第3話 商品の実演
『あらぁ、ボブ、どうしたの ? その怪我は ? 』
エルフの女性、アナは満面の笑みでボブに問う。
『いや、まいったよ。どこの誰だか知らないが僕のベッドの下に転移魔法陣を仕込んだ奴がいて、そこに
包帯の隙間からボブの爽やかな笑顔の一部が覗いた。
「ベッドの下の男」というアメリカ発祥の都市伝説がある。
一人暮らしをしている女性の部屋に友人が遊びに来て、部屋にはベッドが一つしかないため、自分はベッドに寝て、友人は床に布団を敷いて寝てもらうことにした。
寝ようとする部屋主の女性に、友人は唐突に外へ出ようと誘う。
あまりにしつこく誘うので、部屋を出ると、友人は青褪めた顔で彼女に「ベッドの下に斧を持った男がうずくまっている」と言った、という話だ。
「うわ~ ! 私のベッドの下に
「なんで私が詩のベッドの下に潜んでるんだよ ! 」
夕夏は軽く詩にツッコむが、確かにベッドの下に人間の男が潜んでいるだけでも都市伝説になるくらいの恐ろしさなのだから、ベッドの下に死神のような容貌の
『それにしても一体誰がそんなものをベッドの下に仕込んだのかしらね』
エルフが、にやけてしまう口元を必死で抑えながら言った。
『さあね。もしかしたら女性にモテすぎる僕を妬んだ男かもしれないね。そんなことをする暇があれば、少しでも自分を磨いた方がいいぜ ! 』
ボブは包帯の巻かれた手の親指を上げる。
『あら ? 私の推理だと犯人はあなたの前世が
同じ町内のお優しいご婦人が与える餌に惹かれて集まっている野良猫が玄関前に遺していったウンコを見るような瞳でボブを見ながら、アナは彼に薬瓶を手渡す。
『よし ! これで身体が回復して動くようになれば寂しがっている女の子達の元へ行けるようになる ! 』
『番組内で迷惑なつきまとい行為を行う宣言をするのをやめてもらえるかしら ? 』
ボブは包帯の巻かれた右手で瓶を呷った。
次の瞬間、彼の身体は白い光を放つ。
『ハハッ ! 治ったぞ ! 見たかい !? 今の
『ええ ! どうせ星なら超新星爆発でも起こして木端微塵になればもっと良かったのにね ! 』
ものすごい勢いで身体に巻かれた包帯とギブスを自らの手で取り除いていくボブに張り付けた笑顔でアナが言った。
「……このボブのベッドの下に
「そうだね~。アナさんがボブさんを見る目がずっと笑ってないもんね~」
そう笑顔でいう詩の目も笑ってはいなかった。
それに気づいた夕夏が何かを言う前に画面の中はどんどん進行していく。
『さて ! 今、素晴らしい効能を見せた『
「……いくらするんだろう~ ? 私が買える値段だったらいいんだど……」
詩は両手をぎゅっと握りしめて画面を見つめる。
「なあ詩……砂希先輩のケガをなんとかしたいっていう気持ちはわかるけど……こんなのインチキに決まってるよ」
夕夏のもっともな指摘に
『……軍神様と契約して神具『軍神の加護』を装備していただくことです ! ただし応募資格は純潔な乙女に限りますのでご注意ください ! 我こそは、という血気盛んな純情乙女は是非ともこの機会に『
応募資格が純潔な乙女なら、キミは到底、天地がひっくり返っても応募できないね、と肩をすくめて言うボブを渇いた笑いで無視しながら、アナは続ける。
『取引をご希望なさる方は今から画面に映る魔法陣に名前を記入した紙を触れさせてください ! 何名様でも同時にご応募していただいてもかまいませんが、必ずご本人がお名前をご記入なさってくださいね ! 厳正な抽選の上、当選者には商品の発送をもって発表に代えさせていただきます ! 』
そして画面は白地の上に黒い線で円形の幾何学模様が描かれる。
その瞬間、詩は鞄から正方形の大きめの付箋を取り出す。
「詩……やめとけよ」
「大丈夫だよ~。もし詐欺みたいな契約でも、日本はハンコ文化だからサインだけじゃ重要な案件は成立しないから~」
「あっちがサイン文化だったらどうすんだよ……いや、そうじゃなくて……」
「……もしかして私が『純潔な乙女』かどうか疑ってる~ ? ひどい~ ! 夕夏ちゃんは私のことを異世界転移もののチョロインくらいに貞操観念のない女だと思ってるんだ~ ! 」
「そんなこと思ってないって ! やめとけって ! どうせテレビ画面に付箋が張り付くだけだよ」
「やってみないとわからないよ~ ? 夕夏ちゃんも名前書いてよ~。抽選だって言ってたから一人でも多い方が確率上がるから~ ! 」
「……わかったよ」
小学生の頃から書道教室に通っている詩の綺麗なフルネームの横に少々乱雑な夕夏の名が書かれた。
「それじゃあ、いくよ~ ! 」
詩が恐る恐る彼女達の名が記された付箋をテレビ画面に張り付ける。
そして詩が指を放した瞬間、それは消えた。
「え…… ? どこいった ? 」
夕夏の惚けたような声が広いリビングに響いた。
次の瞬間、画面の魔法陣が輝き出す。
光が収まり、目を開けた二人は信じられないものを見た。
「『
「そ、そんなバカな……」
茫然とする夕夏を尻目に詩は青い薬瓶を一本掴んで、飛び跳ねるようにつま先立ちで走り出す。
「まだ病院の面会時間大丈夫だよね~ !? 私、砂希ちゃん先輩のところに行ってくる~ ! 」
「お、おい」
詩は振り返りもせずにリビングを出て、階段をドタドタと下りていった。
残された夕夏は放心したようにリビングを見渡した。
「いや……多くね ? どこに保管しときゃいいんだよ……」
彼女は二十畳ほどの広いリビングの床一面に並ぶ『
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