第4話 本当の気持ち

 彼女の名前は、橘紫乃たちばなしの。彼女には二つ歳の離れた恋人がいるらしい。しかし、彼が病弱な彼女には代わって都に働きに出てからは中々会う機会もなく、数年程会っていないようだ。今回は、そんな彼に向けて日頃の感謝の気持ちを伝えたいと言う。どこか寂しげな表情をしては、窓の外をぼんやりと眺める、そんな姿が印象に残った。


「今更、なんて思うのですが、いつも私のことを優先にして考えてくれる、そんな彼に一度ちゃんとお礼をしたいな。と思って依頼させて頂きました」


「とっても素敵なことだと思いますよ。きっと喜んでくれると思います。心を込めて精一杯やらせて頂きますね」


 彼はそう笑顔で答えた。クッキーや紅茶をご馳走になった後、私達はその家をあとにした。


「どんな花にするか決まったの?」


「うーん、何となくは決まっているんだけれどね。ちょっと引っかかる点があるんだ」


 なんて言って彼は表情を曇らせた。店に帰ってから私も今日の依頼内容を頭に浮かべて、構想を練ってみる。あれ、何だかおかしい。私は一つの違和感を覚えた。グルグルと渦巻くその中で、一つの光が私に向かってまるで、助けを求めるかのように瞬いているような気がした。


 ――彼女が病弱だと分かっていたら、一人街に残していくことがあるだろうか。それに、何年も会っていないのに感謝の気持ちを伝えるのは何だか少し、変ではないだろうか。そんなことを考えるうちに私は一つの答えにたどり着いた。


「ねえ、ちょっと思いついたことがあるんだけれど」


 そう彼の肩をつついて、私は言ったのだった。彼も丁度何か良い案が思い浮かんだ様で、晴れた表情で私の方に振り返った。その日の夜から朝日が昇るまで私達は語り合ったのだった。


 週末、私達は都に来ていた。街とは違ってどこも賑やかで活気に溢れている。太陽も人々に負けないくらい明るく輝いて、外にいると額に汗が湧いてくるようだった。私達は彼が居るというお店に早速向かうことにした。指定された場所は都の中心部に位置する喫茶店だ。


 軽やかなチャイムが私達の耳に響いた。店の中にいた一人の青年は私達を見つけると小さく手招きをして奥の個室へと案内した。


「お待ちしていました。紫乃から貴方達がここに来る事は聞いていましたが、どんなご要件ですか?」


 咳払いを一つして、夢雨は持ってきた鞄から花束を取り出したのだった。それを見て、青年はゴクリと唾を飲んだ。いつの間にか、涙が青年の頬を伝っては落ち、テーブルに小さな水溜まりを作ったのだった。彼自身も突然瞳から零れ出した涙に驚いているようだった。

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