第2話 花笑み
「ところで、ここは何処なのかしら?」
「まぁ、簡単に言うと高二の舞花が生きている世界が現実でAという世界線だとするならば、こっちは現実より三年遅れた世界が広がっているBという世界線ってことかな」
なんだか、分かるような分からないような。三年遅れただけと言ってもこっちの世界はまるで異世界みたいに至る所が栄えていて、現実の世界と似ても似つかない。それに、なぜ三年という絶妙な間なのだろうか。疑問は尽きることがなかった。
「変なことを聞くけれど、つまり中二の私はこちらの世界に存在しているの?」
「そうだね、楠木舞花という人間は確かに存在しているよ」
少し、頭がクラクラしてきた。簡潔にまとめるならば、三年前の世界に第三者として現れた、という訳なのだろうか。しかし、一体何をするために現れたのか。
まぁ、そんなことは一時的に忘れて、彼との話を楽しむことにした。私達は木陰で他愛のない話を陽が傾くまでし続けた。素の自分を出せて、こんなにも楽しく時間が過ぎていったのは久しぶりだった。
彼に名前は無く、人からはよく花の郵便屋さんだとか妖精さんだとか、そんな風に自由に呼ばれているらしい。
「『
彼は酷く驚いた表情をしていたが、直ぐに満面の笑みを浮かべて、喜んでくれた。頬が少し赤く染まっているように見えたのは気の所為だろうか。
「僕、初めて誰かにこんなに素敵な名前を貰った気がする。ありがとうね!」
陽が落ちかけた頃、彼が帰る時間となった。さて、私はどうしようか。私が頼れるのは今の所、彼しかいない。この土地を全く知らないままでは、一人で生活することは不可能だろう。何か言おうとしても、上手く言葉が出ず、右へ左へと彷徨う私の目を見て、彼はなにか閃いたかのように声を上げて私を見た。
「良ければ、僕のお店で働く?」
小さなお店だけどね、なんて彼は笑いながら言っていた。このチャンスを逃したらダメだ。そう心が言っている気がして私は二つ返事で承諾した。
「じゃあ、宜しくね。これは君への感謝の気持ち」
彼はそう言って鞄から小さな瓶を取り出した。硝子の中には小さな星が沢山入っていて、どれもパチパチと閃光を放ちながら輝いている。――あれ、これどこかで見たような? そんな私の気持ちは、好奇心には勝てずにどこかへ飛んでいってしまったようだった。
彼は私の目が輝いているのを見て、満足げに笑っていた。星は宙に放物線を描きながら飛んでいき、虹色に輝きながら弾け散った。まるで、花火を見ているみたいだった。それは、私が今まで見た中でも一番の美しさだった。
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