第17話 崩壊の足音

 翌日、俺はリエンに指示を出し、シノビ三人で【白虎】の動きを監視させた。


 どうやらあいつらも昨日到着したらしく、今は俺達の泊まっている宿──市長のはからいで最高級ホテル──とは違う、一番安いホテルに滞在している。


「あのレイガという男、監視している限りわがままばかり言っていますが……元からそういう男なのですか?」


「……ああ。そうだな」


 考えてみれば、昔から自己中心的な性格で、何があっても言葉は曲げず、自分の考えを貫いていく奴だった。


 力をつけ、パーティーが大きくなるにつれ、押し通せる許容範囲も大きくなっていった。どんな無茶振りでも、周囲の奴らもそれを完遂させることが出来た。


 こう言ってはなんだが、【白虎】が上手くいってたのは、俺が【白虎】にいたからだ。


 だけど……今はもう、俺はそこにはいない。


 これは誰が悪いって訳じゃない。


 俺自身もユニークスキル、《縁下》については知らなかった。


 あいつらも知らなかった。


 だが、レイガには自分の力が、元に戻った《弱った》のを、受け入れられなかった。受け入れる心の強さがなかった。


 それが今、こうして暴走している要因だ。


 このまま放置しておけば、冒険者の中でもブラックリストに入るほど落ちぶれるか、騎士崩れのように犯罪者になる。


 それを見過ごしておけば、あいつらにも、一般市民にも悪い未来しか待っていない。


 なら──


「あ、動き出しましたよ。全部で十二人。アルケミストの守護森林へ向かっています」


「──そうか。そのまま監視を続けてくれ。どうせあいつらが辿り着くまで二日掛かる。俺達はもう暫く休養をしっかりとってから向かおう」


「そうですね」


 体のあちこちを確認するが、二週間の旅の疲れはまだ癒えてなかった。こんな状態で行っても、守護森林を突っ切るどころか作戦の実行まで危うい。


 今は焦らず、のんびりとしていた方が得策だ。


 因みにリエン曰く、レアナは朝一から温泉に入りに行って、溶けきってるらしい。指示を出してないとは言え、今日一日は休む気満々の奴がいるんだ。これで無理に進もうとすれば、間違いなく激怒されるからな。触らぬ神に祟りなし、だ。


 それに俺も暫く温泉に入ってなかったし、ゆっくり羽を伸ばして休憩させてもらおう。


 ──────────


 ──【白虎】side アルケミストの守護森林前、道中──


「な、なあレイガさんっ。みんな疲れてるし、やっぱりもう暫く休んでからでも……」


「一日休んだ。十分だろ」


 ガレオンめ、まだそんなこと言ってやがるのか。他の奴らは黙って付いて来るってのによ。情けないったらありゃしねぇ。


「で、でもよ、これから向かう場所はSランクダンジョンだぜ? 今までと違うんじゃ……」


「うるせぇ、もう黙ってろ」


 ああそうだ、確かに向かう場所はSランクダンジョンだ。


 だけど、だってろくに休まずSランクダンジョンをクリアして来た。それはこいつらも分かってるはずだ。なのに急に休みたいとか、甘えるのもいい加減にして欲しい。


「…………ねぇ、アリナ。なんでこんな事になっちゃったんだろうね……」


「……分からないよ、そんな事……」


 チッ……ガレオンのせいで、またリリとアリナがグチグチ言い出しやがったぞ……。


 イライラしながらも耳に入れまいと無視して前を歩くと、リリの口からとんでもない言葉が出てきた。


「……思えば、ジオウさんを解雇した時から、どことなく調子が悪い気がするのよね……はぁ──今頃どうしてるのかな、ジオウさん……」


 ブチッ──


「リリ、アリナ。テメェらまだあんな愚鈍の野郎のことを考えてんのか……?」


「ぇっ。あ、ぃや……」


 リリとアリナが体をビクつかせ、俺から一歩引いた。


「それとも何か? テメェらも解雇されてーか? テメェらみてーなグズ女共を雇ってやったのは誰だと思ってんだ? テメェらを鍛え上げ、Sランクまで上げてやったのは誰のおかげだよ、え? おいコラ」


「「…………っ」」


 は? 何ビビってんの? 俺はただ質問してるだけだろ? 何なんだよこいつら、俺をそんなにイラつかせたいのか?


「ま、まあまあレイガさん。ここで言い争っても先には進みませんよっ。それにアルケミストの守護森林には、二人の力も必要でしょ? ね?」


「……チッ。おいリリ、アリナ。大洋館をクリアしたら、テメェらはクビだからな」


 ジオウのクソ雑魚野郎が……俺の前から消えてもむしゃくしゃさせやがる……!


 決めた。次どこかでジオウを見付けたら、完膚なきまでにミンチにしてやる……ズタズタのボロボロにして、リリとアリナの考えが勘違いだったってことを証明してやるよ……!


 そんな苛立ち不安を消すように、俺達は臆さず森を行き、アルケミストの守護森林へ向かうのだった。


 ……俺達の心が、バラバラになってるのも気付かずに……。

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