信用
来瀬 三次
第1話 信用
「さてと、今日も行きますか」
俺はいつものようにスーツを身に着け、仕事鞄と人一人が入る程度の旅行鞄を手に持った。
靴ベラを使って踵が折れないように革靴を履き、姿見で変なところがないか確認する。
「よし」
スーツはクリーニングからかえってきたばかり。靴も磨いたばかりだし、汚れはすべて落としている。
鞄と自宅の鍵を持ち、扉を開ける。
心地よい、朝の風が頬を撫でた。
その風に乗って近所のおばさんたちの立ち話が聞こえてくる。
「最近、このへんも物騒になったわね」
「本当よね。あの誘拐事件も未解決のままだし。それに若い女の子ばかり狙われて……」
「かわいそうにねぇ」
話に熱中する二人だったが、俺が横を通る時にはこちらに視線を向けていた。
「あら、今日もお仕事なの?」
「休日なのに、偉いわねぇ。うちの息子にも見習ってほしいわ」
おばさんたちの声に会釈で返し、横を通り過ぎる。
「まったく、みんなハル君みたいになってくれたらいいのにね」
そのつぶやきは、冷たい風にかき消された。
「よっこいしょ、と」
車で走って数十分。俺は人里離れた山奥へとやってきていた。
トランクから旅行鞄を取りだし、ファスナーを開ける。
突如あふれる匂いは、肉が腐ったそれ。思わず鼻をつまみたくなる異臭に笑みがこぼれる。
「まったく、馬鹿ばっかりだよ」
俺は鞄のファスナーを閉めなおすと、『それ』を穴へと放り込んだ。
「次は、誰にしようかな」
信用 来瀬 三次 @5KuruseMitugi
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