34,本当のパンドラの欠片
「えっと、私はパンドラの欠片じゃなくて……」
「お、おいライ、なにを言って」
「なにも間違っておりません……彼女が、紛れもなくパンドラの欠片でございます。正しく言えば、パンドラの欠片になる存在ですが」
うやうやしく頭を下げたライに、汐莉はわけがわからないと言わんばかりに目を丸くしていた。けど、見ている俺だってそうだ。だってパンドラの欠片はあの汐莉の家にあった箱で、あれは間違いなく俺の部屋に保管をしたはずだから。
「太一様は、本当に箱に入ったものがパンドラの欠片だとお思いになられていたのでしょうか?」
「そ、そりゃもちろん」
「あっ!」
理解が追い付かない中で声を上げたのは、意外にも悠人だった。なんだよ、そんなびっくりした顔で。
「ご、ごしゅ、ごしゅっ!」
「落ち着けって、どうしたんだよ」
背中をさすってやって落ち着いた悠人は、なにかに気づいたように口をパクパクさせていた。
「し、汐莉、誕生日!」
「は?」
汐莉の誕生日がいったいどうしたんだ、今は関係ないと思うけど。
「明日の五月十六日は汐莉の誕生日、十四の裏って、十四歳になる事を言っているんじゃないか!?」
「あっ」
そこで思い出したのは、蒼が見せてくれた本に書かれた手書きの文。十四が重なる世界の、裏側。
「いや、そんなまさか」
「そのまさかです」
ライが控えめに手をあげたと思うと、悠人の言う通り、と話をつなげてくる。
「パンドラの欠片は人の心に宿るもの……生まれながらに存在し十四の誕生日と共にその力を発揮する。今まで太一様達が影響を受けなかったのはそれが理由で、同時にパンドラの欠片が中途半端な覚醒の段階では一緒にいた際にレコードの強化と安心感を覚えるという特徴を持っています」
「あ、だから……」
確かに、汐莉といる時はいつもあたたかい気持ちになっていた。あの感情もパンドラの欠片が理由だったとしたら、汐莉自身がパンドラの欠片という事についてすべてが納得いく。
「私が潜入していたもう一つの理由は、アルカディアよりも先にパンドラの欠片を特定し覚醒前に保護する事でしたが……明日誕生日だったとは。間に合わなかったわけではありませんが、本当にギリギリでした」
どこか安心した表情のライのその言葉は、多分本心からきているだろう。
けどこれでよかった。此守に潜伏をしていた奴らもほとんどライが倒してくれたんだ、これなら汐莉を狙う奴もほとんどいないはずだから。
「ただ太一様、一つ難点がありまして」
「えっ」
なにその、不穏な言葉。
素っ頓狂な顔をもらしながらライを見ると、ライはビルの上から続いている階段を指さしつばが悪そうな笑顔をうかべていた。
「諸悪の根源だけが少し難しく、実は今も上から退散してきたとこなのです」
「それラスボスが倒せていないって事じゃん」
一番肝心だろ、そこ。個人的にそこが一番重要だと思うぞ。
「けどそんな、ライが逃げるなんて考えられないっス」
「それがまた厄介なレコードでして……おっと、無駄話もここまでのようで」
ピリっと、空気が変わったのがわかった。
言葉にならないような、つかみどころのない空気。あぁ、こいつはやばい。
「悠人、ハンドレッド、太一様と汐莉様を後ろへ」
「わかっているっス」
「ヴィランに指示をされるのはしゃくだけどな」
チリチリと肌を刺すような痛みと、緊張感。
「あぁ、やっと追いついた」
そしてその場を支配する、有無を言わせないような声音。
一つ一つ、確かに階段を降りてくるその足音は鋭く、有無を言わせないもので。
「そんな逃げなくてもいいじゃないか、ライ」
そうやって言いながら笑った影は、なぜだか父さんの面影があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます