第25話
もう、ペンギンのふれあいタイムは終わってる時間。
中抜けしたとことを、班のみんなになんて言い訳しよう。
そう考えながら歩いていると、早々に班のみんなと遭遇してしまった。
「お前らどこ行ってたんだよー」
「探したよー?!」
わ、どうしよう!?
なんて言いえばいいかな…。
「ごめーん、みんな!俺方向音痴でさ!」
伊吹くんは顔の前で両手をぱちんと合わせて、大きな声で謝った。
「途中でみんなのこと見失っちゃって。俺の後ろにいた井上さんまで巻き込んじゃった、ごめん」
「お前、そーゆーとこあるよな」
「井上さんに謝れ」
みんな伊吹くんの言葉に納得したようで、それからは何も言われなかった。
本当に伊吹くんは口が上手いなぁ。
でも桃々はごまかせなかったみたいで。
「いや、嘘じゃん?なにごと?」
察しのいい桃々は困惑していた。
「やば、もうこんな時間!」
班の1人が時計を見て、声を上げる。
気がつくと集合する時間がきていて、急いで水族館の出入り口に向かった。
班ごとに整列して、先生の話を聞く。
私はブレスレットの付けられた腕を、長袖の上からぎゅっと握る。
なんか、伊吹くんと秘密を共有しているみたいで、謎にドキドキする。
きっと今の私は感覚が麻痺してるんだ。
いやだって、仕方ないじゃん。
伊吹くんに、あんなことされたら惚れない女子なんていないよ?!
って心の中で言い訳をしてみる。
この気持ちは多分一時的なもの。
頭ではちゃんと分かってるから。
このドキドキが収まるまでだから…。
私は目の前にいる伊吹くんの後ろ姿を、まじまじと眺めた。
伊吹くんのブレスレットも長袖で隠れてる。
そういえば、伊吹くんの後ろ姿ってあんまり見たことなかったかも。
サラサラの髪が風になびいて、いい香りが私まで届く。
この香り。
映画館の時のことを思い出すなー。
そう言えばあの時、帰り際。
伊吹くんは何かを言いかけてた。
渉が来たから途中になってたけど。
結局、何だったんだろう。
「新奈?」
気がつくと先生の話はもう終わっていて、すぐ隣に渉が来ていた。
「あれ、渉?」
「何ぼーっとしてんの?」
「あー、ごめん」
やば。
考え事をしている間に、先生の話が終わっていたらしい。
辺りを見渡すとみんなそれぞれ帰りはじめていた。
桃々も私に手を振って、帰っていく。
目の前にいた伊吹くんも、いつの間にかいなくなっていた。
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