第23話 憤怒の形相

「リエン! 練った魔力でレアナに光属性付与! レアナはレーヴァテインに全魔力を注げ!」


「了解!」


「分かりました!」


 リエンの操作で、光属性の使えるアンデッドマジシャンがレアナを囲み、光属性を付与する。


「シュユ、セツナ! お前達に俺の魔力を預ける! 上手く使えよ!」


「うむ!」


「分かったわ」


 シュユとセツナの背中に手を起き、練った高純度の魔力を流し込む。


「う、おっ……!? とんでもないな、これは……!」


「凄い……こんな高純度で濃厚な魔力、初めて……!」


 うっ……二人に魔力を流し込んだせいで、俺の魔力が底を突きそうだ……。


 だが……まだ、動けるなっ。


『お兄ちゃん、これからクゥの視界を、お兄ちゃんに繋げる、です。これでお兄ちゃんも、深淵の出入口を見ること出来る、です』


 ナイスだ、クゥ……!


「うっ……!?」


 脳がギュッと縮むような感覚。だがそれも一瞬で終わり……見えている世界が、ガラリと変わった。


 まるで色が反転したような、異様な景色。


 これが、クゥの見えてる世界なのか……?


「──むっ。これは……嫌な気配だ……!」


 っ! アビスの魔法……!


 視界の端……俺達の右側が、僅かに歪むのが見える。


 そこへ向かってアンサラーを振るうと、タイミングよく現れた《ダークスピア》を斬り裂いた。


 なるほど、この空間の歪みが深淵の穴か……!


「虫けらが……!」


 集中……集中……!


空中歩法エア・ウォーク》!


 上、下、左、右、後、前、上、上、右、前!


 魔法も、深淵の魔物も、現れた瞬間に斬り殺す……!


「……解せぬ……解せぬ、解せぬ、解せぬっ! 貴様、それ程の速さと力をどこで手に入れた!?」


「テメェの体の持ち主なら分かるだろうよ!」


「知らぬ! この体の記憶は貴様を愚鈍と認識している! 愚鈍のジオウ! それが貴様だ、ゴミ虫めが! 死ねっ! 死ねジオウーーーーーーーー!!!!」


 ぐっ!? 魔法の連撃……!?


「クゥ、纏え!」


『はい、です!』


 右腕から溢れ出た黒いオーラがアンサラーに纒わり付く。


 薄く、鋭く、長く……!


「《暴食剣・万物喰いグラトニー》!」


 虚空に向けてアンサラーを振るう。


 アンサラーに纒わり付くオーラが、まるで鞭のようにしなりながら伸び、アビスの魔法を喰らっていく。


 少し距離があろうと、《暴食》の力を持つオーラの前では無意味……!


「クズ虫が……この俺を怒らせるなよ……!」


『! お兄ちゃん、奴が動く、です!』


 分かってる!


 アビスが翼を羽ばたかせ、拳を握り締めているのが見える……!


「死ね!」


 っ!? 速っ──!


 見るからに、純粋なパワーも敵わない。それに加えてスピードも乗ってる……! まずいっ、これは俺には受け切れない……!


 ──ぁ、この感覚……《夢現》の発動条件が満たされた時の感覚だ……!


 まずいっ、使わなきゃ……死──。






「さあああせえええるうううかあああああ!!!!」


「ぐべっ!?」


 ……な、何だ……? 何かが、アビスを吹き飛ばした……?


「ごめんね、ちょっと時間掛かったわ」


 ……この小さな背中。それに、あれだけのパワー……レアナ……?


 レアナは肩口から振り返り、にこりと笑う。


「もう心配ないわ。ジオウボスはゆっくり休んで──あとは私達に任せなさい」


 ……いつの間にか、レアナの隣にリエン、シュユ、セツナが並んでいた。


 全員が全員……眩い光を放ちながら。


「ジオウさんは、ここまで本当に頑張って来ましたからね」


「エンパイオの坊やと戦い、私と戦い、ギガント・デーモンの義手を手に入れ、レイガの坊や、クロとの連戦……」


「それに、姉様の壊れかけた心の支えとなり、私と姉様を再会させてくれた。働きすぎもいい所だ」


 お、お前ら……。


「ジオウ、一つ言っておくわ。……上が休まず働きすぎると、下も『あぁ、上もやってるならやらなきゃって』気にさせられるの。ここ最近休みなんて無かったし……いいでしょ?」


 ……え、何のこと?


「終わったら海!」


「可愛い水着です!」


「焼きそばなのだ!」


「スイカ割りよ」


 …………。俺、唖然。


 ……だが……。


「……ぷっ……ははっ……はははははっ! ああ、終わったらな!」


 ミミさんの迎え、エルフの里の復興、それに加えて休暇で海、か。


 ……あれ、これ休みって言えるの? 予定が増えただけじゃない?


 どうせ休むなら、館でのんびりしたかったが……ま、部下のワガママを聞くのも、上司の役目だよな。


 苦笑いを浮かべていると、吹き飛んだアビスが鼻血を垂らし、俺達へ向かって憤怒の形相を浮かべていた。


「貴様ら……この俺に勝てるつもりでいるのか……地を這う虫けらの分際でェ!」


 おぉ……憎悪の塊みたいな魔力だ……。


 だけど、不思議だな。こいつらと一緒にいると……負ける気がしない。


「アビス……決着だ」


 俺達は、誰ともなく一斉にアビスへ向けて駆け出していった──。

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