第24話 逃がさない

「死ね、虫けら共ォ!」


 また深淵を使った攻撃……!


「奴の攻撃は俺に任せろ! 《暴食剣・万物喰いグラトニー》!」


 喰って、喰って、喰って、喰い散らかす!


「そっちがその気なら、こっちもです! エタちゃん! セラちゃん!」


 セラとエタが同時にアビスへ手を向ける。


「《聖氷のホーリーアイス・破壊槍デストラクション》! 《ブラックボックス》!」


 聖水を凍らせた無数の槍と、時空間魔法の合わせ技。


 効果はアビスの深淵を使った魔法攻撃と同じ。四方八方から氷の槍がアビスを襲う。


「なっ!?」


 一瞬体が硬直したように見えたが、身を翻らせ、その全てを避けた。


「馬鹿なっ! 死肉が光を使うだと……!?」


「アンデッドだから光属性を使えないなんて、思わないことですね」


「クソッ……!」


 っ! 上空に逃げる気か……!


「あら、どこに行くのかしら?」


「逃がさないわよ!」


 突如、アビスの目の前に現れたレアナとセツナ。エタの時空間魔法で移動したのか……!


「ドケェ!」


 アビスの鋭い爪が、セツナを切り裂こうとする。それに対して、セツナは無防備に腕を組んでいるだけだ。


「セツナ……!」


「安心するのだ、ジオウ殿」


 隣にいたシュユが、俺の肩に手を置く。


 いや、安心しろって言われても……!


「ガアアアアアアアッッッ!!!!」




 スカッ。




「アア……ぁ……?」


 と、通り抜けた……? そうか、精霊魔法……!


 当たると思っていた攻撃が当たらず、アビスは上空でバランスを崩す。


 その目の前にいるのは、レーヴァテインを掲げているレアナだ。


 レーヴァテインの炎は赤から蒼へ、蒼から白へ──黄金へ、変わる。


「宝舞神楽・聖炎剣!」


「チッ……! 《カオス・ネイル》!」


 アビスの指が巨大化し、鋭利で凶悪な爪へ変化する。


 パワー、スピード、動体視力が互角なのか、互いに全ての攻撃が弾かれ、火花が散る。


 ……いや、僅かにレアナの方が押してる……! かすり傷程度だが、アビスの体に傷が付いてるぞ……!


 恐らく、実際に魔眼を持っているレアナの方が、アビスの動きが良く見えてるんだ。それに加えて、アビスの体はまだ体勢を整え切れてない!


「おりゃあああああーーーー!!!!」


 ザンッ! レーヴァテインが、アビスの爪を斬り落とした。


「ぐっ……おぉっ……!?」


 まさか自分の爪が斬られると思っていなかったのか、動揺を隠せないでいるアビス。


「《聖炎釘ホーリー・ヒート・ネイル》!」


 その隙を逃さず、間髪入れずに腹部へレーヴァテインを突き刺す。


「シュユ、飛ばすわよ!」


 レアナは柄頭へ思い切り掌底を叩き込むと、全ての勢いが乗ったアビスは、まるで流星のようにこっちへ向かって飛んできた。


「うむ! 《輝王の呪鎖シャイニング・チェーン》!」


 突如、シュユの左右に現れた巨大な光の柱。そこから、無数の鎖がアビスを雁字搦めにする。


 飛ばされた勢いは殺されず俺達を通り過ぎ……パチンコのように、またレアナ達の方へ打ち出される。


「セツナ!」


「ええ、《聖風砲グランド・キャノン》!」


 飛んで来たアビスへ、圧縮された風の砲弾が雨のように撃ち込まれた。


 勢いは更に加速──再度打ち出されたアビスの前に、今度はレアナが立ち塞がる。


 構えた右腕から、黄金の炎が噴き上がり、レアナの眼も黄金に光り輝いた。


「深淵に散れ! 《聖炎・拳ホーリー・ブロー》!!!!」


 ゴオォッッッ──!!!!


 レアナの拳は、見事アビスの顔面を捉え……シュユの《輝王の呪鎖シャイニング・チェーン》をも粉々に砕き、アビスを地面に叩き付けた。


 何この一連の流れ、えっっっぐ……。


「ぜぇっ、はぁっ、ぜぇっ……ま、魔力スッカラカンよ……!」


「流石に、これで倒れてくれるといいんですが……」


「アビスを押さえ付けるのに、全魔力を使ってしまったぞ」


「私は辛うじて残ってるけど、フルで戦うのは無理そうね……」


 四人共息も絶え絶えだが、油断なくアビスの方を向いている。


「……く、くくくく……まさ、か……この俺が、ここまでのダメージを負うとはなッ……!」


 チッ、やっぱ生きてたか……!


「え゛っ。く、首が捻れて一八〇度回転して、その上頭が半分吹っ飛んでるのに、生きてるわよ!?」


 説明ありがとうレアナ。


「悪魔は大体そんなもんだ」


「人体構造どうなってるのよ……!?」


 悪魔にそんな常識は通用しないぞ。


 だが、こいつらの光属性を付与した魔法は、並の悪魔が食らえば塵も残らず消し飛ぶレベルだった。明らかに致命傷だが、生きてるどころか、肉体が残ってること自体が異常だ。


「かふっ……に、肉体の損傷が激しい、な……これは、回復させなければなるまい……」


「っ! ジオウ、あいつ深淵に逃げる気よ!」


 何!?


 見ると、まるで沼に沈むように、ゆっくりと深淵に沈んで行っている。


 このまま逃がす訳には……!


「俺は悪魔だ。貴様ら人間、エルフより寿命は長い……ゆっくり回復に専念し、数千年先の未来で、貴様らのいなくなった世界を蹂躙してやる……!」


「なっ……!? テメェ卑怯だぞ……!」


「悪魔にとって、卑怯、狡猾、残虐……全て褒め言葉だ。……さらばだ、強き人間よ」


「待っ……!」


 どぷんっ──。


 ……消えた、完全に……。


 あの嫌な気配も、何も感じられない……。


「クソが……!」


 悪魔を……しかも、世界を滅ぼす程の力を持った悪魔を逃がすなんて……!


「ジオウ……」


「ジオウさん……」


「ジオウ殿……」


「ジオウ君……」


 撃退したと言えば聞こえはいい。だが、今の人類の問題を、未来に先延ばしにしただけだ。それに、いつレアナの眼を狙ってくるとも限らない。


 常にレアナに付きっきりの警護を、この先ずっと続けるのは無理だ。


 どうする……どうする……!


『お兄ちゃん、ちょっと腕借りる、です』


「……え、クゥ?」


 右腕がピクピク疼く。と、俺の意思に関係なく動き……右腕が、空間にずぶずぶと穴を開けるように入っていく。


「えっ、え!?」


『ん〜……いた、です。むんっ』


 勢いよく引かれる腕。


 その手には、アビスの首が掴まれていて……愕然とするアビスと目が合った。


『クゥ、さっき万物喰いので深淵をちょっと食べた、です。少しだけなら、深淵に介入出来るようになった、です。えっへん』


 ……へぇ……。


 ダラダラと汗を垂らすアビス。


 自分でも分かるほど、人の悪い笑みを浮かべる俺。


 もう、逃がさねぇぞ。

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