第7話

「今日はここまででいいか。」


 俺はメイクラをやめ、お茶を飲む為にリビングに向かう。


「あっ、光真君。ただいま。」

「おう。帰ってたのか。」


 リビングに来ると、台所で晩ご飯を作っている瑠夏の姿があった。


 瑠夏は制服姿のままでエプロンを付けていて、今はキャベツを切っていた。……これはなんていうラブコメですか?


 俺はその姿をちらっと見た後、冷蔵庫からお茶を取り出し、コップに入れた後、椅子に座り、少しずつ飲んでいく。


 リビングで俺は茶を飲み、瑠夏はエプロンを付けて料理を作っている……。


 なんだよこの夫婦感は?俺達まだ会って一週間も経ってないのに、夫婦感が滲み出てないか!?ラブコメでもこんな展開滅多に見ないぞ!?俺が見てないだけかもしれないが!


 この空間に俺は苦笑いし、そのままスマホを取り出し、トゥイッターというSNSを見る。


 俺のトゥイッターは2つのアカウントがあり、1つは知り合いがフォロワーにいるアカウントで、俺が今見ているのはゲームとかラノベの情報を見る為のアカウントだ。


 そしてそのアカウントで何か新しい情報がないか見ているのだが……。


「特に何も無いな。」


 少し期待していたが、仕方ない。トゥイッターを閉じて、電子書籍を読む事にした。


 今日読むのは『お前を好きなのは俺だけだ』というラノベだ。


 これは俺のお気に入りの一つでもあり、主人公の少年は冴えないヒロインの事を好いている。主人公はイケメンで、みんなは何故冴えないヒロインを好きなのかはわからなかった。

 だが実はヒロインの真の姿は見間違えてしまう程の美少女であり、主人公はそれを知っていた……。


 このラブコメはギャグがふんだんに盛り込まれており面白い。主人公とヒロインの会話が特に愉快で読んでいて楽しくなる。


 そんな内容のラノベを読もうとした時、瑠夏に後ろから肩を叩かれる。


「ご飯できたよ?」

「えっ?もうできたのか。……わかった。食べようか。」


 電子書籍を閉じ、晩ご飯の準備をする。


 テーブルの置いてある物を片付けて台所から料理を運びだす。


「いいよ。光真君は座ってて。」

「いや、たまには手伝わせろ。お前ばっかにやらせるのは、俺が納得いかん。」


 俺がそう言うと瑠夏は少し照れたように微笑み、反論はしてこなかった。


 2人で準備をした後、俺と瑠夏は椅子に座り食事を始める。


「そういえば今日は放課後囲まれなかったのか?」

「うん。用事あるって言ったから。………ん?今日は?」

「えっ?あっ。」


 まずい。つい口を滑らせてしまった。このままじゃ俺がストーカーしてたのがバレてしまう!!なんとか言い訳せねば……!


「げ、下駄箱でみんなに囲まれながら帰ってるのを見てさ!それで今日はどうだったのかなーって。」

「なるほど。そーだったんだ。」

「そうそう!あっ、そういえばさ!!」


 なんとか話題を変えようとしたが、やばい。何も浮かばない。


「………あっ、そうだ。俺って、何年前に瑠夏と会ったんだ?」

「うーん。5年くらい前かなー?」

「てことは、俺が記憶喪失する1年前って事か。」


 その時は11歳。つまり小学5年生の時か。


「ん?なら何故流星はお前の事を知らないんだ?学校が違ったのか?」

「ううん。一緒の学校だったよ。流星君とも喋った事あるよ。」

「なら何で?」

「私、光真君達がいた学校にいたのはほんの3か月ぐらいしかいなかったの。」

「……それじゃあ、瑠夏は転校生で、でもまた3か月後には転校したって事か?」

「うん。そうなるね。」


 なるほど。流星は馬鹿だから覚えてないのは無理もないな。

 でもそれなら、俺はその3か月の間でどうやって瑠夏を攻略して、こうまでデレデレにさせたんだ?


「なぁ。俺はその3か月の間でお前に何をしたんだ?」

「––––––それは秘密。」

「えっ?教えてくれたっていいだろ?」

「ううん。自力で思い出して。光真君にはちゃんと思い出してほしいから。」

「そうは言ってもな……。」


 俺のその記憶は無くなっている。どうやって思い出せばいいんだ?


「………ごちそうさま。」


 瑠夏は料理を食べ終わり、台所に向かって行く。


 俺もその後は黙って食べる事にした。


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