第246話 真の話『愛パッチ君』志朗ちゃん、寛ちゃん
いきなり重い話になりますが、大切な話なので許してください。
志朗ちゃんは癌におかされました。
特に目に癌ができ、段々と見えなくなっているようでした。
ある犬猫病院へ行くと、うちは犬猫病院だから診ないと断られてしまいがっかりしました。
でも、ママが自分で首元に筋肉注射して、目は糸で少しずつ縛って取るように教えていただき、その日から実行です。
志朗ちゃんはいわゆるミニウサギと呼ばれる普通サイズのうさぎさんです。
白地に黒い模様があり、特に片目の黒い模様が可愛らしと一目惚れして、駅前のペットショップからおうちに連れて帰ったのをよく覚えています。
志朗ちゃんの白い方の目を
志朗ちゃんと寛ちゃんのためのお庭に面して、ぽかぽかの日差しの中、志朗ちゃんを呼びます。
居間にタオルを敷いて寝かせ、いいこいいこと撫でながら、痛くないように縛っていました。
一ヶ月はかかりましたが、綺麗にとれて、目の窪みだけが桃色に残りました。
一応、一息はつきました。
ママは、痛々しいまでに健気に生きている彼をこう呼びます。
愛パッチ君。
勿論、造語です。
アイパッチのように可愛らしいと言う意味を込めて、病気がよくなるようにとの願いを込めての愛称です。
一方で、筋肉注射は毎日していました。
犬猫病院の獣医師は、注射器と針とゴム栓の付いた瓶入りの薬液を与えてくれましたから。
最初は首の付け根を場所を変えながら打っていたのですが、注射のせいでしこりが出来てしまったので、お尻にも打つようにしました。
こんな辛さにもがんばっていたのは、志朗ちゃんです。
志朗ちゃんは、病気と闘いました。
ママがどんな治療をしても、嫌な顔一つしないでがんばりやさんです。
皮膚病の時、毛をハサミでカットしても逃げないでいました。
歯の不正咬合も、食べられなくなってしまうからと、ニッパーでカットし続けました。
苦しかったと思うけれども、ママのことをママだと思っていてくれたのでしょうか。
大きな声で、志朗ちゃんの名を呼ぶと、忍者のように馳せ参じました。
特におやつを与えていた訳ではなかったのですが、頭を撫でられるのが好きだったのでしょう。
志朗ちゃんは賢いうさぎさんです。
愛にあふれたとても素晴らしいうさぎさんです。
今思えば、もっと好きなものを食べさせてあげればよかったのかとか、治療はあれで正しかったのかとか、ママは天国の志朗ちゃんに対して涙しています。
志朗ちゃん、化けて出るのなら、ママは会いたいと思っています。
志朗ちゃんの最期は、忘れられなくて。
ママはその時、婚約者に会いに行ったところだったのです。
彼の元へ行ったら、ママの家から連絡があったので早く帰るようにと促がされました。
帰宅すると、志朗ちゃんは、寛と掘った巣穴にいました。
体は硬いけれども、安らかな面差しでした。
一緒に暮らしていた寛ちゃんは、何も分からないのか、いつも通りに過ごしていたのが、尚、痛々しかったと感じます。
でも、少しは様子がおかしいと思ったはずでしょう。
ママが、志朗ちゃんをおうちに入れて、タオルで優しく柔らかくくるめて眠ってもらいました。
それから一晩中、志朗ちゃんの亡がらを撫でていたけれども、お空から見えたでしょうか。
もう、涙も枯れます。
夫と出会う前は、ママの愛情のやり場が無くて、愛情の全てを志朗ちゃんと寛ちゃんに注いでいました。
ママは大学へ行く気力も無く、ただ呆然とするしかありませんでした。
翌日、特待生になるために、休む訳にもいかなかったけれども。
そこで落ち合って、将来の夫と珍しく、ファミリーレストランでお茶をしました。
奥の席に座り、彼はホットケーキなんか頼んでいました。
ママが志朗ちゃんの死から立ち直る切っ掛けはそんなところにありました。
彼の鼻毛を見てしまい、吹いてしまったからなんて、おかしな話です。
彼の存在にママは癒されたのです。
志朗ちゃん、ママは今でもあなたのママです。
いつでもいいから、顔を出してください。
今度は、もっと、もっと、愛しますから……。
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