第33話 5−11
「単に推力に任せて飛ぶだけだと思ったら、こいつ、しつこいな!?」
カミーラ量産型と空戦を繰り広げながら優人は驚いた。確かに量産型に特殊装備を装備させたものとは言え、さすがはカミーラ型、なかなかの優秀さである。
「こうなったら接近して……!」
優人は自らの身体をプラズマジェットスラスタで強引にターンさせると、量産型カミーラの一機にぶつかるようなコースを取った。そのまま急接近する。
「これで……どうだ!!」
優人はカミーラ量産型の前に出ると両手をかざし、手のプラズマビームを発射しようとした。
が、その時。
カミーラ量産型の躯体を別のビームが貫き、砕いた。速度を失ったカミーラ量産型はバラバラに砕け散りながら落下していった。ビームを飛んできたほうを見ると、
「ちょっと時間かけ過ぎではないですか。まったく、世話が焼けますね」
ユイリーが空中に浮きながら<エクスセイバー>をビーム発射形態にしてこちらに向けていた。
「ごめんごめん。ちょっと手間かけた。……他の機体は?」
「すべて撃墜しました。残るは<カミーラ>だけです」
二人が同じ方を向くと、そこには吸血鬼型ガールズギアが重力制御で空中に浮かんでいた。
目が合うと、彼女はニヤリと笑った。
「お主らに世話をかけて申し訳ないのう。これで奴らを落とす手間が省けた。……さて、決着をつけようぞ、ハイブリッド・ヒューマン」
そう言って彼女は構えた。
「待てよ」優人は手で止まれ、のポーズをとるとカミーラに向かって言った。「最初から言っただろ。お前を助けてやるって。俺にはお前と戦う理由なんてないんだ」
「まだそんな事を言うのか」カミーラは面倒くさいなというようにため息を吐いた。「お主に理由はなくても我にはある。お主を破壊し、その超技術を<メーテール>様に持って帰ることだ。その目的を達成すべく、我はお主と戦いたい。それだけじゃ」
その話を聞いていた優人だったが、途中でなにかが聞こえたようで、それを聞いた後、突然快活な声でこう告げた。
「その理由ももうなくなったんだなー!」
「なぬ?」
「先ほど俺たちのHAI<パンテオン>がそちらの<メーテール>を制圧しちゃったようなんだよなあー」
「は?」
「つまり、お前の主人がいなくなった以上、お前に戦う理由はなくなったわけ。……だからもうやめようぜ。こんなこと。お前はもう、自由なんだ」
「……<メーテール>様?」
カミーラは自分の主人であるHAIに呼びかけたが、応答はなかった。
「<メーテール>様、<メーテール>様?」
……。
「<メーテール>様<メーテール>様<メーテール>様!」
何度強く呼びかけても<メーテール>からの返答はない。
カミーラの目から光が喪われていく。
そして、彼女は両手を大きく開き、人工声帯を全開にして絶叫した。
「<メーテール>様<メーテール>様<メーテール>様<メーテール>様<メーテール>様<メーテール>様<メーテール>様<メーテール>様<メーテール>様<メーテール>様<メーテール>様<メーテール>様<メーテール>様<メーテール>様<メーテール>様ああああああああ!!!!!」
次の瞬間。
彼女の全身から重力波の嵐が吹き出した。
荒れ狂う重力の波に、周りにいた優人やユイリー、他のガールズギアたちは翻弄され吹き飛ばされる。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
彼女の目が真っ赤に染まり、黒い波が彼女の周りを覆う。
カミーラの顔は憎しみに染まり、もう誰にも聞く耳を持たなかった。
「よくも、よくもよくも我が大母<メーテール>様を殺してくれたな! 貴様ら、許しはしないぞ! この身を持って、お前ら、いやこの街含めて、すべてを吹き飛ばしてやる!!!!」
そう絶叫すると一つの小さな重力球を生成させた。そしてその重力球を高速で回転させる。その重力球は回転と自らの重力により押しつぶされ、小さくなっていく。
「あれは……!」
「マイクロブラックホールでも生成させるつもりか!」
「あれを下に投げつけられたら、首都どころか地球が危険です!」
優人は即座に判断した。今、自分ならあれを止められる。たとえ壊れたとしても。
そう思った瞬間、プラズマジェットを全開にし、<カミーラ>へと突撃していった。
いや、正確には<カミーラ>を挟んだマイクロブラックホールの卵の方へと。
「貴様何をする!?」
<カミーラ>の問には答えず、そのままMBHの卵に体当りして前進し、そのまま<カミーラ>にぶちかます。そこで彼は止まらず、優人は彼女と共に上昇していった。
「何を……!?」
「言っただろ! お前を助けてやるって……!!」
「……!?」
優人は叫びながら<パンテオン>などにリンクし<カミーラ>をハッキング。その人格OSのコピーを開始する。人格OSだけではなく、彼女に搭載されている超技術も含めてだ。
超高速でデータが転送されていく。
<カミーラ>はハッキングを妨害することもできたがしなかった。ただ、自分のターゲットが取った行動に呆然としていた。
「莫迦な……、お前も死ぬぞ!」
「死なねーよ。ちょっとばっか、仕掛けをしといたんだ」
そう優人は微笑った。
既に二人の体は猛烈な重力によりバラバラになり始めていた。
それでも優人は飛ぶのをやめなかった。
自分が崩壊していくのを体感しながら、<カミーラ>は呆れ顔で、
「お主は本当に莫迦じゃな……」
そう言った直後、彼女の皮肉な笑みはちぎれていった。
「ご主人さま……」
ユイリーは光と闇が入り混じった球が遠ざかり、小さくなっていくのを見届けていた。
そして大きくため息を吐くなり、
「本当に、お莫迦な方なんですから」
そうつぶやいて、微笑んだ。
その直後、光球が弾けた。
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