立ち直れたのは
笠井菊哉
第1話
私とコウスケは、
「美男美女の理想の夫婦」
として友人知人に有名だった。
友達から
「コウスケ君みたいな旦那さんと結婚したい」
よく、そんな事を言われていたし、コウスケも
「サナコさんみたいな美人と何処で知り合ったの?」
会社の同僚に羨ましがられていると、夕食の席で良く言っている。
結婚して三年たった今、
「そろそろ子供を作ろうか」
そんな話をしていた時、悲劇が起きた。
交通事故に合い、私は下半身不随になってしまったのだ。
それでも
「コウスケが支えてくれる」
と、信じていたのに、実家の両親から衝撃的な話を聞かされた。
コウスケが
「車椅子になったサナコの介護なんて無理です」
と言い、両親に記入済みの離婚届を手渡して、何処かへ行ってしまったという。
慌てた姉夫婦が、私達の住んでいたマンションに行くと、別の人が住んでいて、コウスケは雲隠れしてしまった。
号泣する私に両親と姉夫婦は
「怪我の功名だよ。あんな屑と別れられて良かったじゃないか」
慰めてくれた。
それから義兄が、コウスケに
「サナコの美貌と、大手出版社でエディターをしている肩書きに惹かれて結婚したのに、これじゃ意味がないです」
と言われたと話してくれたので、私も吹っ切れた。
エディターを辞める事になったのは残念だが、コウスケみたいな人と離婚する事が出来て良かった、今はリハビリに励み、これからの事を考えようという余裕が出来た。
リハビリに通い始めて間もなく、私は高校の先輩であるカナガワさんと再会した。
カナガワさんは、リハビリテーション科で看護師をしているという。
事故に遭ってから、離婚して実家の世話になっているという顛末を話すと
「ヒロオカも大変だったね」
と言った。
カナガワさんも最近、医療事務をしていた奥さんと別れたという。
医師と不倫関係に陥ってしまったらしい。
それから、リハビリの度にカナガワさんと話すようになり、再会して一年後、交際を申し込まれた。
「リハビリを頑張る君に惚れた。一生、幸せにする」
それから私達は交際を始め、間もなく両家の親にも挨拶をして、婚約をした。
婚約して間もなく、私はファッションブログを書き始め、
「元エディターの車椅子ブロガー」
として有名になり、テレビや雑誌、SNSでも私の名前が広まり、ファッション好きの人達の間に知られる存在になった。
コウスケから連絡が来たのは、そんな時である。
「やり直そう」
彼は言った。
何でもコウスケは、
「車椅子の奥さんを見捨てた最低な男」
と職場で噂され、いたたまれなくなり退職したらしい。
退職金は、自棄糞で全額ギャンブルに注ぎ込み、御両親にも見捨てられ、今は日雇いのバイトをしながらネットカフェで生活しているらしい。
「お前、今、稼いでいるんだろう?支えろよ。俺を」
戯言を抜かす彼に、私は間もなく結婚するのでやり直せない、と言ってやった。
驚きながらも
「そいつはサナコの金目当てだ。俺の方が、お前を幸せに出来る」
何だか喚いているコウスケの電話をガチャ切りした後、コウスケの番号を着信拒否にしてやった。
「どうしたの?早く、ドレスの打ち合わせをしよう。今の電話、何?」
カナガワさんに訊かれて、
「何でもない」
と言った後、二人で式を挙げる予定の会場に向かった。
五年後、コウスケには更なる天罰が待っていた。
ビル工事現場の下を歩いていたら、機材がコウスケに落下、彼は寝たきりになってしまったという。
流石の御両親も放って置けずもコウスケを施設に突っ込んだらしい。
その頃、私は二人の子供に恵まれて幸せな生活を送っていた。
その話を聞いても、
「あら、お気の毒」
以外の感情が沸かなかった。
それから、コウスケの事を思い出す事はなかった。
立ち直れたのは 笠井菊哉 @kasai-kikuya715
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