第9話 ヤブラン

 「それじゃ、私ここでこっち行くから!」

 「お、そうなの?珍しいな。それじゃ、また明日。」

 いつもと違う場所で別れたのは勿論なんの意味もないわけじゃない。

 行くところがあるから。

 行くべき場所が。


-------------------- 勝手


 定休日と書かれた看板を見ながら扉を開ける。休みの日だというのに七海さんは静かに座り、ただどこかを見つめていた。

 「すみません、話したいことがあって。」

 「そうよね、待ってた。愛香ちゃん。」

 待ってたんだ、私のこと。


-------------------- 今朝


 早朝、寝れずに迎えた日光は私の気持ちを整理できずにいた。

 腹いせに花を踏みにじろうと考えた、けど。あまりに酷くて、醜い気がした。

 それでも私の背中を押したのは、正義感だ。


-------------------- 今


 「昼、聖也くんから電話があったの。」

 『朝、俺の学校の制服を着た女子生徒を見たんだ、会うといつもはスポーツ用の短い靴下なのにハイソックスになってて、しかもいつもより寝不足そうな顔で、俺とあまり目を合わせようとしなかったから。罪悪感でいっぱいだったのかも。』

 「名前は聞かなかったけど、そういうことよね愛香ちゃん。」

 「はい、そういうことです。ただ謝る気はないですよ、私は正しいことをしました。」

 「人が大切にしてきたものを踏みにじっといて正しいって、どういうことなの?」

 「きっと、こうしないといけなかった。聖也のために。」

 「彼の、ために?」

 そう、聖也のため。

 私はずっと聖也のことが好き、大好き。そんな彼がこの頃おかしかった、恋してた。どんなやつに落ちたのか、そんなの本人次第で私には一切関係ないし、正直な気持ちを伝えてこなかった私も悪い。

 だけど許せなかった。

 七海さんのことを。


 「七海さん、あなた聖也のこと愛してないのに好きでしょ。」


 女の勘、ただの運で当てた時に使う言葉じゃない。男に疎いことだって私たちならわかる。だから相手も、私が聖也のことを好きなことだって。

 目を見てたら、仕草をみてたら。

 聖也は七海さんのことを好きだということ、そして七海さんは聖也のことをなにか他の感情で見ていることなんて筒抜けだ。

 「愛香ちゃん、あなたは聖也くんのことが好きで、私に嫉妬してる。」

 「はい、してます。」

 「私が特別な感情で聖也くんを見てることに気付いてる。」

 「気づいてます。やめてあげてください、聖也が傷つくので。」

 「それじゃ、やめれない理由。あなたは私の感情がわかっても感傷の一つもわからないでしょ。」

 そう言って七海さんはポケットから一つの封筒と、カウンターに置いてあった写真をこちらに向けた。

 背景が白付いて冬だということがわかる、そしてもう一つ言うことがあるとすれば。

 七海さんと写っている男性が、双子ではないのか、本人ではないのかと疑うほど聖也と似ているということだ。

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