魔法少女と聖夜の魔法

クリスマスが今年もやってくる

以来、エリーは召喚獣の特異性の解明に勤しんだ。元々魔法に対しては熱心だが、空いた時間の多くを図書館で使った。キンモクセイの花が枝先から落ち、子供たちが徐々に湧き立つ。

 街ではツリー用の大きなモミの木が出回り始める頃には光の魔獣図鑑も読み終わり、シャーリーとソフィアやノアくんの手伝いも合って光属性の生徒より少ししか劣らない程度の知識を身に着けていた。未だにシュバルのことは分からなかったが、彼は召喚獣として優秀でエリーの身体にも特に問題は起きていないので、根気強く気長に努力するつもりである。



土曜日。エリーは一日休みにして街に出ていた。カードショップに入って、クリスマスカードを物色する。どれも質が良い。手に取って開き中身を見ながらシュバルに話しかける。

「クリスマスっていうのはね、キリストって人の誕生日を祝う日なの。家族でご馳走を作ったりモミの木を綺麗に飾り付ける。クリスマツリーっていうの。大きな祭だから街中がライトアップされるのよ」

『別に聞いていないが?』

「でもシュバルは人間界の事あまり知らないでしょ。だから教えてあげるね」

『大きなお世話だ。私には必要ない』

 つれない態度なのはいつものことだ。しかし話はちゃんと聞いて覚えているあたりツンデレである。最初の方は本当に煩いと言われるか無視されていたけど最近は会話をしてくれるようになってきた。

「それから良い子はプレゼントがもらえるのよ。眠っている間に世界中の子供たち宛に配られて朝起きてから開けるの。その後家族でミサに行くんだけど子供たちは自分たちのプレゼントの話で持ちきりで」

『それは凄い魔法だな』

「まあ一種の魔法みたいなものかも。サンタクロースっていうの」

『?、魔王の力だろう?』 

「え」

 予想の斜め上の発言に目が点になった。

『それほどの魔法は人間はおろか私達にも無理だからな。しかしあの忌々しい魔王にも人の心があったとは驚きだ』

 どうしよう凄く面白い。というか可愛い。

 シュバルの解釈に微笑みを隠すことが出来ずに純粋な疑問として指摘される。いわく魔王様は魔獣達を遥かに凌ぐ魔力があり、彼らが使えない魔法も軽々と扱うらしい。だから魔王様なら世界中の子供達の元にプレゼントを飛ばすことが出来てもおかしくない。

 流石、魔を統べる王である。このままにしておいても良かったのだがバレた時に怒るのは目に見えていたので真実を教えてあげた。

『なんだ。つまらんな』

 その後もクリスマスについて勝手に説明しながら、家族へのカードを選んだ。クリスマスプレゼントや魔法のアイテムや素材を扱っている店に寄り茶葉を見ながら久々に街をゆっくり見て周っていたらいい時間になっていた。丁度足もくたびれてきたし心なしかお腹も空いてきた。

 良さげなお店を見つけるために歩く速度を落としてきょろきょろしていると見知った顔を見つけた。人間離れした美貌はいつだって眼を惹く。手を振りながら大声で名前を呼ぶ。

「ノアくーん!!」

ビクりとしてから此方に気付いたらしいノアに小走りで近づく。近づいてみて気付いたがノアは制服を着ていたわけではないらしい。

 マント、いやよく見るとローブだがともかくそれを付けていたから勘違いしてしまった。それはフードのついた仰々しいデザインで普段よりも断然似合っていて格好いい。留め具には大粒の琥珀がついていて内側が光の加減で翠、蒼、黒、橙、紅、白に輝いている。なんだか不思議でしげしげ見ていると上から声が掛かった。

「こんにちはエリー。今日も元気だな」

「うん!とっても元気よ。ノアくんも今日は街に用事?」

「ああ。もう終わったが」

「そうなんだ。この後は?」

「……久々に外で飯を食べようと思っていた」

「!、じゃあエリーと一緒だ!!」

 これ幸いとばかりに誘う。一人で食べるご飯よりも二人で食べる方が断然美味しい。とはいえ強引に誘った自覚はあるのでせめても意味を込めて食事のリクエストを訊く。

「いや、まだ決めていない。君のお勧めはあるか?」

「エリーの?……それならこの先にお気に入りのお店があるけど」

「ならそこにしよう」

「え?ノアくんが良いならいいけど」

 まあ私も最近行ってなかったし丁度いいかもしれない。

というかこれはちょっとしたデートではないだろうか。イケメンとデートできるなんて今日はツいている。浮かれ気分で高さの揃わない肩を並べて歩く。昼時ではあったが並ばずに入れたのはこの店が穴場だから。若干顔を赤くした女性店員に広めのテーブル席に案内されメニューを開きそこで新事実が発覚した。

「どれも美味そうで迷ってしまうな」

 ノアは優柔不断だった。写真を見ながらもう5分以上悩ましげな表情をしている。そしてその表情は店員だけでなく客の目を引き、先程からチラチラと見られているのが分かる。エリーはもう何を注文するか決めたので今はそのご尊顔を楽しんでいると、絶望染みた顔で難題を突き付けてきた。

「駄目だ……!エリー、君が僕の分も決めろ」

 ええぇ。

 そんなに悩み苦しむことか。理解に苦しんだが取りあえずは、決めるまでいかずとも手伝おうともう一度メニューを開く。

「今どれとどれで迷ってるの?」

「パスタも良いが窯焼きピザも捨て難い」

 もしかして物凄くお腹が空いているのだろうか。

「なら両方頼んでピザを二人で分けない?」

「それはいい案だ」

「うんうん」

「で、どのパスタとピザが良いと思うんだ?」

 …………。

 嘘だろう。そこで止まっていたのか。てっきり頼みたい品は決まっていると勘違いしてしまった。最初から選ぶとなると時間がかかるし何より。

「店員さんに訊いた方がいいと思うの」

 きっと喜んで対応してくれる。納得したらしいノアは手を上げて店員を呼ぶ。直ぐにやってきた女性店員に尋ねると見たことがない笑顔でオススメを教えてくれた。結局ペスカトーレビアンコとマルゲリータ、デザートにジェラート(何味にするかでノアはまた悩んでいた。)を頼むこととなった。因みに私はサフランとポルチーニのリゾットである。ピザが来るのでリゾットは少なめにしてもらった。先に届けられた水を啜りながらやっと一息つく。

 無駄に疲れた。実にくだらな――……大真面目な悩みだった。

「エリーは買い物で街に出ていたのか?」

「そうよ。もうすぐクリスマスでしょう。家族に贈るカードを選びに来たの。」

「そういえばそんな時期だったな」

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