シノブさんのお友だち
シノブさんが北六甲乗馬クラブに来る時は、午後から来られて夕方まで練習されます。お一人のこともありますが、三人連れの時もあります。三人連れの時にはレストランで晩御飯も食べて帰られます。三人連れの時に紹介してもらったのですが、
「木村由紀恵です」
「立花小鳥です」
シノブさんも素敵な方ですが、お二人も負けず劣らずで、そのうえフレンドリー。すぐに友達になって食事の時には御一緒させて頂いています。とにかく三人とも、そこにいるだけで目を引かざるを得なくなるほど方なので、馬場にいる時も、レストランにいる時も注目の的を越えて人気者です。
それと驚かされたのは食べること、飲むこと。木村さんなんてあの華奢な体のどこに入るのだろうと思うぐらい食べて、飲まれます。会話もあれこれ弾むのですが、
「タケシさんはオフィス加納で、あの渋茶のアカネさんの弟子なんですね」
「あ、はい」
「大変でしょう」
「お知り合いなんですか」
「ちょっとね」
当然のように出てくる話題が、
「彼女はいるの」
「いえ」
「だったらわたしでどう」
白状しておきますが、シノブさんも含めての三人と同席しているだけで、ドギマギするほどの美しさと魅力を持っています。
「彼女はいませんが、好きな人はいます」
「誰、誰・・・」
問い詰められること、問い詰められること。なんとか交わそうとしましたが、美女軍団の追及にこらえきれずに、
「アカネ先生です」
そしたら三人声をそろえて、
「アカネさんを!」
立花さんなんて椅子ごとひっくり返っていました。
「で、告白したん」
「チューは」
「やったの」
「プロポーズは」
そんなものまだに決まってるじゃないですか。
「恋はウカウカしとったら奪われるで。ここに見本がおるし」
そしたらシノブさんが、
「まだ決着はついてません。必ず奪い返してみせます。売れ残りの会は黙っていて下さい」
次に聞かれたのは、
「どこが良かったの」
そんなもの見ればわかるでしょう。性格だって、ずっと一緒に仕事をしてるから知ってるつもりです。
「こりゃ、ガチやな」
「でも似合ってると思うよ。やっと春が巡って来たんじゃない」
でもそのためには、なんとしてもこの仕事を成功させて、オフィス加納でプロとして認めてもらう必要があると話すと。
「あそこで最後にプロになったんはマドカさんやろ」
「そうよね、十三年前だったかな」
よく知ってるな。
「その心意気は買うけど、プロになれなかったらどうするの」
「あそこでプロになるのは難しいで」
「そ、それは・・・」
グッと詰まってしまいした。プロになったらアカネ先生にチャレンジするのは心に決めていましたが、なれなかった時にあきらめるかと言われれば、
「リンクさせて考えて、モチベーションを高めるのは悪いと言わん。それでプロになれてプロポーズするのは格好がエエとは思う。でもな、なれんかったら、ホンマにあきらめるんか」
「そ、それは・・・」
「好きやったら奪いに行くべきや」
そうは言われても、あまりにも釣り合いが、
「タケシさんは男や、アカネさんは女や。完璧な釣り合いやないか。肝心なのは好きか嫌いかや。好きになって欲しければ奪いにいくのが恋や、それ以外はなんもあらへん」
なんという割り切り。そりゃ、そうなんですが、
「それをやで、たかがフォトグラファーになれんかったぐらいであきらめる気か」
『たかがフォトグラファー』はひどいですが、アカネ先生への恋とは別次元と言われれば、そうかもしれません。
「アカネさんはエエ子やで。ちょっと変わってるところもあるけど、あそこまでピュアな子は、そうそうはおらん。どれほど周囲から愛されてるか見たらわかるやろ」
そうなんです。ツバサ先生なんて目の中に入れても痛くないぐらい可愛がっていますし、サトル先生も、マドカ先生もそうです。いやオフィス加納のスタッフ全員からです。アカネ先生も地獄のアシスタントをやられていますが、そりゃ大変、いや大変を通り越して悲惨なものだったようです。今でもアシスタントが満足できずに落ち込む弟子には、
『これぐらいアカネ先生に較べたら・・・』
とにかく撮影がドンドン延びて、休みと言う休みをすべて食い潰しても足りなかったそうです。その頃を知るスタッフに聞いたことがありますが、
『そりゃ、もう、どれだけ大変だったか』
そうなれば恨みを買いまくりそうなものですが、
『アカネちゃん、いやアカネ先生のためやで、あのまま三年ぐらい続いてもかまへんかった』
そう、誰一人恨んでなんかないのです。ひたすら可愛くて仕方がないみたいなのです。
『アカネ先生の結婚式をみんな楽しみにしてるんや』
『あれだけ綺麗で可愛くなったのに、ホンマ世間の男どもは節穴だらけやと思うで』
それはボクも思いますが、
『もしアカネ先生を不幸にしたらタダではおかん』
『とりあえず珠算一級のオレが半殺しにする』
『いやそれは書道初段のオレの仕事や』
『なにいうてるんや、簿記二級のオレがやる』
『英検四級のオレをさしおいて・・・』
あんまり強そうなのはいないようですが、目がマジで怖いぐらいでした。
「まあ、ええわ。まずプロになることやな。でもなれんかっても、あきらめることはないからな。アカネさんも気づいてるはずや」
「それはどうかしら」
「そやな、そこんとこは変わってるからな」
なにか勇気づけられた気だけはしました。そうだ、好きならなんでも出来るはず。
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