第10話 ピコん!

 わたしとアスカちゃんさんは、アスカムーンとシャイニング・プリンセス・ステラに変身して訓練をしていた。


 アスカちゃんさんちの地下には、なんと秘密の訓練施設があったのだ!


 今はヴァーチャル・リアリティV Rが作り出した魔獣を前に、戦闘訓練をしている所だった。


「目の前だけを見ちゃだめよ。特にステラは後衛タイプなんだから、戦場全体の流れを把握する必要があるわ」


「は、はい!」


 わたしはアスカムーンの動きに合わせるように、威力の低い蕎麦ビームを撃っていく。


 逆にわたしの蕎麦ビームにあわせて、アスカムーンが攻撃するってパターンも試してみる。


「そうそう、すごくよくなったわ。そんな感じで、常に一歩引いて全体を俯瞰ふかんしつつ牽制をして。チャンスがあれば一発、蕎麦・荷電粒子砲を狙う感じで」


「わかりました!」


 うどんによる接近戦が得意なアスカムーンが前衛で戦い、蕎麦による遠距離攻撃が得意なシャイニング・プリンセス・ステラが後衛でサポートする。


 さすがファクト&エヴィデンスがポリシーなうどん一神教徒のアスカちゃんさん、作戦も実に合理的だね!


「蕎麦・荷電粒子砲はものすごい威力だけど、チャージが必要だし、超宇宙コスモスの消費も激しいから使いどころが味噌煮込みうどんね」


「ですね!」


 ちなみに「味噌」と「味噌煮込みうどん」をかけた寒いダジャレは、さらっと流して見せた。


 ステラ、大人の対応である。

 えっへん。



 ◆


 昼うどんを食べてから、わたしたちは街に出かけた。

 最近は物語を抜け出た魔獣がたくさん出るから、パトロールをするんだって。


 ジャス活――ジャスティス活動だね!


「どうして魔獣がたくさん出るようになったんですか?」


 わたしがしごく当たり前に思った事を聞いてみると、


「まだそれは分からないの。だけどどうも何者かが、物語から魔獣を解放しているみたいなのよね」


「えっと、それは何のためにですか?」


「おそらく世界征服ね。公安や警察も、その筋で調査をしているわ」


「世界征服!?」


 いきなりとび出た厨二なパワーワードに、わたしは素っ頓狂すっとんきょうな声で聞き返してしまった。


 だって、世界征服だよ!?


「そう驚くことではないでしょ? だって古来より、悪いことをする奴の目的は世界征服と相場が決まっているもの」


「た、確かに……!!」


 戦隊シリーズでも仮面ラ〇ダーでもゾ〇ドワイルドでも、いつの世も悪い奴は世界征服を企んでいる。


 わたしはぐうの音も出ない程の正論に、アスカちゃんさんに惚れなおしてしまっていた。


 さすがアスカちゃんさんだよね。

 カッコいい!


 ちなみにわたしは仮面ラ〇ダーは龍騎、ゾ〇ドではマ〇ドサンダーが好きだ。


 そんな他愛もない話をしていると、


 ピコん!


 わたしのステラ・レーダー(アホ毛)がなにかに反応した。


「アスカちゃんさん、あっちの方向に何かを感じます! かなり小さいですけど、魔獣じゃないかなって」


「あっち……? はっ!? これは物語の魔獣の気配だわ!」


「やっぱり!」


「どうやら小癪こしゃくにも気配を隠しているみたいね」


「小癪にもって時代劇じゃないんですから……」


 わたし、人生で使ってる人を初めて見たよ?


「だけど私もまだ気づいてなかった、こんなかすかな魔獣の気配に気づくなんて。ステラ、あなたは本当に天才のようね」


「えへへ、そうですか~照れちゃいます~」


 アスカちゃんさんに手放しに褒められてしまって、わたしは「にへら~」とだらしなく笑った。


 でもでも、やったね!

 アスカちゃんさんに褒められちゃったよ!


「ご褒美に後でお小遣いをあげるわね」

「ありがとうございます! ちょお嬉しいです!」


 アスカちゃんさんからは、すでに当面の必要経費としてまとまったお金をもらっていた。

 だけど苦学生としては、お金は貯められるときに貯めておきたいのである。


「じゃあステラ、すぐに魔獣のいる場所に向かうわよ。だけど注意してね」


「と、言いますと?」


「この先にいるのは、気配を隠す能力と知能をあわせ持った、強大で狡猾な魔獣よ。注意しても注意しすぎると言うことはないわ」


「わ、わかりました!」


 わたしとアスカちゃんさんは魔獣の気配のした方向へ、慎重かつ大胆に急行した!

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