第二章 神殿地下《ダンジョン》

第10話 〈野良PT〉

□2324年7月19日


さて。雑事も済ませたことだし、ログイン!



◇◇◇



ログインすると、仮眠室のベッドで目覚めた。


ベッド以外何もない個室だ。


ふと昨日の大暴走を思い出す。

ふむ。昨日は忙しかったな。


魔物に殺されると、魔物は〈成長〉する。

一定まで成長すると〈進化〉が発生。

〈進化〉の度に爆発的に強くなっていく。


私達異邦人が昨日の事件の原因の大半を占めていた。ってことで間違いないよね?


もしかして、チュートリアルを受けていないのが原因なのかな・・・?

まぁいいや。わからないことは置いておくとしよう。




□魔法ギルド:アドリアーナの工房/仮眠室


ふー。目覚めの瞬間までリアルだな。


起き上がると、前回ログアウトした仮眠室だ。



仮眠室を出ると、工房ではアディが錬金ではなく、

手作業で調合作業をしていた。


「こんにちわ」


「おはよう?やはり、異邦人の眠りはなかなか長いね」

作業の手を止めこちらを振り返った。


「前回の大暴走の参加でレベルがそれなりに上がったようだね?」


「はい。種族とメインJobが10以上になりました!」


「おめでとう。今日の予定はきまってるかい?

この時間だと基本的に店は空いてないから、門の外で狩りをするか、

神殿地下の墓地ダンジョンのどちらかがいいと思うのだけれど?」


「調合作業の手伝いを行いたいんですけど、お邪魔でしょうか?」


「ふむ。残念ながら、今は納品の依頼はないんだよね。納品依頼の時には、こちらからお願いするよ。それに前回納品の為に、残ってたベル草の在庫を殆どを使用したから、ベル草の在庫はもうないんだよね。もし外に行くなら、ベル草取ってきてくれれば買い取らせてもらうよ?」


前回の納品量凄まじく多かったですもんね…納品の依頼もなくなりますわ…


「尤もベル草とか調合に使える素材があれば、工房を自由に使って構わない。

後は…そうだね。〈調合/10〉以上になったら〈錬金〉に関して教えてあげるよ」

〈調合/10〉近いようで遠い…


戦闘系スキルは使う機会多いから、関連するスキルが勝手に成長するけど、

生産系スキルは、生産自体殆ど手を付けてないから全然成長してないんだよね…

フィールドでベル草採取してこようかな…?



「折角だから狩りに行ってくるといいさ。暗いから気をつけてね?

他の異邦人もちらほらいるし、ギルドでPTを組んでみたらどうだい?」


ん~狩りに行ってみようかな?

でもPTか…よさげな人いるといいなぁ…

怖い人はNGで!



◇◇◇



そんなわけで冒険者ギルドに来てみた。


受付も一部閉鎖しているが、この時間でも仕事を行っているようだ。


人が並んでいないので、左側の猫(?)獣人の女性にPTに付いて聞いてみる。

毛色は茶色と黒の縞模様だ、瞳は黒色。落ち着いた感じの女性だ。


「失礼。私は見習いの魔法使いなのですが、PTの募集って行われていませんか?」


「PTの募集ですか?臨時PTと固定PTどちらをお望みでしょうか?」

不思議そうに聞き返された。


「臨時PTでお願いします」


「あなたは異邦人でしょうか・・・?」


「そうです」


「ん~。募集事項が異邦人:可で〈魔法使い〉の見習いとなると、

『墓地ダンジョン〈1〉階層』での討伐。

出発は5人以上。現在4人という募集がありますね。

書いてある範囲だと、探索予定時間が5時間。報酬は20万Dの頭割りですね」


20万Dの頭割りだと時給3~4万Dだ。


ゴブリンの通常依頼が1匹100Dだから。

意外とおいしい依頼なのではないだろうか?


「それ受けさせてください!」


「了解しました。あちらにいるのが、今回の臨時PTの方々です」

受付嬢が手を向けた方に視線を向ける。


熊っぽい獣人がデカい盾を背中に背負っている。


その人物の座るテーブルには、今回のPTメンバーとと思われる人達がいた。

住人らしき、杖を持ったヒューマンの女性。小弓を持ったエルフの男性。

それに、異邦人らしき男性の剣士。


受付嬢に一礼し、臨時PTのメンバーがいるところに歩いていく。



近くまで寄ると、エルフの男性から呼びかけられた。

「やぁ?墓地ダンジョンの臨時PTの人でいいのかな?」


「そうです。見習いの魔法使いです。お願いします」

挨拶とともに小さく会釈した。


「おぉ、魔法使いが来てくれたか。今回は楽が出来そうだな!」

熊っぽい獣人さんが声を上げた。


「魔力使いじゃないのか?」

異邦人の男性が訝しげに聞いてきた。


「Jobは魔力使いですが、称号で魔法使い見習いを獲得してます」

剣士の方に向き直り答える。


「それじゃ魔法使いじゃなくて、ただの魔力使いじゃないのか?」

剣士は、呆れた様に言い返してきた。


「称号で魔法使い見習いあれば、魔法使い名乗れる」

ヒューマンの女性がかばってくれた。無口なんだろうか?


「そうなのか?まぁいいや。俺は異邦人のケント。剣使い/8だぜ!」

自信満々にこちらに自己紹介してきた。

容姿は金髪ショートで瞳は浅葱色。身長170前後で私と同じくらいだ。

片手剣に盾を装備しているが、〈盾〉スキルは取得しているのだろうか?


「僕はエルミオ見ての通りエルフで斥候経由の弓士/9だよ」

髪は少しくすんだ金髪。瞳は鮮やかな新緑のような色合い。

髭は生えておらず、身長165くらいの少し小柄な感じだ。

小弓を大事そうに持っている。小弓士って弓使いの派生かな?


「エルダ。ヒューマンで治癒使い/55。よろしく」

瞳は薄緑色で、淡い朱色の髪をポニーテールで縛っている。

身長は150くらいだろうか?全体的に小さく、小動物的なかわいさを感じる。

レベル高いな・・・


「俺は熊獣人のロキュスだ。大盾使い/5だ。よろしくな!」

髪も瞳も焦げ茶色。ヘアスタイルはショートヘアだ。熊耳がキュート?

髭を剃っているからか、厳ついがあまり怖くはない。


「私はイザナ。魔力使い/10です。属性は風と火です。お願いします!」

軽く会釈をすると、ケントがこちらを見て驚いている。


「今回のクエストの内容は、

マップの指定された経路のスケルトンを可能な限り掃討することだ。

望外に魔法使いも来てくれたから5人で問題はないな?」

ロキュスが他のメンバーに聞くと、全員頷いた。



「じゃぁ、全員PT招待するぞ?」


『ロキュスからPTに招待されていますYes/No』

Yes!

『アデリアーナからPTを脱退して、ロキュスのPTに参加しますか?Yes/No』

Yes!

『ロキュスのPTに加入しました』


「よし!全員の加入を確認した。行くとするか!」


その号令で冒険者ギルドを後にし、神殿地下ダンジョンへ向かう。



神殿はギルドを出て、東側の大通りを歩いていくと、左手に見えてきた。

周囲は雑貨屋や生活用品の店が多い様だ。武具修理店を見ないのはなぜだ?


神殿内は基本的に人がいない様だ。

外から見ると白が目立つ。

パルテノン神殿のような作りだ


神殿に入ってすぐ、何もない講堂らしき場所がある。

何故だろうか?ご神体が存在していなかった。



講堂の入って左側に金属製の柵が有る。

その先の部屋に、墓地ダンジョンへの入り口があるようだ。





□神殿:墓地ダンジョン入口


金属製の柵の先にある部屋に入ると、広い部屋の真ん中に階段があった。


階段を下りていくと石造りの地下通路だろうか?


中には松明の明かりが各所にあり、それなりに見通しがきく。


道幅は横20m高さが10mくらいだろうか?かなり広い。

深く潜っていくと、道幅も高さも広くなっていくようだ。


通路は少し進むといくつにも分岐しており、複雑な迷路のようだ。

通路にある小部屋では、稀に宝箱が存在するらしい。


今回の目的の通路は一定距離ごとに小部屋がある特殊なタイプだ。

敵の出現場所が決まっているため、予測が付けやすいがその分、

宝箱は出現しないらしく、実入りが悪く不人気な通路だ。




現在の陣形は、エルミオが先頭で斥候を行ってくれている。

エミリオの装備は動きやすい布の服と布の靴、小弓と矢筒のみだ。


続くのは、ロキュス。

全身鎧に大楯、そしてスピアを装備していて、いかにも堅そうだ。

全体的に鉄製だろうか?小傷があちこちに存在している。


剣士のケントと私はロキュスの後ろをついて行く。

最後尾には治癒使いのエルダだ。


ケントはチュートリアル報酬と思われる装備だ。

局部のみを守る軽そうな革鎧や革のブーツ。

木製の盾・・・盾は役に立つのだろうか?


エルダは法衣の様な裾の長い衣服に杖だ。

首からはタリスマンの様な銀細工を下げている。




最初の分岐を一番右に曲がり、道なりに進むと通路の先に小部屋の扉が見えてきた

扉は錆びた金属製で、嘗ては扉に何か描かれていたであろう痕跡が残るのみだ。


「敵の出るエリアに入るよ。準備はいいかな?」

エミリオが私達の方を振り返り報告する。


「戦闘の手順は俺が最初に敵視をとる。

ここらで出るのは基本的にスケルトンだけだ。

敵は最低レベル16だ。特にケントとイザナは気をつけろ。

10体未満なら魔法は温存、俺とケントで叩く。

エミリオは他から敵が来てないかの確認後参戦してくれ。

10体以上ならイザナが魔法で倒してくれ」


ロキュスの指示に全員首肯を返した。




扉を開いた!突っ込む!

後ろの通路から敵が来ないよう扉を閉め、

数を確認。敵は…10体!


「イザナ魔法準備!準備出来たら合図するから撃て!ケント前に出過ぎるなよ!」

ロキュスから指示が飛ぶ

「「了解!」」


「『かかって来いヤァ!』」

ロキュスがスキルの乗った挑発を行う。

敵がロキュスに集まり始めた。


敵が集まるまでに〈識別〉しなきゃ!大暴走の際使い忘れてたからね…



スケルトン/30〈1〉 人型(魔怪種)

魔物 討伐対象 アクティブ


スケルトン/28〈1〉 人型(魔怪種)

魔物 討伐対象 アクティブ


スケルトン/22〈1〉 人型(魔怪種)

魔物 討伐対象 アクティブ


スケルトン/27〈1〉 人型(魔怪種)

魔物 討伐対象 アクティブ



全体的に敵強めかな?

とりま〈ファイア・ボール〉準備、

防衛戦との時よりも消費MP絞ってと、

完了。後は合図を待つだけ。


「ケント下がれ!いいぞ!撃て!」


合図が来たので〈ファイア・ボール〉発射!


“ドォン”


煙が立って視界が悪くなる…

「気を抜くなよ!」

ロキュスから警告が飛ぶ。


煙が晴れてきたら敵影は存在しなかった。

《只今の戦闘勝利で経験値を取得しました》


「よし、この部屋は終了だ!休憩いるか?」

全員首を横に振る。


軽く小部屋の中を見回り、奥の通路を進む。

今回の小部屋は50mx50m程の部屋だった。

上位種や、フロアボスなどの部屋はもっと広いそうだ。


少し歩くと敵がいないため雑談が始まった。

そんな中ケントが不貞腐れた様に言ってきた。


「魔法強すぎね?俺らいらない子じゃん?」


「違うよ。魔法はMPを消費するから敵の数が多いときや、

敵が強いときに使うんだ。MPのない魔法使いは弱いからね。

魔法のをいかに温存できるかによって、効率はだいぶ変わるのさ」

エミリオが私の代わりに説明してくれた。


ケントは納得できていないような表情だ。

「でもやっぱり、魔法派手じゃん」


苦笑しながらロキュスが返事をした。

「物理職には魔法の代わりに戦技が存在する。

単体用の武技の威力は魔法より相当強いし派手だぞ?」


「マジか!それっていつ覚えられるんだ?」


「武技は基本的に2次職以降か、道場で習うかで習得できるぞ」


「2次職って転職で成れるれるのか?」


「いや?対象のレベル50以上で昇格を行うと2次職になれるのさ。

ちなみに転職は対象のレベル20以上で可能だ。」


「おぉ…遠いな…」


「ははは。魔物を倒していればすぐさ!」



「次の小部屋が見えてきた。雑談はここまでにしてくれよ?」

エミリオから注意が飛ぶ



「よし、さっきと同じ戦略で行くぞ!」

「「「了解!」」」"こくん"


全員で突入した!

敵の確認!5体だけだ。

魔法は温存だったね。


〈識別〉!


全部ただのスケルトンだね。

70台が2、50台が1、10台が2

平均レベルは、高めかな?


「『かかって来いヤァ!』」

ロキュスが全開と同じように、

スキルの乗った挑発を行う。


「おし!ケントそっちの体がボロい奴から狩るぞ!」

ボロい奴はレベル10台の奴だ。

なるほど、レベルが高いほど状態がいい様だ。



《只今の戦闘勝利で経験値を取得しました》

《レベルアップ:【種族:ヒューマン/12】〈1〉》

《種族レベル上昇によりステータスポイントを〈1〉獲得しました》

《レベルアップ:〈魔力使い/11・薬士/8〉〈1〉》

《Jobレベル上昇によりJPを〈2〉獲得しました》



特に山場もなく、10分程度で終了した。

敵はロキュスが完全に引き付け、ケントは雑魚から片づける。

数の優位を崩したら後は早かった。


安定した戦いだな。だけど、スキルレベルが育たないね。

何もしてないのに私にも経験値が来るんだから楽でいいね。

後でスキルの訓練しないと…


「全部倒したようだな…おし!いい感じだったぞケント!」

ロキュスがケントの立ち回りをほめた。


「サンキュ!俺もレベル上がったぜ!」


「エルダ、俺たちに軽く治癒をお願いする」

ロキュスとケントは今回は軽く負傷したようだ。


「了解。"ヒーリング"」

エルダの手元から、黄緑色の光の玉が二人に飛んでいき、

光りの玉が二人に触れると弾け、傷を治していく。


「助かった。ただ、少しばかり敵が強くなってきたな。

次の部屋はもしかすると、上位種がいるかもしれんな」

ロキュスが悩んでいる。


「ん~、火力職二人がまだ種族位階〈1〉ですからね。

上位種が少ない場合のみ闘うってことでいいのでは?」

エミリオが私達を見ながら提案してくれた。


「そうだな~…じゃあ上位種がいたら、合図したら魔法を撃ってくれ。

いなかったときはさっきまでと同じでいく。いいかイザナ?」


「了解。一応〈識別〉で確認しますね」

と言ったら、周囲に驚かれた。


「〈識別〉持ちってのは珍しいな!一応上位種の特徴は教えておくぞ?

スケルトンの上位種は武装をしたやつだ。見れば一目でわかるな。」


驚きながらもロキュスは特徴を教えてくれた。

ほんといいリーダーだね。


「了解!」


「そろそろ次の通路に行くぞ?全員大丈夫そうか?」

ロキュスが確認をとると全員首肯で答えた。



相変わらず通路に敵が存在しない。

その割にエミリオは通路も警戒しているようだが?


うんうん唸ってたら、エルダが話しかけてきた。

「どうしたの?」


「エミリオさんが何故通路でも警戒してるのか不思議に思ったので」


私達の話が聞こえていたようで、本人が説明してくれた。

「トラップがないことを確認しているんだよ。

1階層には稀に敵を呼び寄せるトラップがあるからね」


そんな感じで小部屋の奥の通路を20分程進むと、次の小部屋が見えてきた。





NAME:伊舎那イザナ

RACE :ヒューマン/12〈1〉

AGE:15 /15〈0〉


Job:魔力使い/11〈1〉

Sab:薬士/8〈1〉

残JP〈10〉


HP:45 〈0〉

MP:199〈28〉[+170]合計値:397

SP : 90 〈10〉


STR:(筋力) 5 〈〉

VIT:(頑強) 5 〈〉

AGI :(敏捷)   5 〈〉

DEX:(器用 ) 14〈2〉

INT:(知力) 31〈6〉

MID:(精神) 15〈2〉

LUC:(幸運) 5 〈〉

残ステータスポイント〈6〉

スキル

Job

魔力系

〈魔力操作/10〉〈術/10〉〈魔力術/8〉

〈属性適正/8〉

〈火属性魔法/7〉〈風属性魔法/2〉

生産系

〈調合/2〉〈錬金〉

Status

〈器用強化〉〈知力強化〉〈精神強化〉

Common

〈採取〉〈植物知識/2〉〈鑑定〉〈識別〉

称号

〈術〉の入門者/1〈1〉:MPに〈術〉x10の追加補正

〈魔力〉の入門者/1〈1〉:MPに魔力系スキルx10の追加補正

〈火属性〉の入門者/1〈1〉:火属性使用時、消費MP:〈1〉減 

〈風属性〉の入門者/1〈1〉:風属性使用時、消費MP:〈1〉減 

〈魔法使い/見習い〉/1〈1〉:魔法スキル使用時、消費MP:〈1〉減

〈アドリアーナの弟子〉/1〈1〉:MPに+10補正

※消費MP:〈1〉以下にはならない

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