戦恋歌
ノエル
第1話 『終わらない戦い』
「隊長!こちらの……戦線が押し込まれております!……っあ!はあはあ崩れるのも時間の問題です!」
二十代後半の若き新人兵は肺を圧迫するほどの息継ぎを繰り返す。軍服は土埃や微かに服に付着し、黒くなった血跡がある。言葉以上の現状が、戦場の現状が伺える。
戦線が崩れればこの隊だけでは無く、全体の戦況に少なからず影響を与える。張り詰めていた糸が切れると伝播して他がさらに崩れ始める。
敗北は許されない。しかし、兵士が伝えたように戦況は最悪。
天幕の中にいた隊長は外に出て、汚れた兵士に水を与える。片膝をついた兵士は水を受け取ろうとすると顔をあげる。そして隊長の顔を見て驚愕する。
ーー若い……
自分より年齢が下だと分かるほどの顔つき。しかし童顔である事を忘れそうな雰囲気を纏っている。兵士は思わず息を呑む。
「真ん中の隊をギリギリまで下げ、端に戦力を集中させろ。敵が真ん中に攻め込み次第、端にいる隊を壁にし、敵の隊を切り離し囲め。そして討て」
簡単な誘導。引っかかる可能性が少ない作戦。
「現場の指揮は第一小隊の隊長に取らせろ」
「はっ!!」
有無を言わせずに指示して、兵士は走り出す。
隊長はまた天幕に戻る。
〜戦場〜
走って戻ってきた兵士は第一小隊の隊長に伝える。
「分かりました。報告ありがとうございます」
小隊長は兵士を労い、持ち場に戻る。
そこからだ。小隊長の手腕なのか隊長の作戦は成功する。マジックを見ているかのような景色、形勢逆転となった。その日の戦いは押し込まれた戦線を元に戻しただけの引き分けに見えるが、被害は敵の方が大きい。
その日の夜
「勝ったぞーー!」
兵士達は酒瓶を手に持ち、はしゃいでいる。先ほどまでの疲れ切った表情が吹き飛んでいるように見える。
互いに今日の戦果を自慢し合い、一喜一憂している。
「若いのによくやるぜ!あの隊長すげー手腕だな!」
と一部の兵士から声が聞こえ、端で飲んでいる若き隊長はため息を吐く。席を立ち、宴会の会場となっている大きな天幕から出る。出るときに周りをみる。しかしこの中に今日の最もである功労者である影が見えなかった。
外に出ると、中とは違い酒の匂いでは無く硝煙の匂いが辺りを漂う。下を見れば空薬莢が転がっている。
少し歩いて切り株の上に腰を落とす。空を見れば人間という種がどれだけ小さいか、戦争がどれだけ醜いか思い知らされる。
「こんな戦争に何の意味があるんだよ」
手を強く握る。爪が皮膚を破り血が出る。ストレス発散だ。
隣国と争い続け百二十年。今となっては何のために戦争をしているのか分からなくなる。日々、互いに血を流し、意味のない争いを続けている。血で血を洗うそんな言葉すらも似合わない無意味な世界。ひたすらに同じことをして、今日のように少しだけ優勢になればこの騒ぎ。長い目で見てしまえばこんなの優勢も劣勢も無い。
この戦場だけ勝ち続けても意味が無い。これ以外にもいくつもの戦場があり、その分だけ日々の勝敗が決まる。
死ぬまで戦場に立たされ、愛すべき人がいるものは帰れない。愛すべき人に届くのは戦死確認のための身分証明。
誰かが言った。
最大の皮肉を込めて
『
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