も生きている内に、その違和感は常識へと刷り変わっていった。
そしてその違和感は、アンリの言葉により再び呼び起こされる。
「七つの大罪、確かにそれは僕も知っているよ。でも、その中身が気に食わない。憤怒? 傲慢? 強欲? 何それ? 大方、どっかの何かを参考にしたんだと思うけど……」
アンリがメルキオールに視線を向ければ、一つ目を泳がせながら回答がくる。
「肯定します。マスターのご推察通り、もう一人のワタシが保有している日本のサブカルチャー知識にAPIで繋がった形跡を発見しました」
「はぁ、だろうねぇ……」
「しかし、独自プログラムにて修復しようとしたのでしょう。本当の大罪に繋がった形跡もあります」
アンリとメルキオールの会話に、マズダールが声を荒げて割り込んでくる。
「それがどうした! 一体何の問題がある!」
「あはは、大有りだよ。何の罪もない人が大罪人の烙印を押されてるじゃないか!」
"大罪人システム"は、世界を壊すため、世界の敵となる者に力を与えるものだ。
アンリはシステムの穴を指摘する。
「選定される者が間違っているんだよ! 憤怒の大罪? 憤怒の何が悪い! 怒るってことは、それだけ真剣に生きていることの証拠じゃないか! 自分の仕事に魂を込めない奴を、僕は絶対に尊敬しない!」
その言葉を、マズダールは否定することができない。
「傲慢の何が悪い! それだけ努力を重ねてきた証拠じゃないか! 自分に自信が持てない奴を、僕は絶対に頼らない!」
言い返す言葉が見つからないのかもしれない。
「強欲の何が悪い! 欲が無いと人間じゃないだろう!? 何も欲がない奴を、僕は生きているとは認めない!」
アンリの言葉に納得してしまったのかもしれない。
「色欲の何が悪い! 自分の欲を追求した結果じゃないか! 自分にすら正直になれない奴を、僕が信じるわけがない!」
マズダールはシステムの穴に気付いていたのかもしれない。
「暴食の何が悪い! 節制が過ぎると経済が回らずに、それこそ世界が死んでしまう! 食わず嫌いよりも、みんなもっと冒険をするべきなんだよ!」
衰弱しきっていたアンリの魂に変化が生じる。
「嫉妬の何が悪い! 目標を持つのは重要だろ!? 他者を否定することしかできず、自分の殻に閉じこもった奴は、僕の視界には入らない!」
魂は輝きを取り戻す。
「怠惰の何が悪い! 人はいつだって楽をしようとしてきたんだ! そしてその結果、より便利な世界になっていった! 怠惰なくして、人類の発展はありえない!」
最早マズダールにできることは何もなかった。
「や、やめろぉぉ……貴様、何を……」
「死ぬのなら壊してしまえこの世界? 違う、それじゃぁ駄目だ! 僕は生きることを諦めない!」
世界が揺れる。
マズダールはそれを経験したことがある。
世界改変の時だ。
「あり得ぬ……システムが……改ざんされる……っ!?」
「違うんだよマズダール! あるべき姿に戻すんだ!」
アンリがこれまでに魔力量を増やしてきたのは、決して無駄ではなかった。
世界を変える。
今おこなっているのは、まさしく神の所業なのだから。
『
七つの大罪。
”大罪人システム”では、強欲、暴食、憤怒、怠惰、嫉妬、傲慢、色欲を大罪と定めている。
しかしアンリの前世では、それははるか昔の話であり、七つの大罪は別にある。
アンリは前世の大罪を基準とするよう書き換えたのだ。
「あぁぁぁぁぁ!? 傲慢の能力がぁぁぁ!? 消えるぅぅぅぅ!!?」
その効果に、マズダールは悲鳴を上げる。
効果が表れたのはマズダールだけでは無かった。
神が生まれたのだ。
『告 アーリマン・ザラシュトラの魂に”環境汚染の大罪人”の烙印が押されました』
『告 アーリマン・ザラシュトラの魂に”人体実験の大罪人”の烙印が押されました』
『告 アーリマン・ザラシュトラの魂に”遺伝子改造の大罪人”の烙印が押されました』
『告 アーリマン・ザラシュトラの魂に”過度な裕福の大罪人”の烙印が押されました』
『告 アーリマン・ザラシュトラの魂に”貧困の大罪人”の烙印が押されました』
『告 アーリマン・ザラシュトラの魂に”社会的不公正の大罪人”の烙印が押されました』
ただし、それは災いの神だった。
「……あは……あはは……あはははははははははは!!」
アンリは笑う。
歓喜。
純粋な喜び。
それ以外の感情は、全て真っ白に塗り潰される。
「あはははは!! ありがとうマズダール! あははははは!! そして、さようならマズダール!!」
アンリの感情は収まりきらず、黒い炎へと姿を変える。
高く上がった黒い火柱は、アフラシア大陸を飛び越え、至る所から観測された。
そしてそれは、観るもの全てをどうしようもなく怯えさせたのだった。
「転生という奇跡がおきたんだ! もし神様がいるのなら、神様も僕の永遠を望んでいたんだよ! あはははははは!!」
アンリは笑う。
狂ったように、ただただ笑う。
前世からの願い。
誰もが夢見てきた願い。
有り得ないと馬鹿にされてきた願い。
「きた! 遂にきた! 永遠だ! 僕が永遠だ! あはは!! あははははははは!! あはははははははははははははははははは!! あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」
それが今、叶ったのだ。
アーリマン・ザラシュトラは、永遠を手に入れた。
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