第8話 副将の能力値


 ベニャト


 統率 65

 武勇 55

 知略 70

 内政 40

 外交 25


 得意戦法 「奇襲攻撃」



 ロドリゴ


 統率 50

 武勇 60

 知略 45

 内政 50

 外交 60


 得意戦法 無し


『これが二人のステータスです。平均的な将ですね。それほど差異はありませんが、奇襲攻撃を行うならばベニャトは従軍させた方がいいでしょう』


「これが平均的な値なら、マルガリータの武勇と統率の能力値が 100 を越えてる凄さと知略・内政・外交の値が一桁のヤバさが良くわかるな……」


 夕夏ゆかは天を仰いだ。


「そうだね~。あれ ? この矢印は何~ ? 」


 うたは画面の右端に表示された矢印を指さした。


『副将に任命できる将の忠誠心や士気、それに心の声を表示できるページですよ。副将は二名まで任命できますが、忠誠心や士気が極度に低いと戦線を離脱する可能性があるので、それを踏まえて選んでください』


 彼女の薬指のリングがそれに対して丁寧に説明を返す。


「それも見ておかないとな……。特にベニャトは嫌味ったらしいことをニヤけた顔で言ってきたしな……。忠誠心が低いんだろうな」


「逆にロドリゴさんはマルガリータさんと一緒に突撃する勢いだったもんね~。きっと熱い男なんだよ~。もしかしたらマルガリータのことを想っていて、せめて最後は一緒に散りたいとか考えてるのかも~」


 映画を撮影する際、隙あらば原作にはない恋愛要素をぶち込んでくる日本映画界のような発言を詩がする。


「……切ないな……。なんとかして二人を生還させなきゃな」


 その発言は、同じく女の子である夕夏の琴線にも触れた。


「そうだね~ ! きっとこの絶体絶命の状況を共に乗り越えたら、急接近するんだよ~ ! 吊り橋効果だよ~ ! 」


『では次のページを表示します』


 きゃっきゃっと盛り上がる二人とは正反対に冷静な声でリングの音声が発せられた。


 ベニャト


 忠誠心 97

 士気  92



 ロドリゴ


 忠誠心  2

 士気   9



「え ? これって逆じゃないの ? 」


 夕夏が間の抜けた声を出す。


 あまりに彼女達の予想と乖離した数値を見て。


「ゆ、夕夏ちゃん~ ! 二人の心の声を見て~ ! 」


 詩の指摘に、夕夏は改めて画面を見やる。


 ベニャト「マルガリータ様は花びらが散るように……美しいあの方に相応しく美しい最後を迎えるつもりだ。あの方はまだその才を存分に咲かせていないというのに……。ここは泥に塗れてでも生き延びなければならない。泥沼から生えても、美しい花を咲かせる蓮華のような花だってあるんだ。あの方はきっといつか大輪の華を咲かせるはず。俺はそのためだったら泥になってやる。あの方のためなら……」


「ま、間違いない。このオッサン……ツンデレって奴だ…… ! 」


 夕夏は若干、画面から身を引いた。


「マルガリータさんのために汚れ役をやる気まんまんだね~ ! 」


「そうだな……。じゃあロドリゴの心の声は…… ? 」


 ロドリゴ「ククク…… ! 」


「なんで笑い声だけなんだよ !? しかもこれ絶対、良からぬことを考えてる奴の笑い方じゃないか ! 」


 夕夏は激昂する。


「でもなんで~ !? 魔族がこの山城を突破したら人間全体が危ないのに~ !? 」


 詩は頭を抱える。


『それはとりあえず棚上げしておきましょう。今はそれを踏まえた上で部隊の編成と布陣を考えてください』


「……棚上げした棚ごと落ちてきて大怪我しそうなほど重い問題だと思うんだが……」


 ぶつぶつと文句を言いながら、夕夏と詩は話し合い、リングからマルガリータへ軍神の託宣として下される指示を決めた。


────


 重いドアを蹴破けやぶる勢いで、いや実際に蹴破られたドアが吹き飛び、部屋から物凄い勢いでマルガリータが飛び出してきた。


「ベニャト ! ベニャト ! 」


「……そんなに大きな声で呼ばなくても聞こえてますよ。なんですかい ? 」


「とにかく来てくれ ! 」


 先ほどの諦観ていかんしたような態度とは違い、明らかにマルガリータ姫は興奮状態にあった。


 そして部屋に招き入れたベニャトに、机の上に広げた山道の地図を指し示す。


「ここだ ! 今からここに布陣する ! 」


「……ここか。できなくはないですが……連れていけるのは精々 100 人ですぜ。それにここはほとんど崖の上だ。ここに辿り着き、駆け下りて攻撃するなら、兵士に重装させることもできませんぜ。それに……何よりもこれはあんたの大嫌いな奇襲攻撃だ。それでもいいんですかい ? 」


「かまわん…… ! 私にとって奇襲はギャンブルとしか思えぬから好かぬが……確実に勝てる奇襲攻撃ならば躊躇ためらう理由もない ! 」


 マルガリータは欄干で見せた花のような笑みではなく、肉食獣のように目を細めてんだ。


 ベニャトは背中に走った電流をおくびにも出さずに、声のトーンを変えずに、問う。


「確実に勝てる ? 俺達は相手の大将がどんな魔族かもわからないんですぜ ? 部屋にいる間に何かあったのか ? 」


 彼自身も好きでは無い、いつもの嫌らしい顔だ。


「軍神様の託宣が下ったのだ ! 軍神様の策なのだから勝利は確定している ! 」


 どこか陶酔したようにマルガリータは言った。


 そんなバカな……とベニャトがそれを否定する前に、彼女は急に彼に向き直り、じっとその黒い瞳を見つめる。


 ベニャトはその深い青色の瞳に吸い込まれそうな気がして、たじろいだ。


「それから……軍神様はお前を誰よりも信頼して従軍させろとおっしゃった。頼むぞ…… ! 」


「え ? あ、ああ……」


「よし ! すぐに出陣するぞ ! 」


 踵を返して、マルガリータは門へ向かう。


 それはまるで神話の戦乙女ワルキューレのような凛々しい姿であった。


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