『小さなお話し』 その123

やましん(テンパー)

『故郷はどれ』

『たいへんながらくのご乗船、お疲れさまでした。移住船エターナルは、まもなく、第2移住惑星『マスカラ』に、到着いたします。皆様のお荷物は、各自の住居に配送されます。手荷物のお忘れもの、なきよう、おおりください。みなさまの、素晴らしい未来を願ってやみません。また、さらに、第3移住惑星に行かれますかた、そうして、新規移住惑星開拓希望のかたは、地球時間で7日間の滞在が認められます。集合時間は、すでにお知らせいたしましたが、近くになりましたら、メールいたします。集合時間に間に合わないかたは、置いてゆきますが、次の移住船の予定は、ここ100年以内にはございません。お気をつけください。なお、予定の変更受付は、終了いたしました。では、あなたの、未来に栄光あれ。船長でした。』


 映像と、音声、オフ。



 やれやれ、船長なんて、因果な仕事だ。


 考えてもみてください。


 乗組員に、人間は、ぼくだけ。


 あとは、みな、アンドロイドか、ロボットさんです。


 しかも、ぼくは、目的地近くまでは、寝ているだけ。


 専門は、ケインズ経済学と、職業アドバイザーです。


 宇宙は、まったく、専門外。


 しかし、それでよいのです。


 移住される皆様に、こうして、エールを送るのは、やはり、人間がふさわしいのです。


 これから、2週間は起きていて、さらに旅を続ける人達との、お話しに付き合います。


 で、また、長い睡眠です。


 第2移住惑星からさきは、どうなるか、なにも知りません。


『エターナルくん、地球は、どこかな?』


 ぼくは、宇宙船に尋ねました。


 すると、外を見ていた画面が、ど、アップになってゆきます。


 むかし、ぼくが大好きだった、女優さんの声で、エターナルはこたえました。


 『船長、見えますか? これが、我らが銀河系です。それから、これは、アンドロメダ銀河です。』


 『大分、ちかくなってるかな。』


 『はい、あと、20億年で、衝突します。』


 『そんなに、宇宙にいたのかなあ。』


 出発当時は、あと、40億年で、衝突と、言っていたしな。


 『さらに、拡大します。ここ、これが、太陽です。』


 『はあ、ちゃんと、見えるんだ。』


 『でも、小さな、地球は、見えませんよ。』


 『そうか。なんか、どっかで、はしょってない?』


 『まさか。真実です。あなたは、偉大なる宇宙ごきさまの、偉大なる先覚者ですから。』


 『あそ。まあ、いいや。現世とはかかわりなくなって、よかった。宇宙ごきでも、宇宙ネコでも、人間でも、変わりないや。めんどくさいだけ。 』



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 『どうかね、やましんは。』


 『こいつは、さっぱり、だめです。ごきごき。このやり方では、改造不能です。ごきごき。まったく。向上心がないごきごき。向上心がない人間は、改造不能でごきごき。』


 『そうか、ごき。じゃあ、しかたないから、がはやきに、しよう。』(がはやきがなにかは、不明です。)



 『油ぶんがおおくて、あまり、健康によくないたいぷです、ごきごき。』


 『ふん。じゃあ。動物園に入れたまえ。ごきごき。』


 宇宙ごきは、けっして、紳士的ではないのである。


 『餌の無駄ごきごき。』


 『あそ、じゃあ。しまつするしかない。ごき。ごき。』


 『そおれが、なぜか、地球ごき大将から、殺害はしてはならない。かならず、化けて出る。とか。言われていますが?ごき。ごき。』


 『じゃ、宇宙独房に入れろごきごき。多少のえさは、仕方ない。』


 『なら、動物園のほうが、仕事だから、ましごき。ごき。』


 やましんは、引きずり出されたのである。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 『はあ、やな、夢だあ。やはり、手術は、やめようかな。なんか、やな、予感する。』


 『やましんさん、じかんですです。行きましょう。手術室に。にゃんこ。』


 やましんは、ボロボロになった、尿管の結束手術に臨んでいた。


 長く、悩んだ末の選択である。


 ねこドクターが言います


 『がんばりましょう。』


 『あの、やはり、やめます。地球に帰ります。』


 『あらま。まあ、それは、よいですが、また、くろう、しますよ。にゃんこ。また、お手洗いのやまですよ?いいのかなあ〰️〰️〰️にゃあ、❗ぐわ〰️〰️〰️〰️〰️にゃんこ。』


 『こ、こわい。』


 やましんは、逃げました。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 『ぎょわ。嫌な、夢の中の夢だな。なんで、そうなる。うん、おしっこ行きたい。あららおきらんない。なんで?』

 

 体をいくら、うごかしても、やましんは、立ち上がれなかったのである。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 『やましんさん、起きなさい。お店閉めるにゃんこ。』


 『ああ、ママ。あら、寝ていたかな。』


 『ぐっすりと。』


 『はやあ〰️〰️〰️〰️〰️〰️?帰ろう。』


 『まいど。』




 ああ、しかし、これも、現世ではない。


 やましんの、故郷は、いったい、どれなのか?


 覚めない夢は、果てしなく、続くのでありました。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 『ああん、きみ、どこに、寝てるのかね?体に毒だよ。』

          

               👮

   

 『はあ?』



 公園のベンチでした。


 睡眠薬を、結局、規定量より、倍くらいまでしか、のめなかったのです。


 意気地無しです。


 なにやっても、半端なのです。


 薬袋が、ベンチの隅に、寂しく転がっていたのでした。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


               おしまい

 

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『小さなお話し』 その123 やましん(テンパー) @yamashin-2

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