第4話 通りすがりの人助け──①
ラピアクタ子爵家の屋敷から王都までの、長距離の高速移動。
そこで出番となるのは……私が現状唯一使える属性魔法である、雷魔法だ。
まず私は全身に魔力を巡らせ、自分の身体を磁化させた。
電気と磁気は相互に作用し合うので……雷魔法を使えるということは、同時に磁力を自由自在に操れるということになるのである。
そして次に……私は上空に、螺旋状の雷を発生させた。
この雷は、螺旋の直径を人1人が通過できる程度にしてある。
私は軽くジャンプして、螺旋を描く雷の中に突っ込んでいった。
すると……私の身体には螺旋の向こうへと引っ張られるような力が働き、私は一気に加速しだすこととなった。
これが、私が前世で編み出した、電磁相互作用を用いた飛行魔術である。
電気を流したコイルの中に磁石を置くと、磁石はローレンツ力でコイルの中を前進する。
私はその原理をまんま用いて……人体を磁石、雷をコイルとおき、ローレンツ力で空を飛ぶ方法を編み出したのだ。
この飛行法の良いところは、何よりスピードが速いこと、そして安全性が高いことだ。
まずスピードに関して言うと……全力を出せば、マッハ10は軽く越せる。
まあ音速を超えると騒音で地上に迷惑をかけてしまうし、王都はそんなに遠い場所ではない感じなので、今は亜音速しか出していないが。
そしてこの飛行法は、雷の螺旋の中を通るため……仮に飛行型魔物とかに襲撃されそうになっても、雷撃で身を守ることができるようになっている。
「グギャアアァァァ!」
こんなことを考えている間にも、コカトリスが私を襲おうとしてきたが……その前に高圧電流が直撃し、返り討ちに遭った。
このように、飛行中の私を襲撃しようとした者は……雷で自動的に迎撃できてしまうというわけだ。
この仕組みがある以上……よほどのことが無い限り、王都には予定どおり三時間で到着できるだろう。
◇
と、思ったのだが……。
「人が……襲われてる?」
真下をぼんやり眺めながら飛んでいると……ちょっと見過ごせない状況が目に入ってきたので、私は一旦減速し、地上に降りてみることにした。
私が発見したのは、横転した馬車と一体の魔物、そして馬車と魔物の間に立つ護衛らしき人。
護衛は既に左肩を負傷しているようで……明らかに緊急事態だった。
私は護衛らしき人の側に軟着陸し、再度状況を整理するため辺りを見回した。
「え……空から人が!?」
護衛らしき人は私に気を取られたみたいだが……申し訳ないが、その問いに答える前に、まずはするべきことがある。
私はこの人たちを襲撃した張本人と思われる魔物を見据え……こう呟いた。
「狂乱のラバースライム、ね」
狂乱のラバースライム。
スライムの中でも極めて高い絶縁性を持つ、雷魔法使いの天敵のような魔物だ。
狂乱化したことにより、普通のラバースライムと比べて高い攻撃力を持つ上に、性格も獰猛になっている。
護衛の人はお世辞にも戦闘能力が高い方とは言えなさそうだし……この魔物に襲われれば、こんな状況になってしまうのも無理はないだろう。
「話は後で落ち着いてしましょう。それより……アレ倒してもいいわよね?」
一応私は、確認のため護衛らしき人にそう尋ねた。
この状況なら聞くまでもないだろうが……後から魔物を横取りされたなどと難癖をつけられたら癪なので、念のためだ。
「た、倒せるなら……お願いします!」
すると護衛らしき人は、そう言って私に頭を深く下げた。
どうやら問題ないようだ。
なら……サクッと倒してしまうか。
さっきも言った通り……この魔物は高い絶縁性を持っているので、雷魔法は通りにくい。
まあコッククロフト・ウォルトン・サンダー等の電圧倍増魔法を使えば、感電死させるのも不可能ではないが……そこまでして苦手属性でごり押すのもあほらしいので、ここは別の方法で倒したいところ。
というわけで……私が選ぶのは、この魔法だ。
「ミトコンドリア・ヘルファイア」
私は回復魔法を応用した人体発火現象を起こす魔法で、火炎放射を起こした。
火炎放射は狂乱のラバースライムに直撃し……融点を超えたのか、そのまま融けて跡形もなく消えていった。
使える属性魔法は一種類でも、工夫次第ではこんな戦い方だってできるのだ。
状況も落ち着いたので、護衛らしき人に話でも聞いてみようと思ったその時……横転した馬車の中から、一人の女性が姿を現した。
「何だか凄まじい轟音が聞こえてきましたけれど……?」
「ご無事で何よりです、テレサさん! この人が私たちを襲った魔物を撃退してくれたんです。……ドラゴンのブレスかと思うくらいの火魔法で!」
馬車から出てきた女性――テレサさんと言うらしい――に対し……護衛らしき人は私を指しつつ、興奮で倒置法になりながらそう言った。
火を放ったのは事実とはいえ、今のは火魔法じゃないんだが……。
私は内心そう思ったが、それとは裏腹に、テレサさんにはこう言われてしまった。
「お助けくださりありがとうございます。ドラゴンのブレスほどとは……貴方は相当な火属性魔法の使い手なのですね」
「いや、その……」
それに対し、私はさっきの魔法を説明しようかとも思ったが……言いかけたところで、やっぱりやめにすることにした。
ぶっちゃけこの人たちには、さっきの魔物を「何で倒したか」はさほど重要じゃないだろうからな。
……そんなことより、今は他にもっと大事なことがある。
「エリアヒール」
私は護衛の人、テレサさん、そして自分が効果範囲内となるよう範囲回復魔法を発動した。
狂乱のラバースライム……炎で討伐すると、ダイオキシンが発生するからな。
健康被害の相殺のため、この場に留まる間は回復魔法をかけ続けておいた方がいいのだ。
護衛の人の左肩の負傷も治って、一石二鳥だろうし。
そう思っていると……早速効いてきたのか、護衛の人は嬉しそうにこう言い出した。
「わ、私の肩が治っていきます!」
するとテレサさんは、不思議そうにこう聞いてきた。
「肩が治っていく……貴方、もしかして回復魔法の使い手なのですか?」
「はい!」
「しかし、先ほどは炎で魔物を……なぜ炎と回復、両方が使えるので?」
どうやらテレサさんには、私に回復魔法と炎の魔法両方が使えるのが不思議なようだった。
……この人は雷魔法での飛行は見てなかったはずだし、人体発火魔法を知らないにしても、精霊に火属性を覚えさせたと思えばさして違和感を覚えることでもないはずなのだが。
そう思いつつも、せっかくなので、さっき中断した説明を再開することにした。
「あれはミトコンドリアを過剰に活性化させて人体発火現象を起こす、回復魔法の発展技みたいなものです! ちなみに私が火傷していないのは、回復魔法で火傷を相殺してたからですよ」
「「……」」
すると……護衛の人とテレサさんは顔を見合わせ、言葉を失ってしまった。
しばらくの間、狂乱のラバースライムの残りカスがパチパチと燃える音だけが響く時間が続く。
その沈黙を破ったのは……テレサさんの方だった。
「えっと……要は、あなたは聖女で、火魔法も今の回復魔法も聖女の力だと……?」
「はい! あ……まだ公認じゃないですけど。私、これから教会に習いに行くところですの」
「え、それだけの魔法を使えて、まだ教会を卒業してすらいない!?」
テレサさんの問いに、まだ公認聖女志望だと答えると……彼女は目を丸くして、今まで以上に驚きを露にした。
「だってまだこの歳ですよ?」
転生者だから、なんて言うのもアレだし……とりあえず、そう言って誤魔化しておくか。
そう思い、私は笑顔を作りながらそう答えた。
「そんな……まあでも確かに、こんな常識破りの神童が入学していたら、連日教師陣の話題になるはずですものね……。ある意味、まだ入学してなくて当然? でも、未発見の聖女の魔法を使うなんて……しかもあの歳で……」
するとテレサさんは、なにかブツブツと呟いたようだったが……その内容は、よく聞こえなかった。
まあ、いいか。
とりあえず私は……この後どうするかを考えることにした。
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