第58話
凍った空気を気にする事もなく、威圧感のある声がする。
「どちら様?」
始めに聞いたのは、目を眇めた威圧感たっぷりで逆らう事を許さない雰囲気のアルバート。
こういう時本当にやっぱり未来の宰相なのだと思えるのが凄い。
「申し遅れました。わたくし、エリック殿下より命じられまして、今日からルナ様の御側に仕えさせて頂くことになりました、ハンナと申します」
私以外の全員は目を見開く。
「あー、そっかあ。殿下、かなりショック受けてたっぽいからな」
アルバートはもう納得したのか眠そうな顔になって、溜め息を吐いている。
「だな。しかしあれだろ? 神官で侍女って事は護衛も兼ねてだろうし、貴族待遇だな」
ヒューは苦笑しつつハンナさんを興味深そうに見ている。
「神官の侍女なんて、貴族でもそれなりの家じゃないと無理よ。王族から特別に下賜された場合を除いて」
キャサリンは呆れた様に言いながら、ハンナを観察中。
「この場合は、下賜されたって事で良いんじゃないの? ルナ、この侍女さんに色々任せると良いよ。出掛ける時も連れて行くと良い。神官の侍女は護衛としても優秀だし」
アルバートはそう言って肯いている。
「ああ。ルナ、そうした方が良い。玻璃はまだ幼いから、色々対処が難しい事もあるだろうしな」
ヒューは私を優しく見つめつつそう言ってくれるのだが、玻璃が覿面に不満そうに毛を逆立てている。
「ちょっと、ヒュー。玻璃が機嫌を崩しちゃったじゃない。聖獣が一緒なんて本っ当に凄いのよ? でも、そうね……もうちょっと戦闘に特化したソキウスが居ると良いかもしれないわね」
キャサリンの言葉にちょっとは機嫌を直したらしい玻璃だが、ソキウスの話が出て不満そう。
私が撫でたらスリスリと手に甘えて来たから、機嫌は持ち直し気味だろうか……?
「そうだな。お前達も戦闘や護衛用にソキウスを手に入れた方が良いと思う。この国の人間になるのなら、それこそソキウスは持っていた方が良い。それもできればランクが高いものを」
アルバートの言葉に、日向先輩は驚いている。
「皆が皆ソキウスを持っているのは知ってるけど、やっぱ必要か?」
ヒューがアルバートやキャサリンと顔を見合わせ肯いてから答える。
「ああ、必要だな。学生の身分だったらそうでもないが、卒業して、それなりの身分を手に入れたのなら入手した方が良い。というより必須だ必須。平民なら家族で一体とか数体でも有り得るが、最近は平民でも一人一体が増えている。それ以上の身分であれば一人に一体は絶対に欲しい所だな。騎士階級も自分の乗騎はソキウスだし。大型のものでもそれ用の鞍はあるから誂えたりすると言い。ソキウス用の装飾品も大事だ。身分を端的に表すからな。最初の内はそう金をかけなくても良いが、少しずつでも良い物に変えていくと良いと思う」
キャサリンもアルバートと顔を見合わせ肯きながら答えた。
「聞いたわよ。闘技大会出るんでしょ? 絶対に上位っていうか、カイとかトーヤは優勝も有り得るんだから、ソキウスは要るわよ。絶対に! まあ、闘技大会が終わってからでも良いと思うけど」
アルバートはキャサリンの言葉に肯きながら続ける。
「そうだな。確か副賞でソキウスももらえたはずだ。ある程度その順位に合わせて優遇もしてくれたと思うから、その時に選んでもらった方が良いかもしれない。やはり王家の手配するソキウスだからな。その方が良いだろう」
二人の言葉に、藤原君が不思議そうにしつつ問いを発する。
「副賞の一つはソキウスなのか?」
日向先輩が続けて口にする。
「順位次第で良いソキウスをもらえたりするって事かよ?」
ヒューは思い出す様にしながら答えてくれる。
「そうだったと思う。ただソキウスは自分との相性が大事だったりするんだ。個人で持つソキウスは特に。だから何体かと見合いみたいな感じをして、それで相手を選ぶという方式だな」
目を見開く日向先輩、中村先輩、藤原君、設楽君、鈴木君。
「そういう知識って知りませんでしたね。もう四年いますけど、結構知らない事ってあるんだな」
鈴木君は感慨深そうにしている。
「あ、確かソキウスの装飾品とかも副賞に入ってたと思うよ。だから上位に入賞さえすればソキウスも選べるし、装飾品もソキウスに合わせてもらえたと思う」
キャサリンの言葉に、気になって声を出す。
「あの、中村先輩や設楽君、鈴木君のソキウスを選ぶのも、闘技大会後の方が良いのかな……? 学校へ今年から行く皆はどうしたら……?」
アルバートは苦笑しつつも答えてくれた。
「普段の年も、収穫祭の時には沢山のソキウスが王都に集められるからな。ましてや闘技大会のある年は例年の比じゃない程良いソキウスが集めれると思ったが。特にここ最近は危険だからとソキウス需要も高まっているしな。やはり学生の身分だったとしても、良い『ソキウス』は選んでおいて損は無い。この機会に入手も良いと思う。闘技大会は五年に一度が多いしな。その間の収穫祭中では見劣りするのも確かだ。目ぼしいのを複数選んで予約しておいて、収穫祭が終わってから吟味して買うのが一般的だと思う。収穫祭は前後に約一か月猶予期間があるんだ。結構な人数が聖地でもある王都に集まるからな。その移動の為の猶予期間なんだが」
キャサリンも楽し気に口を開く。
「そうそう、猶予期間の間も楽しいよ。本番程じゃ無くても賑わうし。もう少しすると騒がしくなるんじゃないかな」
ヒューは溜め息を漏らしつつ忌々しそうだ。
「人が多くて面倒なんだよな……私は本番だけで良い……」
そんな嫌そうなヒューに、皆が笑みを漏らしてしまったのは仕方がないと思う。
ヒューが本当に相変わらずに、見るからに本当に嫌だというのは分かってしまう位には、嫌がゲシュタルト崩壊しそうになるほど、心底全身が嫌そうだったのだから――――
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