第31話

「しかしあれだね、やっぱりルナもサツキも凄いけど、カイとトーヤもやっぱり居て良かった。それに加えて神様や聖獣が居たっていうのも大きいだろうけど、困難なはずがこんなに上手くいくなんて本当に驚きだよ。大抵の皆の魔力が恐ろしい事になってるからね」


 皆が目覚めるまで動かしてはいけないらしく、その場で静かに待機をしていたら、エリックがしみじみとそんな事を呟いている。


「か、氷川先輩や藤原君も、神官の素質が有るの?」


 素朴な疑問で訊いてみたら、エリックは何故か笑顔になる。


「うん。ルナ程じゃないけど、二人も凄いよ。それなりの神官の素質有る奴の魔法、妨害できる位には凄い」


 エリックの言葉に中村先輩と顔を見合わせ、驚愕していた。


「魔法の妨害は、精霊に愛される神官クラスでないと難しいと習いました。その神官の魔法を妨害できる程なのですか!?」


 中村先輩が思わず訊いてしまう位には驚く事柄だ。



 もしかして、私や氷川先輩、藤原君が、この国の人に見えるという事態と、何か関係があるのだろうか……?


「そうだよ。神官の素質。即ち、神々や精霊に愛される性質って奴だけど、これは純粋に生まれついての才能だから、後付けではどうしたってある程度は出来ても、完全には得る事は出来ない能力だ。だから神官の素質がある奴を国中で四歳になったら調べる訳だけどね。神官の才能が有る人でも能力の強弱は当然有る訳だけど、そういうのも元々は空属性の魔法が使える者しか分からなかったんだよね。それが今は魔道具でも診断出来る様になったから便利ではあるよね。本当にさ、カイもトーヤも直ぐにでも高位の神官に成れるんだけどなあ」


 中村先輩は不思議そうに首を傾げる。


「神官になるには、五歳から特別な学校に入学して修行すると伺いました。なのに、直ぐにでも高位神官に成れるのですか?」


 エリックはどこか皮肉気に哂う。


「そう。神官の素質が有るかどうかは、一般的に学校に入学する五歳までに調べるんだ。で、神官の才能有りの場合は、プネヴマ幼年学校に行く事になる訳。で、プネヴマ幼年学校は十五歳まで在籍するんだけど、十一歳になる年からは全寮制になるんだよ。ま、学校から遠い奴は五歳から寮生活だけどね。それから後に、我々の母校であるプネヴマ魔法学校に入学する訳だ。ただね、神官の素質は才能だって言ったろ? 神官の素質があれば本来学校では何も学ぶ必要はないんだよ。何故なら、学校では神々や精霊に対する相互受信能力を幼い頃から鍛える必要があるだけで、元々感度が良い存在はその訓練が必要ないんだ。ルナもサツキもカイもトーヤも感度が良すぎる位なんだから、プネヴマ魔法学校に通った時点で神官に成っても問題ないの」


 エリックのどこか冷めた物言いに、彼の心配な所が見え隠れしている様で案じてしまう。

 そんな私に気が付いたのか、エリックは優しく、どこか嬉しそうに微笑みかける。


「王立プネヴマ魔法学校を始めとした上級学校を卒業したら社会に出る事になるんだけどさ、神官の素質有りな貴族は速攻で神官に成って、数年したら軍や政府機関に入ったりするものだよ。先ずは神官の修行。それから他の事って訳。貴族なら神官を兼ねる人が圧倒的に多いんだけど、この事からも神官の重要性が分かるんだよね。神官経験無いっていうのは結構軽んじられたりするから、カイもトーヤもちょっとだけでも神官に成ってた方が良いと思うんだよ」


 エリックの言葉にまた中村先輩と私は顔を見合わせる。


「あの、エリック。それって数か月でも良いの?」


 私の問いにエリックは楽しそうに笑って肯く。


「そうだよ。才能が有る奴は二週間神官やってただけでも問題は無い。基礎的な事はプネヴマ魔法学校で習ったろうから、大丈夫だよ。ルナみたいなお手伝いって奴で十分。神官の資格は、素質が有って、プネヴマ魔法学校に通ったら無条件でもらえるんだから。一応、神官として勤めましたよっていう証明はいるから、二週間位でも良いんだけど、やっぱりちょっと神官としてのお仕事を神殿でやってもらう必要があるんだよね。あのさ、神官の資格。これも大事。素質があれば色々神々や精霊も手を貸してくれるけど、資格があるとより一層手厚い加護が得られる訳」


 その言葉にちょっと勇気を出してお願いしてみる。


「二人がどう言うかは分からないけれど、あの、私と一緒に、氷川先輩と藤原君もお手伝いさせてくれませんか? エリックの迷惑でなければ、だけれど……」


 後半になると声から力が無くなる私は、相変わらず仕方がない。

 やっぱり過ぎたお願いだとも思うから、申し訳なくなるのだ。



 それでも何か仲間の力に成れたらと思うのだ。


「そうだね。二人が良いって言うのなら手伝ってもらおうかな。二人にとっても良い事だと思うよ。神官に成った、って実績は大事だし。闘技大会に出るのなら余計にね。何せ神官にちょっとでも成っておくと、魔法だって格段に使いやすくなるんだよねこれが」


 エリックの悪戯っぽく笑いながらの言葉に、またまた中村先輩と顔を見合わせる。

 肩に乗った玻璃は心底どうでも良さそうだ。


「それは一体どういう事でしょうか?」


 中村先輩の問いにエリックは愉しそうに含み笑い。


「あのさ、魔法の妨害と一緒だよ。精霊がね、神官かそうで無いかで力の貸し方が違うの。強力な精霊とかね、本来ならその魔力では無理なはずが力を貸してくれたり、少量の魔力でも大威力が出たりと良い事尽くめだったりするんだ」


「あの、図々しいけれど、氷川先輩や藤原君以外の皆も、神官として修行は、無理、かな……?」


 少しでも力に成るのなら皆が助かると思い、恥知らずにも思わずエリックへとお願いしていた。


「……難しいかな。神官の才能は、シュン、ハルト、アキラは多少有るからしないよりした方が良いだろうけど、他の面子は才能無いから無理だね」


 その言葉に知らず知らずに項垂れていた。


「――――あの、でしたら、日向先輩達を闘技大会まで修行させる事は可能、という事でしょうか?」


 言葉を失った私の肩に手を置きつつ、中村先輩が訊ねる。


「そうだねえ。それは大丈夫かな。ただ、ルナやカイ、トーヤ達とはやる事が違うけれど、それでも良い?」


 エリックの思案しながらの言葉に、私と中村先輩は力強く肯いた。


「あ、あの……皆の意見を訊いてからなので、これは個人的なお願いですから、そのですね、えっと、断る人がいたら、ごめんなさい……」


 もし誰かが断ってしまったらエリックに悪いと思い謝ると、エリックは楽しそうに笑い出す。


「ルナが気にする事じゃないだろうに……! 相変わらずなルナだねえ」


 嬉しそうに言うエリックの声にホッと胸を撫でおろす。

 何から何までエリックに迷惑をかけてしまった。

 私に返せることがあったら全力で返そう。



 そう誓いながら、これで仲間が少しでも生きやすく、戦いやすくなるのなら良いなぁと思わずにはいられなかった。

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