俺の学園生活が催眠エロゲなんだが
くすり
プロローグ 博く学びて
我が国のエロ文化の多様性はもはや救いようがない凄まじい領域にまで達しており、いまやこの国は圧倒的にしてはるかに他国の追随を許すことのない《
知らない? もしかしてモグリか?
いや、知らないというなら教えてあげよう。男友達にオカズ提供されるのとかちょっと……というお前も、まずは騙されたと思って聞いてくれ。
〝催眠〟──それは「お人形遊び」である。
わかってる。こんなふうにおおっぴらにデリケートなエロ・ジャンルの話をすると、女の子の自由意志を奪って思うまま好き勝手に弄ぶなんて褒められた性癖じゃないとか言い出す奴もいる。
いや、いるかもしれない。
現れないともかぎらない。
……厳密には俺の知るかぎりまだ怒られてないが、今後怒られることは十分に考えられる。
女の子は自由でなくちゃ魅力的じゃない。ならどうしてこんなに催眠について力説してくるのかって、今度は聞きたくなるかもな。もちろん、まだ話は終わってないし、むしろここからが本題なんだ。
俺はそもそも催眠が好きだったが、それは女性に自由意志はいらないとか、男性に隷属すべきだとか、そんなカビの生えた前時代的な思想があったからじゃもちろんない。
催眠には、催眠にしかない背徳感ってやつがあるんだ。そしてそれはフィクションだからこそ、許されるものなんだ。
「あつひくん……あたしに命令して……?」
つまり、現実にこんなこと言うやつがいていいわけがない。
「お、おい……
ただのクラスメイトで、なんなら俺とは全然違うクラス内カーストのはずの結野
「あたし、あつひくんの言うことならなんでも聞くよ……?」
染めた明るいショートヘアが夕焼けの色で透き通る、俺とはほとんど接点のなかったはずの彼女が、
「だってあたし、あつひくんの奴隷だもん……」
夕暮れの教室の壁に押しやられてたじろぐ、俺の膝にすがるように、
「いやいやいや!」
熱のこもった上目遣いで、息を荒くし鼻にかかった声で懇願しながら、
「あつひくん……はやくぅ……」
急に制服を脱ぎ始めた。
「や、やめ、やめろぉぉおおお!!」
絶対やめてくれないと思っていた人にやめてくれと頼むときの人の心境はなかば諦めだ。
「………………」
そんな瞬間まったく予想していない展開として、相手がそれを唐突にやめたとき、頭の中はエラーのようにほとんど空白になる。
「急にやめるな!?」
「どっちなんですか……」
「なに!?」
ガラガラと音を立てて教室のドアを開けて闖入したのはまさかの第三の人物だった。
「やめてほしいのか、やめてほしくないのかです」
薄暮の明かりのみが射し込む薄暗い教室でじっと目を凝らしてなんとか姿をみると、女だ。
「そりゃ、やめてほしいけどやめてほしいと完全に言い切ることもできないだろ!?」
困惑する女の顔だ。黒く艶やかな長い髪を触りながら首を傾げている。
「ええ……?」
俺は彼女のことを知らない。大きな学園だから知らない学生なんぞ珍しくもないが。
「というか、これどういう状態なんだよ!?」
「ただの人形遊びですよ。
耳を疑った俺は思わず結野に声をかける。
「おい、結野!? お前とこいつで俺にドッキリでも仕掛けてるんだよな!? 俺がクラス替え直後で馴染めてないから気を遣って友達になろうとしてくれてるんだよな、な!?」
「話しかけても無駄ですよ。いまの彼女は私の〝お人形〟なんですから」
「は……?」
まじまじと結野をみると、その目には光がなかった。まるで本当の人形のように彼女はだらりと全身を脱力し、次の命令を待つだけのロボットになってしまったようだった。
中途半端にはだけられたブレザーからのぞくレースの布地にも、片側だけずり落ちて見えてはいけないトライアングルの一つの頂点を見せるスカートにも、否応なく晒されている健康的な白い肌にも結野の意思はどこにもなく、思わず背筋がぞくりとした。
「おま、なに、を……」
「簡単なことです。私、
これが雨宮と俺のファースト・コンタクトで、
「ふう、危ないところでしたね。高槻くん」
俺の学園生活が完膚なきまでめちゃくちゃになるに至る最初の出来事で、
「おいっ、お前はナニモノで、いったい俺に何がしたいんだよ!?」
人と人とが本当に分かり合えるのかとか、
「私が守ってあげますからね、高槻くん?」
愛にできることはまだあるのかとかいう話を、
「ぜんぜん会話になってねーし!!」
するかどうかはまだいまのところわからない、
「結野はどうなるんだ!? まさか、一生このままってことはないよな!?」
この物語のプロローグになる。
「結局のところ高槻くんがやめてほしいのかやっちゃってほしいのかわからなかったので、とりあえずこのまま彼女の家に帰すことにします。そろそろ催眠が切れちゃう頃ですし」
「おま、それ催眠エロゲかよッ!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます