ワードハッカー

春嵐

ワードハッカー

 人間は、思ったよりも少ない世界で言葉を交わし、コミュニケーションをとる。


 仕組みを作り出して、最終的に自分の言葉が世界に影響を与えるようにした。


 具体的にいうと、一億人ぐらいが自分の言葉を見るようにした。直接的な配信ではなく、間接的なシステム。


 言葉を、ロックできる。


 特定の言葉を置き換えたり、喋れなくしたりできる。自分が、それをロックしようと思って発話したり動いたりするだけで、数秒でワードハック完了。とても簡単。


 人間の仕組みは、思っているよりもずっと、簡単だった。脳も、もしかしたらブラックボックスなんかではなく、ただのひとつの普通の器官なのかもしれない。


 なんてことを思ってたら、寝てた。


 ベッドから起き上がる。


「ええっと」


 あ、ロックしてた言葉。まあいいやそのままで。


「うわっ」


 画面上。


 赤い警戒表示。


「うわうわうわ」


 公安が追ってきてる。


「うそ。なんで」


 そんなにおおげさな言葉ロックしてないよ。


「ねえちょっと、私なんで追われてるの」


 焼き畑。ログインしてた。


『え、知らないけど』


「こわいこわいこわい」


『昨夜から総監がちなまこになって追ってるよ』


「ちなまこ」


『ち、ちなっ、ちま、ちまなこ。言いづらいな。ハックしてる?』


「してない。あなたの滑舌」


 扉が開く。総監。


「うわあっ」


「てめえっ。ロックしやがったなっ。拘束して監禁だっ」

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