21,もしかして
「え……!?」
どこかから飛んできた声に反射的に反応して、言われるままその通りにする。
そしてそのタイミングに合わせてようになにかが俺の頭上をかすめていき、そのなにかが大男めがけて飛んで行って。
「ぐぇ!」
大男へ、きれいにクリーンヒットした。うわ、痛そう。
「今のは……」
すっかり伸びた大男に近づき飛んできた正体を確認すると、それはアルカディアの一人が持っていたバール。
「ご主人、大丈夫っスか!?」
「無事だから、影から顔を出すのは勘弁して」
そしてバールを投げた本人であろう悠人がぬっと俺の影から顔を出して、心配そうにこちらを見ていた。やめろやめろ、なにも知らない人が見たらホラーだろ這い出るな。
「こっちの奴が片付いたらご主人がやられそうで、オレ無我夢中で手元にあったバールを投げて……」
「そこでバールを投げようって発想になったのはびっくりだけど、正直助かったよ」
あそこでバールが飛んでこなければ、俺は今頃ぺちゃんこだったからな。
ライと蒼を見ると二人もなんとか終わったみたいで、それを見てそっと肩から力を抜くとんん、と悠人からうなるような声が聞こえてきた。
「それにしてもアルカディア、なんで此守にいたんスかね。確かにアルカディアはテリトリーを広げているって聞いた事はあるけど、それにしてはコソコソしていたっス」
「テリトリーを広げる時は、コソコソしないものなのか?」
「それはもちろん、ご主人覚えてないっスか? 小学四年生くらいの時に他からラグナロクがテリトリーを狙われた時の事、あの時は毎日が戦争だったっス」
「そういえば、確かにそんな事もあった気が……」
詳細は覚えていないけどな、他人事だったし。
そんないつだったかもあいまいな記憶に思いをはせながら大男に目線を落としていると、ふとある事を思い出した。
「さっきこいつ、欠片目当てって……」
「欠片?」
「あぁ、俺のレコードを見た時に言っていたんだ」
欠片って、なにの欠片だろう。
言っていた事はわからないけど、ひとまずこの伸びた奴らを全員どうにかしないと。
「太一、悠人!」
大人ばかりのこいつらをどうやって動かそうか考えていると、最後の一人を倒したらしい蒼が俺達の方へかけ寄ってきた。
「蒼、大丈夫だったっスか?」
「そうだよ蒼、さっきケガを!」
「もう治った、ただのかすり傷だったからな……だから、僕の事は気にするなと言っただろ」
そう言いながら蒼が見せてきた右肩から、血は出ていなかった。
「よかった……」
ほっと肩を落とすと、蒼はそれにしても、と俺と悠人を交互に見る。
「二人も、そろって派手にやったな」
「とどめさしたのは悠人だから、頼むから一緒にしないで」
犯人俺じゃないからな、本当だからな。
絶対信じていないだろうその顔に文句を言ってやりたかったが、今の状況じゃ弁解のしようもないしそっと飲み込んだ。
「けど、やっぱりあいつが……」
「あいつ?」
なにかを思い出したように深刻そうな顔でうつむいた蒼は小さく言葉をこぼすと、一人で考え事をしているようで俺と悠人の声は聞こえていない様子だ。聞こえてくるのはおかしいとか確かめないとなんて断片的なものばかりで、わけがわからず悠人と顔を見合わせているとあのさ、と唐突に話を振られた。
「二人とも、少し話が」
「太一様と悠人、それにハンドレッドもご無事ですか」
「あ、ライ!」
「っ……」
話の途中で聞こえた声に顔を向けると、傷一つなく立っているライがいた。
「手間取ってしまい申し訳ありません」
恥ずかしそうに頬をかいたライはいつもと変わらない笑顔を貼り付けたまま、そんな事を口にした。別に気にしていないし、蒼の話を聞くならライもいた方が絶対いいに決まっている。
「無事ならそれでいいよ、それより蒼から話があるみたいで」
「こいつにはない」
「って、え?」
「蒼、いきなりどうしたんスか……」
けれども蒼から飛んできたのはそんな拒絶の一言で、俺と悠人も理解ができずに目を丸くした。確かに仲は悪そうだったけど、今のはあからさまだ。
「おや、ハンドレッドはごきげんななめなようで……太一様も悠人も、彼は頭を冷やしたいでしょうしここは一人にしてあげて」
「僕は冷静だよ」
ライをにらんだまま表情を変えないで、言葉をかぶせる。
「どうしたのです、ハンドレッド」
「止まれ、こいつらに近づくな」
有無を言わせないその言葉にライだけじゃなく俺と悠人まで足を止めると、おかしかったんだよな、と言葉をこぼしていた。
「言動もなにもかも、僕達はお前にまんまと誘導されていたんだ」
悔しそうに笑った蒼は目を細めながら、言葉を静かに落としていく。
「なぁマスケノのヴィラン――お前、何者だ?」
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