職種:マッドサイエンティスト
「どうすんですかぁ!帰れないってぇ!」
二人はあのあとネルトリンゲンに似た町、ネイピアの「ギルド」に来ていたのだ。
「お前、敬体か常体かどっちかに統一しろ。というか異世界日帰りで帰るとか、ここはデ○ズニーランドじゃねぇんだぞ」
奇仁はギルド登録申請用紙を記入していた。
ギルドに登録すると冒険者の職業ならモンスター討伐により、運び屋などの商人の職業なら仕事の斡旋などをギルドが取り持ってくれるのだ。
ちなみにこの情報はネイピアの町の門番に聞いた情報である。
「じゃあ奇仁はどうやってあの発明を世に知らしめるつもりだったのよぉ」
もう結花は半泣き状態である。
「あ?何でそんなことする必要がある?」
奇仁は異世界転移装置を発明すること自体ではなく、異世界に来ることが目標であったのだ。
「はぁ?私も今回のこの発明はすごいと思っているの!だって別次元の世界に来れちゃうってどこ○もドア超えじしてるじゃん!発表しなきゃ勿体ないじゃん!」
「俺が青ダルマに負けるわけがないだろう。よし書けたぞ。早速申請しよう」
奇仁は席を立ち、受付に向かう。結花もそれに続く。
「それは怒られるよ!!」
「はっ!ここは異世界だろう?」
ちなみにこの世界ではどういうわけか言語は通じ、見たことのないはずの字が読めていた。奇仁の推測だと二人が唐突にこの世界に来たとしてしまうと、今まで何もなかった座標にいきなり物体が生まれてしまうことになるので、それを世界のシステムが忌避し、二人を元からこの異世界にいたという設定にしたのではないか、ということである。
だから言葉が通じ、見たことのない文字が読めるという結論に至っていた。
ギルドの受付の人は女性の人で慇懃な態度で接してきた。
「ギルド登録ですね?では登録料1000ペクニア頂きますね」
「おい、登録するだけで金取るのかよ!」
奇仁は手をバンっと受付のカウンターにつく。
「当たり前じゃないで、当たり前じゃない!」
結花は「すみません」と受付の女性に会釈してから奇仁を受付から引っ剥がす。
「は?何で当たり前なんだ」
「こういうところは普通登録料がかかるもんなの!」
「何でそんなことお前が知ってるんだ?」
奇仁の的確な疑問に
「え、あ、いや、そ、それはそのぉ、なんというか、そんなことはどうだっていいじゃな、いいじゃん!それよりお金ないのにどうやって登録するのよ!」
結花は顔を赤くし必死に誤魔化している。
「ああ、そうだな。まず1000ペクニアがどのくらい価値なのかを知るべきだな。ちょっと待ってろ」
そう言うと奇仁はギルドの外へ出る。
(――よかったぁ。先輩、じゃなかった。奇仁にヲタバレしなくて、いやオタクじゃないけどね!―)
そしてすぐにギルドに戻ってきた奇仁。
「どうで、どうだった?」
「店とかの商品をいくつか見てきたが1ペクニアは1円くらいと考えて問題なさそうだ。そして、、いや何でもない。よし!そうと決まれば話は早い。お前はここで待っていろ」
奇仁は再び結花を待たせ、受付へ行く。
「あの、お姉さん。このメダルは見たことはあるか?」
奇仁は内緒話をするように話しかけ小さいプラスチックケースに入った五円玉を受付のカウンターに出す。
「いえ、なんですかこれは?」
「これはメダルオブジパングっていうメダルでな、何と純金でできている。そしてこの穴と模様はこの世界の最先端技術を用いて
「は、はぁ」
受付のお姉さんも困惑気味である。ちなみに五円玉には金などは一切含まれていない。
「そしてさっき周りの店を見回ってそこらの商品からこのメダルの価値を推定するに、10万、いや100万ペクニアは下らないだろう」
「ひゃ、ひゃくまん!?」
「しっ!声がでかい!で、生憎いま我々はペクニアの通貨を持っていない。だからこのメダルオブジパングを担保にするからギルド申請を通して欲しい」
「ですが私たちにそのような貴重なものを預かっておくことは責任的な問題からできません」
「何なら別に返してもらわなくてもいい。それは俺が金を後に払える能力を証明するために出したのだ。だから、さ!いいだろ?」
奇仁は受付のお姉さんに登録するよう「な?な?」と念を押す。傍から見れば強引なナンパのようである。
「はぁ。もう仕方ないですね。解りました。ではこれは担保として預かっておきます。でも本当はこんなことしてはいけないんですからね?」
受付のお姉さんは疑念しか残っていないが奇仁の執拗な要望を受け入れてしまった。
どうやら押しに弱いようだ。
「ああ、すまない。必ず後で払おう」
「では能力の測定をするので、ええともうひとりの方も…」
「おい、結花。来い」
奇仁は結花を手招きして呼ぶ。
「え?登録できたんですか?」
「ああ。俺の巧みな交渉術でな。それよりなにか試験をするらしい」
ノット交渉バット詐欺である。
「あ、そちらの方が
受付のお姉さんはにこやかに挨拶をした。
「はい」
「それよりこれから俺たちは何をすればいいんだ?」
受付のお姉さんは丸い水晶のようなものを取り出し、二人の前に置いた。
「なんだこの丸っこいのは。石英、二酸化ケイ素か?」
水晶玉を水晶と言わずに二酸化ケイ素というあたり乙である。
「奇仁、多分アレだよ、アレ!なんかステータスが表示されるやつ!!」
結花は先ほどとは打って変わってかなり興奮している。
「はぁ?そんなもん俺は知らないぞ。さっきからやたらこの世界に詳しいのは何なんだ」
「え?あ、ま、まぁとっとと測ってしまいましょ、ね?」
「あ、ああ。そうだな。それよりお姉さん、これを使って何が測定されるのだ?」
受付のお姉さんは「え?知らないの?」という表情に一瞬なったのを奇仁は見逃さなかった。
(―知らない俺がおかしいのか?)
「え、ええっとですね、この水晶玉に手を
「何だ魔力値って。というかこんなもので測れるわけ…ゴフッ」
結花が奇仁に肘打ちを入れる。
「な、なにをする」
「ごちゃごちゃ言ってないで早く測りなさい。私空手二段ですよ?」
威圧的に脅迫とも取れる結花の態度に奇仁は命の危機を感じて何も言い返せない。
(―肘打ちは確か反則だろう…)
この時受付のお姉さんは奇仁は将来妻の尻に敷かれるタイプだなと思ったらしい。
「じゃ、じゃあ手を置かせてもらいます」
奇仁は疑念と冷や汗とともに手をかざすと水晶が光り始める。光る文字が水晶の中を巡っていた。
「お、おお?何だこの反応は!?ど、どういう原理なんだ?何かを投影しているのか?」
奇仁はあたりに投影機があるのではないかと見回す。
「手はまだ動かさないでくださいねー。。。はい。もういいですよ〜」
受付のお姉さんは水晶の土台から出てきたカードを一度確認する。そして首を傾げてそのカードを奇仁の前に差し出す。
奇仁が見ようとしたところに結花が割り込んでくる。
「俺TUEEE?俺TUEEE?」
「な、なんだよ。というか何言ってるんだお前は。さっきからおかしいぞ」
「え?いや業界用語ですよ。はははは。それよりどうなんですか、こいつのステータスは?」
「え、ええ。ま、まずですね…」
ちなみにそのステータスは以下の通りである。
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
【名前】 嵯峨乃 奇仁
【性別】 男
【年齢】 不明;18〜22(推定値)
【レベル】 1
〜ステータス〜
体力:150
知力:99999
筋力:120
魔力:8
俊敏:130
防御:50
器用:200
幸運:77
スキル なし
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
「ステータスにもよるのですが大体100が平均値です。ですから知力と魔力を除けば平均的なステータスですね。あーでも、ちょっと器用が高いですね。ただ知力が見たことどころか聞いたことのない数値で……あと魔力が、あの言い難いのですが基礎魔法に支障きたすレベルで低いですね…」
それもそのはずである。そもそも奇仁は魔法の使えない世界から来たのであり、そして何世紀も文明が発達した世界から来たのだから。この魔力値と知力値は当然なのである。
「やっぱ現実は酷なのかぁ。所詮は俺TUEEEはフィクションかぁ」
「だから何なんだそれは」
結花はそういう"用語"をいくら連呼しても奇仁には気づかれないことに気が付き、完全にリミッターが外れている状態である。
「あと、おすすめの職種なのですが、このステータスだと冒険者より商人、特に運び屋が向いていると思います。ただ水晶はまっどさいえんてぃすと?が一番適正値が高いとなっているんですが……すみません。私この職種見たことがないのでどういうものか解り兼ねるのですが、どうします?」
「ああ?マッドサイエンティストだとぉ!?グレイテストサイエンティストとかの間違いだろ!」
「そ、そう言われましても。あとは職種リストがあるのでその中から選んでもらうことになります。ただステータス適正があるので、まっどさいえんてぃすと?が一番適正値が高くてあとは運び屋とか適正値の高いものを選んでもらいますとステータスが上がりやすくなります」
「マッドサイエンティストだってウケる。くすくすっ、ははははははは」
結花は奇仁の左肩をバシバシ叩く。
「痛い。人の肩を叩くな。まあそうなら仕方がない。マッドサイエンティストで登録してくれ」
「はい。かしこまりました」
受付のお姉さんは一度カードを手元に戻し、何かを記入してスタンプをバシッと押した。
「はい、これが奇仁さんのギルドカードです。失くさないようにしてください」
奇仁はギルドカードを受け取ると指で紙の手触りを確かめ、白衣のポケットにしまう。
「では次に結花さん。能力測定をしますね」
「まさかこれを私がやる日が来るとはなぁ…」
結花はもう元の世界に帰れないという半泣き状態から興奮状態に切り替わっていた。奇仁はそれを見てひと安心する。一応連れてきてしまったという形になるので責任が少なからずあるわけだからだ。
(―ふふふ。ライト兄弟の気持ちがよく解るな)
そんなことを奇仁が考えている時、結花は水晶に手を翳していた。ーーだがその様子は奇仁のそれとは異なっていた。
「え!なになになになになに!?」
「す、すごいですよ!結花さん!この反応は!」
「え?もしかして俺TUEEEE!?!?」
「だからそれは何なのだ」
水晶は青く光り、中に見えていた文字が壁に投影されるくらいになっていた。その水晶の反応にギルド内にいた他の人たちも騒つき始める。
「そ、測定が終わったので手を話してもらって構いません」
結花は手を話したかと思うと今度は奇仁の手を握り上下に振る。
「やばいですよ!もしかしてこれは俺TUEEEEで、だよぉ!!!」
「うわうわうわうわ。暴れるな。嬉しいのは解ったから」
「で、では結花さん、ステータスの説明をしますね…」
受付のお姉さんは新しく発行されたギルドカードをカウンターに差し出した。
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