無才印の大聖女 〜魔術を極めた転生聖女はあらゆる超一流実力者から畏怖される〜

可換 環

第1話 最強の力を引き継いで転生する

『聖女』——それは、生まれながらにして一体の精霊と契約を結んでいる女を指す言葉だ。


 聖女は普通の魔術師などとは違い、契約した精霊の力を借りて魔法を行使する。

 精霊の力を借りることで、聖女は他のどんな人間にも使えない回復魔法を使えるし、それ以外にも一種類までなら普通の属性魔法も使うことができる。

 そして聖女の実力は……自身と契約した精霊をどれだけ育てたか・・・・に比例する。


 そんな世界で——私ことフラジールは、自分の精霊を成長限界まで育て切った。



 私は聖女として生まれてから、最高の実力者になるべく、とにかく精霊を上限まで育てることを目標に生きてきた。

 様々な研究を重ねながら精霊に数多の知識を教え、膨大な経験値を注ぎ込むために幾多の修羅場をくぐり抜け……来る日も来る日も、私は精霊の育成に励み続けた。


 その甲斐あって……ちょうど一年ほど前、私の精霊はついに成長限界に達した。

 世間が言うには、どうやらこれは歴史上私しか成し遂げたことのない快挙なのらしい。

 まあ、そんなことは私にとってはどうでもいいのだけれど。


 成長限界に達し、精霊王を名乗るまでになった精霊を持つ私は……もちろん、世界で一番の実力を持つ聖女ということになった。

 ほとんどの魔物は覚えさせた雷属性魔法一撃で倒せるし、古代の負の遺産と呼ばれるような強力な呪詛も赤子の手をひねるように解呪できる。

 そんな私を、いつしか人々は「生ける伝説」だの「ゴッドハンド」だのと呼ぶようになった。


 しかし……当の私は、ここへ来て一つ大きな悩みを抱えるようになっていた。

 聖女の限界に挑むため必死に生きてきた私にとって……その目標を達成してしまった後の人生が、酷く退屈に感じられるようになったのだ。

 おそらく私にとっては「最強の聖女になった後その力で何をしたいか」とかは重要ではなく、ただそこを目指す過程が楽しいと思うタイプだったということなのだろう。


 少しでも退屈をしのぐため、私は東奔西走して疫病を撲滅して回ったり、魔神を消滅させたりもしてみたが……結局真にやりたいことじゃないからか、今度は私は人生コレジャナイ感に苛まされるようになってしまった。


 惰性で人々を救いながら、有意義には感じられない毎日を過ごす。

 私の余生すっとこんな感じなのかと思うと、一時期は本当に気が滅入りそうになったものだった。



 そんな私だったが……ある日私は、名案を思いついた。

「聖女の限界に達したなら、今度は聖女の限界を超えてみればいいじゃないか」

 私は急に、そんなアイデアが閃いたのだ。


 そもそもなんで聖女の力に限界があるかというと……その根本的な原因は「精霊との契約は、生まれる瞬間に一体のみと可能である」という制約にある。

 精霊との契約を後天的に増やせないからこそ、既に契約してる精霊を育てきってしまうと、それ以降は実力が伸ばせなくなってしまうのだ。


 なら、生まれ直せばいいではないか。

 それが、私が至った結論である。


 来世で生まれる際に新しい精霊と契約しつつ、現世の私が契約している精霊も引き継いで計2体の精霊を手に入れる。

 そして二体目の精霊も育て上げ、単純計算で今の倍の実力を身につける。

 それが私が考えた、「聖女の限界を超える」ためのプランというわけだ。


 まず私は、そのような方法で精霊を二体手に入れることが可能であるかどうか、丁寧に検証していった。

 結果、それは理論上可能であると証明できた。


 その証明を終え、転生のための魔法の開発を終えたのがつい昨日のことだ。


 そして私は……今からその転生のための術式を発動し、来世に飛び立とうとしているわけである。


『しばらくお別れね、ゼタボルト』


 私は心の中で、自分の契約精霊——神雷の精霊王・ゼタボルトにそう語りかけた。


『そうだな。転生の魔法、ちょっと痛いが……本当に良いんだな?』


『ええ。この退屈な人生が変わるなら、それくらいどうってことはないわ』


『じゃ、未来に魂飛ばすぞ』


『よろしくね』


 そんな会話の末……私は全身に電流が流れるような感覚を覚えたかと思うと、その一瞬後には絶命した。

 次に目が覚めるのは、来世でだな。

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