超絶機動後輩

春嵐

第1話

 間違ってない。


 間違ってなかった。


 ここへ来てよかった。


「加速して逃げきれるか」


「左方向。二機来てるっ」


「後輩っ」


 ぼうっとしてた。後ろから二機。


「なにぼうっとしてんだ。しぬぞっ」


「あ、大丈夫です、はい」


 コブラロール。からの、錐揉み急降下。んで、下から上へ照準。


「一機倒して」


 上を向いている機首を水平に戻してから。


「もう一機倒せば」


「おおおっ」


「まじかっ。二機倒したっ」


「すごいっ。すごいよっ」


 ひっしに勉強して、いい大学に行こうとした。しかし、頭がよくなかったので、結局受けたのはそこそこの大学。そこそこの授業、そこそこの友達。そして、この、だらけたサークル。


「どうしてそんなに強いんだ。すごすぎる」


「えへへ」


 両親がフライトマニアで、小さい頃からシミュレータやゲームに親しんでいただけ。


「君がいてよかった。本当に。ごめん助けて追われてるしにそうまじで」


「あ、はい」


 三機に追われてる。


 飛ぶ先を予測して、ニアミスを仕掛ける。風圧と視界飛び込みで混乱させて。


「反転してください」


「えっあっ」


 追いついてきた先輩方が追いすがって、なんとか一機。追われていた先輩が、反転して一機。


 残りの一機は、逃げた。よい判断。


「やったっ。勝ったっ」


 三人がよろこんでいる。


 両親以外のよろこぶ顔を見るのは、大学がはじめてだった。これまでの生活では、勉強しかしてない。


「さて、勝ったことだし、課題やるか」


「うええ」


「ねえ、ここ教えて?」


「後輩に訊くのかよ」


「あ、はい」


 楽しい。家族で唯一シミュレータもゲームもはまらなくて、惰性でやりながら勉強だけ趣味みたいにやってた私が。たのしい。


「ちょ、何にやにやしてんの」


「先輩に勉強を教える快感ドーパミンが出てるんでしょ」


 たいした内容ではないので、簡単に教えられた。


「わかりやすい、けど」


「うん」


「ときどき空の用語入るよね」


「あ、ごめんなさい。いちばん手っ取り早いので」


 両親がフライトマニアなので。家では基本的にマニューバの名前が飛び交ってます。


「同学年の友だち、できた?」


「おいおまえ。そうやってデリケートな話題を突然」


「全然できません。なんでですか」


「そりゃ、まあ」


「フライト用語混じる会話なんて、一般人に伝わらないっしょ」


「でも先輩方がいらっしゃるので。ひとりじゃないです」


「うえええ」


「なんであんたが泣くのよ」


「あとでなんか買ってあげるよおおお」


「ちょろすぎるぞ」

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