第6話 人妻感
アパートに向かいながら、今までの話と騎士崩れについて考えてみた。
レアナを狙った騎士崩れが、俺に捕まりそうになると同時に、《ウィンドカッター》で自分の首を斬った。
二〇年前。エルフを売った冒険者も、拷問時に《ウィンドカッター》で自分の首を斬った。だけど騎士崩れはともかく、こっちは風魔法を使えなかった……。
共通点はある。
そして背後には、あのクロとかいう男がいると思う。まだハッキリとした確証はないけど……。
レアナのいるアパートに着くと、チャイムを鳴らす。
中からパタパタとリズミカルな足音が聞こえてきた。
「ジオウ、おかえりなさい」
「ああ、ただい、ま"っ!?」
れ、レアナ、その格好……。
扉を開けた先には、レアナが部屋着に黄色のエプロンという格好で出迎えてくれた。手にはお玉を持っていて、髪の毛はいつものツーサイドアップではなく緩い三つ編みにしている。
なんつーかその……人妻感が凄い。
「…………」
「……ちょっと、何変な顔してるのよ」
「……えっ、あ、いや……その格好……」
「これ?」
くるっと一回り。ふわっと浮かぶミニスカートが目の毒です。
「私、部屋だとこんな感じよ? いつも二人の前にいる時は、冒険者用の服。私だって女の子だもの。オシャレくらいしたいわ」
そう言えば、確かに冒険者として行動する時は、似たような服しか見たことない。なんというか、新鮮だな。
「それより、今夕飯作ってたの。勿論食べていくでしょ? と言うか食べていきなさい。ジオウのために作ったんだから」
「えっ」
な、なんかそう言われると、物凄い小っ恥ずかしい感じがするな……。
「……食べないの?」
っ……その寂しそうな顔、反則だ……。
「……頂くよ」
「良かった! じゃあ手を洗って来なさい。うがいもしっかりね!」
またパタパタと音を立てて部屋の中へ戻っていく。
……今までレアナの事をパワー馬鹿とか、子供っぽいとか思ってたが……家庭的な新しい一面を見たみたいで、ちょっとドキドキする……。
い、いかんいかん。レアナは大切な仲間だ。うん、仲間だ仲間。
手洗いうがいをしっかりしてリビングに行くと、美味そうな匂いが鼻をくすぐった。
「あ、ジオウさん。おかえりなさい」
「ん? リエンもいたのか。ただいま」
リエンが鍋を持って、にこやかに出迎えてくれた。エプロンは、レアナが着ている物の色違い、ピンク色だった。
「レアナちゃんにお料理を教えてもらってたんです。凄いんですよ、レアナちゃん。びっくりするくらい手際が良いんです」
「そ、そんなんでもないわよ……」
ゆるふわ三つ編みをモフモフとするレアナ。ああ、この照れてる感じ、久々な気がする。
「ジオウは座ってなさい。もう少しで出来るから」
「あ、ああ。じゃあお言葉に甘えて」
席に座って、キッチンでキャッキャウフフと料理をする二人を見守る。……こうして見ると、姉妹というか母娘というか……幸せな気持ちになるな……。
エタが次々に料理を運んでくる。
メインは分厚いステーキ。それにトマトスープ、グラタン、シーザーサラダ、こんがり焼けたバゲット、チーズが並べられる。
最後に、エタが赤ワインをグラスに注ぎ入れた。
ぐぅ〜。あ、やべっ、腹鳴った。
「ふふ。せっかちさんもいる事だし、頂きましょう」
円卓の俺の右前にレアナ、左前にリエンが座り、手を合わせる。言葉は必要ない。心の中で、心からの感謝の気持ちを述べる。
……よし。
「……〜〜〜〜っ! うっめぇ……!」
「ほっ……良かった」
「人に美味しいと言ってもらえるのは、嬉しいものですね」
レアナとリエンが軽くハイタッチをする。
いやでも、全部とんでもなく美味いぞ。と言うか、俺の味覚にどストレートだ。
「あ、そのトマトスープ、私が作ったんですよ」
「えっ、マジで? すっげぇな」
教えてもらってここまで作れるんだったら、マジで覚えたらもっと上手くなるんじゃないか?
「グラタンは私の自信作! どう?」
「絶品」
「端的!」
いや、それ以外の言葉が見つからなかったんだが……もっと褒めた方がいいか?
「んー。二人の旦那さんになる奴は毎日こんな料理を食えると思うと、少し嫉妬すら憶えるくらい美味い」
「「っ!」」
うん、今のは自分でもこれ以上ない言葉な気がする。美味し美味し。
「……ん? 二人共顔が赤いぞ。大丈夫か?」
「んぇっ!? そそそそんな事ないわよ!?」
「そ、そうですっ! グラタンが熱くてはふはふしてるだけです!」
「お、おう……」
二人がそう言うなら、そうなんだろう。そっとしておこう……。
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