17,登場ホンボシ!

「ところでその汐莉様という方は、どのようなお嬢様なのでしょうか?」

「ブッ!」

商店街への道の途中、ライが出したそんな話題に思わず飲んでいた缶ジュースを吹き出しかけた。なんだよ藪から棒に、そんな話題を。

「失礼……なにせ彼女の事を知らないのはこの中で私だけなので。確認するには、基本の情報を知るとこからかと……そんな、興味本位などではけっしてございませんよ」

「いや、もう興味本位なのがまるわかりだぞ」

 顔に書いてあるぞ、楽しそうって。

「けど、そうだな……」

 どんな人かと聞かれると、言葉に悩んでしまう。人物像とかそんなに考えた事ないし、難しい事はわからない。だってそうだろ、俺達は同じクラスの生徒で確かに話す事は多いけど、それ以上ではない。だからこそ、俺は言葉が詰まる。

「あ、オレ言えるっス!」

 俺が必至に考えている横から出てきた悠人は元気手をあげると、楽しそうに話を続けてくる。

「早川汐莉、二年B組の生徒、ご主人の前の席でオレの斜め前の席。五月十六日生まれのO型で、好きな給食のメニューはデザートだってこの前書いた自己紹介カードに書いていたっス!」

「悠人、それ人間性というよりプロフィール」

 しかもなんでまた、自己紹介カードなんか覚えているのさ。

 これじゃらちが明かないななんて思いながら蒼に目線で助けを求めると、わかっていたように首を横に振られた。待って、反応が早い。

「悪いが、僕は早川汐莉と面識がない」

「ないって、仮にも同じクラスじゃ」

「面識というよりは、交流がないが正しいな」

「それは……」

 返す言葉が見つからない。確かにお前、あまり人と話していないもんな。

「僕にとってクラスは授業を受けるにおいて交友関係を作るためだけのものと思っている。ヒーローの活動としても不本意だがこういった関係は必要だからな、一種の義務だ」

「なに言ってんだこいつ」

「少なくとも、まともな交友関係はつくれていない気がするっス」

 だめだ、この二人に頼るのはやめよう。

 自分で話すしかないなと思い肩を落として、頭の中でぐるぐると汐莉の事を考える。汐莉がどんな奴か、ねぇ。

「一言で言うなら、真面目なお人好しかなぁ……」

「ほう、と言いますと?」

「そのままの意味だよ。学力は高くて高校を見据えて今年から始まった高校式の定期テストはいつもトップクラス、いつだって朝早く登校していて授業の準備をしている……その上頼まれた事は断れない絵に描いたようなお人好しで、クラスでも実行委員とかを時々やらされているよ」

「なるほど、大変参考になりました」

「ご主人、思った以上に汐莉の事見てるんスね」

「話している様子も、かなり熱心だった」

「もう一つ補足すると、やましい気持ちはまったくないから」

 こいつらは本当、すぐに話を変える。

 何度も言っているけど、俺はそんな気持ち一切ない。そんなにもしつこく言われたら、俺じゃなくて話題にされている汐莉がかわいそうだ。

「あぁ、けど言われてみれば……」

 自分ではそこまで気づいていなかったけど、確かに汐莉の動作は目に入りやすかった。

 もちろん意識しているわけでもないし、わざと見ている事もない。それでも二年B組で過ごす中で汐莉の事は確実に気になっていて、その理由が俺自身わからないから不思議でしかなかった。

「けどなんだろう、好きとかそういった感情じゃないんだよな……」

 言葉にできない、そんな不思議な感覚。好きとかきらいとか、簡単な言葉では表現できない。あえて例えるなら……なつかしいとか、安心感があるとかそういった気持ちになるんだ。

「優しくて、あたたかい……」

「まぁ確かに、言われてみれば汐莉って一緒にいると安心するっスよね」

 てっきり笑われると思っていたけど、悠人は俺の横で納得したように首を動かしていた。

「汐莉って、なんだろう……こっちも優しい気持ちになると言うかなんというか、ほわほわした気持ちになるんスよね」

「そうか、僕はそんな事思った事ないけど」

「蒼は関わった事があまりないからだろ」

 そもそも俺、蒼がクラスで誰かと話している姿自体あまり見た事がないよ。

 いつだって一匹狼で一人行動をしている蒼はきっと、汐莉だけじゃなくて他のクラスメイトの感想もこんな感じなのだろうな。

「なるほど…………ありがとうございます、御三方のお話大変参考になりました」

「お、おう……?」

 どこが参考になったか、正直さっぱりわからないけどな。

 満足したように笑っているライの考えは読めなかったけど、本人も真意を言うつもりはないらしい。これ以上聞いても教えてくれないなと視線を動かすと、すでに商店街の近くについていた。

「あ、もうすぐだな」

確かそこの角を曲がってすぐ、きたのが昨日の今日だから道に迷う事はなかった。

「じゃあご主人、どっちが先につくか競争っス!」

「わ、おい悠人!」

 どこかの犬みたいに走り出した悠人は、俺達を置いて前へ行ってしまう。そんな、授業が終わった後なんだから走る体力なんて残っていないよ。

「待てよ悠人……ってあれ?」

 角を曲がってすぐ、商店街の入り口手前で立ち止まっていた悠人はなんだか深刻な顔をしていた。俺も蒼もライもどうしたのかわからず近づくと、悠人にそのまま曲がった場所まで押し返されて。

「ちょ、ゆう」

「静かに、ご主人」

 有無を言わせない、そんな真剣な声だった。

「三人とも気づかれないように、そっと覗くっス」

 言葉と行動の理由側からず三人で首をかしげて、そっと覗く。

 そこには昨日と変わりない、なんの変哲もない商店街が――

「……いや、違う」

 昨日とは明らかに違う光景が広がっている。

 半グレ集団とかではない、身なりは整っているようで据わっている目と一般人とは違う独特な振る舞い。それが一人ではなく、商店街の入り口を埋めるように広がっていた。まさか、もしかして――


「なんだあれは……!」

「見たところ――ヴィランでしょうか。もちろん、我々ラグナロクとは違う」


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