第22話

 夢を見ている。

 昔の、前いた世界での事を視ている様だ。



 あれは、瑞貴に初めてあった頃、かなぁ……



 私は、始め通っていた幼稚園でいじめに遭ったのと合わなかったのとが重なり、登校拒否気味になってしまったから両親は私を転園させたのだ。

 その新しい幼稚園が、有名私立小学校に卒園生を多数輩出しているという所だった。



 どうも両親は知り合いである園長先生に私を頼んだらしい。

 ちょっと普通の子とは違った私を、両親なりに心配した結果だろう。



 幽霊やら忌まわしいモノも色々視えて、人や普通の人には何もない所を恐がったり、動物が何故か寄ってきたり彼等の言葉が分かったりと、色々通常とは違ったのが私だから、両親が案じるのも分かる。

 私の能力を正確に理解していたのは曾祖母だけで、両親には言えなかった。

 幽霊の件や動物の件で怖がらせてしまったらしいので、私なりにこれ以上怖がられるのが怖かったのだ。

 治癒能力や浄化能力、解毒能力まで知られたら、絶対に嫌われると信じて疑わなかった。



 私の一族の女系に出やすい能力らしいのだが、曾祖母は確かに持っていたけれど、私よりは弱かった。

 曾祖母の祖母は力が強かったらしいが、私の方が上だろうと曾祖母は言っていたのを思い出す。



 そして我が家は女系で、必ず婿を取るものらしく、男は滅多に生まれないらしい。

 だから曾祖母も祖母も、そして母も婿を取ったのだ。



 そんな私は新しい幼稚園でも浮いていた。

 どうも遠巻きにされて、仲間に入れて貰えない。



 寂しくて悲しかったが、何とか誰か親しい人を作ろうと思案した結果、一人の少年に目が留まった。



 その少年は、同年代より小柄な私よりも更に小さく、容姿は飛び切り整っていた。

 最初は女の子かとも思ったが、服が男の子様の制服だから見分けが付いた位だ。

 それ程に綺麗な子だった。



 ただ、その子は一人だった。

 いつもポツンと一人。



 それが何だが、放って置けなかった。

 独りなのは自分もであるのに、どうしてか彼が気になり、一生懸命声をかけ続けた。



 始めの内は返答も何も無かった少年に悲しくなっていたが、めげずに何故か話しかけた。

 きっと、いつも自分に付いて回る、内気で引っ込み思案な我が家系では滅多に生まれない男である弟が重なり、寂しそうな少年を守らなければという決意をしていたからだろう。

 だって彼は小さくて、二歳年下の弟とそう変わらない身長だったから、余計に、だったのだと思う。



 その子に何度も話しかけていたら、肯いたり首を振ったりばかりの少年の声がようやく訊けた。


「み、ず、き」


 少年は、はにかみながら、一生懸命にその言葉だけを拙い口調で繰り返す。


「貴方の、お名前?」


 私が言うと、コクンと肯く。


「私は、るなよ。るな。分かる?」


 そう言ったら、みずきは、コクンと肯き、言葉を発する。


「る、な」


 嬉しくなった私はニコニコと答えた。


「そうよ。るな。みずき、私と仲良くしてくれる?」


 そう言った私に瑞貴はコクンと肯いた。



 後で訊いた話だが、瑞貴は発育が通常よりもだいぶ遅く、言葉を発するのが酷く遅れていたらしい。

 知能自体は問題なかったというより、通常よりもかなり高かったらしいのだが、話せる様になるのが普通よりとても遅く、小さかったのもあり、嫌厭されイジメられていたのだ。



 彼の母は言っていた。

 彼の初めて話した言葉は、「るな」だったと。



 そんな彼が、るな、るなと嬉しそうに私の名前ばかり呼ぶのだと、彼の両親は嬉しそうに私に言ったものだ。

 私にいつも笑顔で話しかけてくれていた彼の両親の事を、私も好きだったし、彼の両親は瑞貴を本当に案じていたのも知っている。



 彼の両親は親戚だった園長先生に事情を話した結果、受け入れてもらえたと話していた。

 だから幼稚園の先生はなるべく彼の側に居たのだが、それでも離れた拍子にイジメられるのだ。



 それで瑞貴は誰からも離れて、独りポツンと居たのである。



 私はイジメられる瑞貴を放って置けず、イジメっ子に立ち向かっては生傷を作っていた。

 元々が小さい私だ。

 体格の大きな複数の子達と渡り合うには、絶対に引かないという意志の強さしかなかった。



 私がイジメられて疎外されるのは良い。

 でも、小さい瑞貴に何かするのは許さない。



 そう思って、いつも必死だった。



 直ぐにいつも先生達は気が付いて助けてくれる事は知っていた。

 先生達も私や瑞貴を良く視ていてくれたのだ。

 だから先生達は、瑞貴がイジメめられているのを私が庇っているのも知っていたから、イジメっ子達に注意していたし、保護者にも言っていたらしいのだが、一向に瑞貴に対するイジメはなくならなかった。



 どうも、私が瑞貴を庇えば庇うほど、瑞貴に対する当たりがきつくなっていった気がする。

 それが今考えても訳が分からず、困惑するしかない。



 彼等とは進学した小学校が違ったから、卒園以後の事は知らない。



 瑞貴は小学校の高学年になる頃には、背も凄く伸びて、同年代の子達よりもずっと背が高くなったのだ。

 綺麗な顔にも磨きがかかり、それはそれはモテる様になった。



 何せ頭は良いし、運動も申し分ない上に、あの整った容姿。

 その上、言葉も小学校入る年になる頃には普通に話せる様になり、そればかりか、気さくな態度に社交的な感じも相まって、男女共に非常に人気が高まったのである。



 そんな瑞貴を私は、いつも遠くに見ている事が多くなっていった。

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