幽霊と僕の夏休み
ふるとり
夏休み初日
夏休み初日、僕は忘れ物を取りに学校へと向かっていた。
なぜ宿題を忘れるという初歩的なミスをしてしまったのだろう。そんなことを思いながら教室のドアを開ける。
ガラガラ…
腰に届きそうなほど長い髪をした女子生徒が1人、窓から外を眺めていたが、僕がドアを開けるとこちらを振り返る。
…あんな人、うちのクラスにいたか?
制服を来ているからここの学校の生徒だというのは間違いない。部活動で何人か校内にいるし、彼女もその1人だろう。目が合った以上、無視というのも感じが悪い。軽く会釈をして自分の机に向かい、宿題を手に取り帰ろうとする。
「…私の事見えてるの!?」
「は?」
咄嗟に出てしまった声。
彼女はなにを言っているのだろうか。なにかの罰ゲームで僕をからかっている?
「ねえ、見えてるんでしょ?お願い、相談があるの!」
「見えてるに決まってる。幽霊じゃあるまいし。どんな嫌がらせだ。それじゃあ僕は帰るよ。」
「…私、幽霊なの。もう、死んでるの。」
ドアにかけた手が止まる。
「ふざけるのもいいかげんにし…」
勢いよく振り返ると僕は戸惑った。
僕と彼女が触れそうになっていたからだ。
否、触れている。そのはずなのに、感触がない。
さっきの言葉の通り幽霊なのか、本当に…?
彼女の目をみると悲しそうな笑顔を浮かべた。
「本当に幽霊だったんだな、ごめん」
「う、ううん!普通は信じないよ、私が急ぎすぎちゃった。ごめんね。あの…もしよかったら、私の相談聞いてくれる?皆、幽霊だとわかった瞬間逃げちゃって…」
本当は今すぐ帰りたかった。
でもさっきの悲しそうな笑顔を思い出すと…
「いいよ、少しなら」
「ほんと!?ありがとう…!あの、私ね、生きていた頃の記憶がないの。自分の名前しか、覚えてないの。名前は
大西結愛。僕には心当たりがなかったけど無理もない。1学年8クラスあるのだから認知していない生徒がいるのは当たり前だ。
「それで、私楽しい思い出もないままなくおわっちゃうんだなって思ってたら成仏するのが嫌になっちゃって。それなら私思ったの!思い出せないなら作れば良いって!ねえ、お願い。私と一緒に思い出作りしてほしいの!」
これはもう、相談ではなくお願いだ。
そんな面倒なこと、しかも幽霊といつもの僕なら断っていただろう。しかし暑さにでもやられたのか、
「夏休みの間だけ、ね」
なぜか、聞き入れてしまった。
「ほんとに!?ねえ名前は?」
「…
「わかった、永遠ね!じゃあとりあえず、明日の1時、校門で集合ねっ!」
そう言い残し幽霊…は失礼か。大西さんはどこかへと消えてしまった。
あぁ、こんなに喜ばれてしまったらもう訂正はできない。こうして僕の奇妙な夏休みが始まった。
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