第41話 知識欲
「……酷いな……」
時空間魔法で繋がった先。そこは先日見た清らかで神聖な空間ではなく……めくれ上がった地面、血、そして凍結した瓦礫に覆われていた。
これが、アデシャ族長とセツナの戦闘跡か……流石に凄まじいな……。
いや、跡って言うのは語弊があるな。
絶賛、戦闘中みたいだ。
「《
「《
アデシャ族長の攻撃を、涼しい顔で受けきるセツナ。ぶっちゃけアデシャ族長の魔法の腕は、強化しているリエンのアンデッド軍以上のレベルだ。それを受けるなんて……クロのスキルで、セツナも相応に強化されてるみたいだな。
アデシャ族長は精神魔法で操られて本調子じゃないみたいだが……その状態でも、強すぎるくらいだ。確かに、素の状態でセツナと戦えばまず間違いなく勝てるだろう。
だが、今は強制的に演舞を踊らされ、ダメージも深い。早く手助けしねーとな……。
「レアナ、リエン、頼めるか」
「任せてちょうだい」
「アンデッドは使えませんが、行けます」
よし。それと……。
「シュユ、大丈夫か?」
「……セツナは敵だ。迷いはない」
……強いな、シュユは。
「じゃあ……GO!」
合図と共に、三人が同時に魔法を発動する。
「《
「《追い風》!」
「《円錐結界》!」
レアナが足裏から炎を噴出させ、更にシュユによる《追い風》で炎の威力とスピードを後押しし、リエンの《円錐結界》で風の抵抗を無くす。
加速なんていらない。初速からトップスピード。
魔剣レーヴァテインを抜き、蒼炎を辺りに撒き散らして構える。
「ハァッ!」
完全に死角。それにスピードも申し分ない。これで……!
「立体魔法陣……」
なっ……立体魔法陣!?
「《多重・
レアナの刃が届く直前、セツナを中心に、押し出すようにして立体の魔法陣が作り出された。それらが瞬時に形を変え、十枚の《
数にして三枚を割り、四枚目にひびを入れたところで、レアナの攻撃は止まった。
「こ……んのっ……!」
「……驚いたわ。まさか、立体魔法陣で発動したこの魔法を三枚も割るなんて」
チッ。こっちには気付いてたってわけか……。
それに立体魔法陣て……噂でしか聞いたことのない、超高等技術だぞ……。
立体魔法陣は、球体上の魔法陣を使って魔力の循環を半永久的に行うものだ。一度発動すれば、発動した本人が止めない限り永遠に魔法が発動し続ける。
その立体魔法陣に相性のいい魔法。それこそが、結界等の防御魔法にあたる。
魔力が半永久的に供給されるから、その強度は並の防御魔法の数倍は硬いとされている。
パワー系のレアナの、しかも全力の攻撃でも三枚しか割れないのは……キツすぎるぞ……。
アンサラーを抜き、左手で構える。くそ、左手だけだと違和感しかないな。
セツナを睨みつけていると、奴はゆっくりと首を動かして俺を見る。
「……クロ様からの連絡でまさかとは思ったけど……。そう、エンパイオの坊やを倒したのは、本当だったみたいね」
口角を上げて、不敵に笑う。
今までの無機質な笑みとは違う。玩具を見つけた子供のような、無邪気さが見え隠れする不気味な笑顔。
「エンパイオの坊やは、私と対等に渡り合えた唯一の人間。そんな彼を殺すなんて、一体どういった手を使ったのかしら?」
……言えない。
セツナの問に無言で返す。と、セツナは一層口角を上げた。
「ふふっ。いいわよ、答えなくて。……力尽くで答えさせるから」
ゴオォッッッ──!!!!!
「ぐっ……!」
なんつー魔力……!? これが本気のセツナ……エンパイオと遜色ない……いや、僅かにセツナの方が上……!?
「キャッ……!」
「レアナちゃん……!」
魔力によって吹き飛ばされたレアナ。それを、リエンが辛うじてキャッチした。
「シュユ。セツナって、昔からあんなんだったのか?」
「ああ……クロとやらの力でパワーアップしているとは言え、セツナの魔力量はサシェス族でもトップだった。それがここまで力をつけたとなると……恐らく、アデシャ族長より多い」
マジかよ……。
こっちは三人ともが手負いで本調子じゃない。アデシャ族長も、操られてるのかボロボロになりながらも宝舞神楽を踊っている。本気を出せる状態じゃないだろう。
「……この子達、貴方のスキルでパワーアップしているみたいね。クロ様に聞いたわ。……なら、貴方から殺す」
「っ!?」
近っ、速っ……!? いつの間に……!
「《
《
っ、シュユ……!?
シュユが発動した二つの防御魔法が、俺とセツナを隔てる。今だ……!
隙をついて離れる。が、セツナの拳が二つの防御魔法を粉々に砕いた。
「……いいわよ、シュユ。今のは中々硬かったわ」
「チッ……! 《
光の刃が雨のように降り注ぐ。俺のスピードでも避け切るのは至難な程の数を……セツナは、涼しい顔で全て受けた。辛うじて四枚目の《
「シュユちゃん下がってください! 《
リエンが、俺の知らない魔法を発動する。
その瞬間、リエンの側にいたレアナが消え……次の瞬間には、レーヴァテインを振り切った体勢で現れたレアナにより、セツナの《
「なっ……!?」
セツナの顔色が変わった……! 攻めるなら今!
「っ、ぜぇっ、はぁっ、ぜぇっ……!」
リエンは今の得体の知れない魔法で息切れをしている。このチャンス、逃さねぇ!
「《
《
シュユの捕縛と、スピードとパワーに特化した一本の矢。
「宝舞神楽・蒼炎剣!」
加えて、レアナの連撃。
そして、レアナの連撃に合わせアンサラーを投擲。更に加速魔法を付与……!
行け──!
「────」
セツナの口が動いたのが見え、そして──
「「「「……は?」」」」
え、すり抜……え?
「チッ、またそれか……!」
アデシャ族長は苦虫を噛み潰したような顔をしてるが……何だよ、それ……!?
「《
「キャッ!」
「うっ……!」
レアナとシュユが魔法によって吹き飛ばされる。
「レアナ、シュユ! がっ……!?」
く、首を鷲掴みに……!
「ふーん……強化されてない人間の首というのは、とっても折りやすそうね」
ゾクッ……。
ち、く、しょ……!
「《ゆ……め……うつ……つ……》」
──カチッ──
意識が途切れる寸前。全ての現象がまるで夢のような感覚に陥り……俺も気付かない間に、セツナの手を逃れて数メートル離れた場所に佇んでいた。
「……へぇ。なるほど……」
くそっ、使わされたか……!
セツナは思考を咀嚼するような顔をし、今までにないほど口角を上げた。まるで、三日月のように。
「私の知らない魔法……私の知らない知識……素晴らしい……素晴ラシイワァ」
……なんつー笑みをしてんだ、この女……。
「《
こいつもイカレポンチか!
「……姉様の知識欲お化けも拍車が掛かってるな……」
知識欲!? 今、知識欲っつったか!? これそんなもんじゃないぞ絶対! てかシュユ、ドン引きし過ぎて姉様呼びになってるぞ!
カタカタ痙攣してるセツナから離れる。怖すぎだろこいつ。
「レアナ! あのすり抜けるの何だ! 鑑定出来たか!?」
「え? あ。え、ええ! でもあいつの魔法、ヤバいわよ! 今の私達じゃ太刀打ち出来ない……!」
「教えてくれ、頼む!」
まだブツブツ言ってる今がチャンスだ……!
「……奴の魔法は精霊魔法。しかも、精霊の力を使って発動するタイプじゃなく……精霊そのものに成る魔法よ。実態のない精霊に成る。そうすることで、私達の魔法をすり抜けたの!」
…………。
あー、なるほどぉ。これは勝てんわ。はっはっは。
……笑えねぇ。
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