第3話



え?



「…今なんて?」


「だから俺とデートして」


「私と?」


「ここには井上さんしかいないじゃん」



皆藤くんはそう言って私の目をじっと見つめてくる。


初めてこんなにしっかり皆藤くんの顔を見た気がするけど、本当に整った顔だな。


そのキレイで整った目に見つめられていると思うとなんだか恥ずかしい。


皆藤くんは本気なのか冗談なのか、よく分からない。



「な、なんのために…?」



そうだよ。


からかっているにしても意図が分からない。



「井上さんのこともっと知りたいから、って理由じゃダメ?」



皆藤くんの甘えるようなまなざしと発言は、とんでもなく破壊力があった。


不覚にも心臓が飛び跳ねてしまう。


あ、あれだよ?


デートしたいなんて初めて言われたから、びっくりしただけ。



「いや、うーん…」



もしかして、皆藤くんって実は私のこと…


なんて己惚れかけた時、皆藤くんがまた口を開いた。



「最近、蓮に彼女ができてさ」



蓮(れん)と言うのは皆藤くんとよく一緒にいる水島(みずしま)くんのことで、彼もまた目立っている人物だ。



「俺、めっちゃ暇なの」


「そ、そうなんだ?」


「でね、蓮がめっちゃ彼女のこと惚気てくるわけ」


「…うん。…で?」


「だから俺とデートして」


「さすがに意味わかんないんだけど」


「いや分かるでしょ」



皆藤くんは机に頬杖をつきながら真顔で言い放った。


水島くんに張り合う為にデートするの?


いや、だっておかしいよ。


皆藤くんモテるじゃん。



「皆藤くんとデートしたい子なら、他にいっぱいいると思うけど…」



私は皆藤くんが好きだという女の子、何人も知っている。


その子たちに頼めば即デートしてくれそうなのに。


なんであんまり喋ったことない私にこんなことを言うんだろう。



「俺、面倒くさいの超苦手なの」


「うん?」


「束縛とかされるの嫌いだし、友達優先したいし?」



言いたいことは分からなくもない。



「だから、俺にあんまり興味なさそうな井上さんがいいんだけどなー」



そう言いながらやっぱり目をじっと見てくる皆藤くんは、女の子に慣れてるなーって思う。


じゃあ、なにか。


私は皆藤くんに興味のない人間代表として選ばれたわけか。


ちょっと納得。


…って、いやいや待って。



「俺とデートしたら楽しいよ?」



ほら、そんな甘い顔して。


惑わせてくるみたいに言うから、つい流されてしまいそうになる。


確かに普通の女の子だったらここでOKしてしまうだろう。


それくらい皆藤くんのまとっている雰囲気や表情は魅力的だ。



「でも、デートっていうのはちょっと…」



私はそう言ってやんわり断ろうとした。


デートなんてしたことのない私に、皆藤くんのお相手が務まるとは到底思えない。


なのに、皆藤くんはなぜか引き下がらない。



「だって、その渉って人は彼氏じゃないんでしょ?」


「…そうだけど」


「渉くんとは一緒に帰るのに、俺はダメなの?」



いや、渉とは一緒に帰ってるだけでデートじゃないし。



「なんで俺とじゃダメなの?」



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