第21話

「どういう事だ?」


 氷川先輩は疑問顔。

 私も藤原君も顔を見合わせ首を傾げていた。


「まず大前提として、この世界では、魔力が強ければ強い程、特殊な能力が強ければ強い程、容姿は整うって聞いてますよね」


 鈴木君の言葉に、皆肯く。


「そうだな。そうですよね、蛇神様」


 氷川先輩が代表して答え、蛇神様に訊ねる。


「そうじゃ。これはこの世界だけの決まり事でもないが、確かに能力の優秀な者は優秀であればある程容姿は良いな」


 蛇神様の言葉に、肯く鈴木君。


「だから、三人は凄く有能だって、この世界の誰もが思うんだよ」


 日向先輩は眉根を寄せつつ、首を傾げる。


「だがよ、それなら、何で三人の方じゃ無く、一緒に居る俺等に嫌な視線が集中するんだ?」


 氷川先輩も疑問を呈する。


「我々はこの世界、というかこの国の人間とは人種が違うだろう? この国の出身者とは思われない筈だ。それならば、視線は本来我々三人に集まるはずではないか?」


 鈴木君は尤もだと肯く。


「はい。氷川先輩と日向先輩の言う通りなんです。そのはずなんです。外国人でありながら、自分達とは違い才能があってこの国に受け入れられている、と思われるのは氷川先輩達のはずです。で、あるなら、嫉妬や妬みの視線は三人に集中しなきゃおかしい。でも、実際は一緒にいる外国人である俺等にその視線が向いている。それは何故か、という話なんです」


 藤原君は、思案顔。


「理由がまるで分からんのだが……」


「さっき言いましたよね、理由」


 鈴木君の言葉に、氷川先輩は首を傾げつつ口を開いた。


「私、藤原、如月が、アルターリアー王国の身分の高い人間だと思われているから、だったな? そして、それは何故か、という話だな」


「はい、そうです。そして結論から言いますと、氷川先輩も藤原も如月も、この国の人間として違和感がまるでない、という事ですね」


 鈴木君の言葉に、日向先輩は思い当たる節があるのか、肯く。


「ああ、確かにな。言われりゃそうだ」


 中村先輩も、悩ましそうに、肯く。


「そうよね。確かにこの国の人間と一緒にいても、三人はおかしい感じがしなかった。ええ、馴染んでいたわ」


 設楽君も難しそうな顔で肯く。


「それは、その、この世界の学校時代に何となく気が付いていました。ですが、理由は? 理由はなんでしょう?」


 皆の言葉に、氷川先輩も、藤原君も、私も顔を見合わせ、首を傾げるしかなかった。


「要するにですね、氷川先輩、藤原、如月は、何故か日本人の中に居れば日本人に見えて、この国の人間の中に居ればこの国の人間に見える、特殊体質って事です」


 鈴木君の言葉に、全員から驚愕の呻き声が漏れる。


「……設楽の疑問は尤もだわ。蛇神様、何故彼等はそうなのか、分かりますか?」


 何とか思考を巡らせたらしい中村先輩の言葉に、蛇神様は難しい顔。


「ふむ。そういう者がいるとは聞いた事はある。ただ、会ったのは初めてじゃな。確かに、カイもトーヤもルナも、この世界に馴染みすぎる程には馴染んでいる。こういう人間は他の世界にも稀に出るとは聞いているがな。正に特殊体質というのが、正解じゃろうな」


 蛇神様の言葉に、唸るしかない。

 自分が異能力を持って生まれたのも、何か関連しているのだろうか?



 言われてみれば、氷川先輩も、藤原君も、そして私も、何らかの特殊能力を生まれつき持っていた。

 藤原君が能力に目覚めたのはこの世界に来てからだが、誰かに付与されたモノではない、自分が元々持っていた力だと蛇神様は言う。



 三人に共通しているのは、この魔法とも若干違う、特殊能力持ちである事だ。

 これはこの世界でも大変珍しいモノであるらしく、私が簡単に学校に入学出来た理由でもある。



 しかし、もしかしたらこれ以外にも何か三人にはあるのだろうか?

 疑問は尽きない。



「ありがとうございました、蛇神様。鈴木もありがとう。おかげで疑問は解消されたからな」


 氷川先輩の言葉に、中村先輩も溜め息を吐きつつ続けた。


「そうね。蛇神様、本当にありがとうございました。鈴木も助かったわ。要するに、氷川先輩も藤原も瑠那も、この国の人間だと思われていて、その上容姿が飛び抜けてるから、この国で容姿が良い、イコール貴族である可能性が高い、って事で、一緒にいたら貴族に気にいられている外国人に私達が見えてる訳ね。で、自分達と比べて身分の高い人に気にいられて妬ましい、と。確かに、氷川先輩は冷たさのある正統派の絶世のな美形様だし、藤原はワイルド系の絶世の美形だし、瑠那は優美な正統派絶世の美少女だしね。まあ、凄まじく目立つから、一緒にいる私達も目立っちゃうと」


 鈴木君も苦笑しつつ肯く。


「蛇神様もありがとうございました。中村先輩の考えで大体合ってると思いますよ。本当にとばっちりですけど」


 日向先輩は呆れ顔。


「――――馬鹿じゃねえの。ったくこれだから他人を頼ってばっかで何もしようとしねえ人間は……! ああ、腹立つ!!」


 設楽君は荒れている日向先輩を宥めに掛かる。


「まあまあ。落ち着いてください、日向先輩! 僕等には計り知れない彼等には彼等なりの事情がありますよ。仕方がない人だっているかもですよ」


 藤原君は重いため息。


「だからと言って他人を妬んでもどうしようもないだろうに……それよりも自分も彼等の様になりたいと努力してこそじゃないか?」


 鈴木君もそれに同意する。


「だね。俺もそう思うから、あいつ等本当に目障りっていうのは言い過ぎかもしれないけど、迷惑だってのは偽れざる気持ちかな」


 氷川先輩も表情が暗い。


「こちらにはどうしようもない事で妬まれても、な。それだと我々三人は、他のメンバーと出歩かない方が良いという事か?」


 それまで黙っていた奥村さんが慌てる。


「それはないですよ。あっちが妬んでいるのは勝手なあっちの感情なんですから、こっちがそれに合わせてやる事もないですよ」


 森崎先輩はそれを不安そうに見ている。


「でも、何かあってからじゃ遅いし、やっぱり一緒に出歩かない方が良いんじゃない?」


 笹原君は、森崎先輩に呆れた様に見ている。


「そうは言っても、襲われる時は襲われるし、だったら氷川先輩や藤原と一緒の方が断然安全だろ。如月は玻璃がいるから、こっちも安全だろうし」


 それに村沢君も同意する。


「だよな。それに蛇神様が護衛を付けてくれてるんだから、気にしすぎなくて良いんじゃないか」


 村沢君の言葉に、酒井君と安藤君、清水さんと高橋さんも肯いた。


「でも、やっぱりちょっと怖いかな。氷川先輩も藤原君も守ってくれるっていうのなら、一緒に行けるけど……」


 長谷部さんの言葉。


「それは安心しろ。必ず守る」


 氷川先輩が力強く言って表情を緩める。


「そうだな。守るとも」


 藤原君も、出来得る限りの優しい声で肯いた。


「でも、もしかしたら力を得られるかもしれない訳だし、そうなったら自分で出来る限り自衛努力はして欲しいな」


 鈴木君の言葉に、今度は日向先輩、中村先輩が目いっぱい肯いた。


「大体の話はついたな。皆、遅くにすまなかった。明日以降、儀式が終了するまでは予定は開けておいてくれ……では解散」


 氷川先輩の言葉を合図に、皆それぞれに散っていった。

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