FILE118:リサイタル地獄!?
「クアアア! 残念なお知らせをしなくちゃイカン。楽しい楽しいチリペッパーズのライブはおしまいです。その代わり、たった今から……」
チリペッパーズのメンバーたちをロープで縛り付けた上でマイクを持ち、オウムの怪人は芝居がかった口調で話を続ける。
葵たちが腰を抜かしていた中でひるまないアデリーンと蜜月だったが、蜜月のほうは神妙な顔をして2体の怪人を見ていた。
「お前たちには、万能であるこのヘリックスの【パロットガイスト】の最終テスト相手となってもらう!」
「ハァ!? ふ、ふ、ふ、ふざけんなバケモノーッ! 悪の手先! 金返せ!」
「なにが最終テストよ! ケンヂたちを返してよ!」
「ゴチャゴチャうるさーい!」
目的を告げたパロットガイストに抗議した人々に、相方である【ノイジーガイスト】が目を光らせ口を大きく開けると超音波を発し、彼らを黙らせる。
あまりに不快なその【騒音】は、常人よりもはるかに強いアデリーンでさえも耳を塞がざるを得ないほど。
「頭が、割れそ~ッ!?」
「ッ! アデレード、オウムのほうは見たことあるよッ。ヘリックスにいた頃の仮装パーティ、じゃなかった、……怪人お披露目パーティーに、テストモデルが出されてたうちの1体……だ!」
超音波攻撃は収まったもののダメージは大きく、蜜月はアデリーンや葵に竜平以外には聞こえないように小声でつぶやき、アデリーンはというと強い刺激と苦痛のあまり両目を閉じながらもしっかり聞く。
蜜月のほうは片目までつぶって必死な表情だった。
「クックックックッ……!」
舞台裏の楽屋を通って、スタッフのうちの1人が舞台に上がる。
そのスタッフは茶髪でサングラスをかけており、それを外すと同時に金色の眼を光らせた。
――ヘリックスの幹部メンバー、禍津だ。
アデリーンも蜜月も変身して迎え撃ちたかったが、大勢の前で無闇に変身して混乱を招くわけにはいかない。
「この人数がちょうどいい。【チリペ】好きのみなさんには申し訳ないが、最終テストには付き合っていただく! やれ!!」
「クアアア!!」
緑色のオウムのサイボーグが会場中に金切り声を響かせる。
とっさにアデリーンが「伏せて!」と指示したことで蜜月に葵、竜平に那留はしゃがんだ上でそれぞれ両手やヘッドホンで耳を塞いで無事だったが、しかし、パロットガイストの叫びを聞いた観客ほぼ全員が一瞬オレンジ色の光を放ち――。
「……このブス!」
「何がブスよ、このブ男!」
「10万くらい課金したーい!!」
「サイテー! あんたなんか嫌い、離婚してやる!」
「あーあ! こんな厚化粧ババアより、もっと若いネーチャンと結婚したかったなあ~!!」
「ワガママ女!」
「はぁ~!? そーゆーアンタだって、顔しかいいとこないじゃん! ほかに何があんだよ! えぇッ!? 言えよ! 言ってみろよ!」
――なんと、いっせいにお互いを罵り始めたのだ!
言葉で傷つけあうだけでなく、暴力・流血沙汰にも発展してしまった。
「予感が的中しちゃったわ。これはまるで……」
「スクウォークッ! そうだ、【本音】だ! 俺の特殊音波によって、そいつらには普段言えない本音を言わせるよーに仕向けたのだぁ!」
「ま~たそうやって、自分からバラしていくのね。おしゃべりさんだこと」
安全を確保できたところで、アデリーンは調子に乗ってしゃべりすぎてしまったパロットガイストを痛烈に皮肉る。
これでは、アデリーンの誘導尋問に敵のほうから引っかかったようなものだ。
「アデレード~! あんたばっかりパワーアップしててずるいぞッ! ワタシだって新しい武器とメカほしいのよ――――ッ!!」
「わっ!? み、ミヅキ落ち着いて! このッ!」
そこに突然、耳を塞いでいたはずの蜜月が唸り声を上げてアデリーンにつかみかかろうとする。
驚くもすぐ適切な対処法を思いついたアデリーンは彼女を押さえ込み、次の瞬間「バシィッ!」と、蜜月の頬に強烈なビンタをかました。
いい音がして葵たちは目を丸くして肩をひきつらせたが、これでも本気でやれば蜜月の首がちぎれ飛んでいたところをだいぶ加減したのだ。
「ハッ!? ワタシ今なにを……ヴェッ」
半分目が回っていたが、蜜月は正気に戻り途端にアデリーンに手を取られてそのまま引っ張られる。
もちろん葵やナルに竜平のズッコケ高校生トリオもいっしょだ。
「せ、説明しろよー! なんでビンタしたの!」
「あなた運が悪いことに敵の術中にハマったの! それで本音を言わされ、私に襲いかかって……」
「本音ぇ!? は、恥ずかしいーッ!」
「とにかく、今は逃げましょーッ!」
葵からも促された通り、アデリーン一同はひとまず逃げ出す。
人々を、チリペッパーズを見捨てたのではない。
できるだけ敵を引きつけて遠ざけ、彼らを助けるための作戦なのだ。
「追え、追うのだー! …………俺はまだ足が痛むから、帰らせてもらう!」
禍津の指示通りパロットガイストが飛び立ち、ノイジーガイストがその後をドタドタ走りで追いかける。
当の禍津はライブハウスの制服を脱いでからワープで帰ったが、足元がガクガク震えておりどこか痛々しくもあった。
「クアアアアアア!」
「バクオ――ン!」
ライブハウスから街に飛び出したアデリーンたちを、怪人コンビが執拗に追いかける。
パロットは空から、ノイジーは地面からだ。
上からも下からも迫る敵を前に、アデリーンは全員の安全を確保できるまで逃げ続けるつもりでいる。
「バイクに乗れたらいいんだけどね……!」
「クアアアア! ペッ、ペッ!」
卑怯にもパロットガイストは、アデリーンたちが足並みをそろえて走っている進行方向に向かって、口から黄色く汚いタマゴを吐き出した。
それもただのタマゴではなく、爆弾だ!
「うわッ!」
「き、きたねぇ!」
立ち止まらざるを得なくなったところにパロットガイストが着地し、ノイジーガイストにも追いつかれてしまう。
翼と一体化した両腕を大きく広げて怪しく笑うパロットよりも先に、ノイジーは上半身からいくつも生えた腕を薄気味悪く動かしながら手を出した。
竜平よりも先に葵にだ。
「キャッ!?」
「あ、葵ー!? ウッ!!」
「卑怯者ッ!!」
それは卑劣な罠であり、まんまと竜平も捕らえることに成功――したのだが、怒ったアデリーンと蜜月にすぐさま食いつかれて、連続でパンチやキックにチョップ、目つぶしという流れるようなコンボ技を受けて捕らえた2人を手放し、そのまま転倒した。
ノイジーの相棒であるパロットは下品に笑っているだけで、その時ばかりは何もしていない。
「えいッ」
「クアアアアアア!」
そのパロットガイストも蜜月からエルボーをかまされて地べたに這いつくばらされる。
舌まで飛び出て痛そうにしていた。
「こ、怖かった。声デカイし下品だし気持ち悪いし!」
「もう大丈夫よ。あとは変身してこいつらを……」
ひどく動揺して半べそをかく葵の頭をなでて落ち着かせ、変身するその前にアデリーンは那留のほうを向いて確認を取らんとする。
蜜月はその間にも既に身構えており準備はばっちりだ。
「ナルちゃん、今見たことは内緒にしておいてくれる?」
「え、ええ、そうします。ハイ」
言い淀んではいたが彼女と約束したところで、アデリーンは蜜月とともにいつも通り変身しようと試みる――。
「あ、危ねえから母さんとお姉に知らせないと」
「こらリュウヘイ!」
「んんんん? こいつぁ良いことを聞かせてもらったぁ。さては、お前んトコの姉ちゃんとババアも近くにいるんだな? スクウォ――――――クッ!!」
しかし、竜平がスマートフォンを取り出して連絡しようとした刹那、一瞬の隙を突いてパロットガイストが耳障りな声で大きく叫びアデリーンたちをひるませる!
「しまっ!?」
「キャアアアアア!?」
「リュウヘイ!? アオイちゃーんッ!?」
「バクオーン……どけどけッ! 待っとくれよー!」
その隙に竜平と葵をかっさらい、空に羽ばたいてしまった。
ノイジーガイストも起き上がって取り残されたアデリーン、蜜月、那留を突き飛ばして、相方の後を追う。
やはりドタドタ走りだった。
「あわわ、どうしよう。アタシ、あおちゃんと一緒にみんなに元気を分けてあげたかったのに……こんなはずじゃなかったのに」
キョロキョロと不安そうに辺りを見回して、那留はおびえ出す。突然ヘリックスの怪人が現れて、てんやわんやの大騒ぎの果てにこの有様となったわけだから、無理もなく――。
そんな那留に蜜月が申し訳なさそうに寄りかかって、彼女の体や服についていたホコリや煤を払う。
その傍ら、少し悔しそうに、その場に残った竜平のスマートフォンを拾い上げたアデリーンは、「ダメダメ、幸せが逃げてしまう」と、心の中でそう言い聞かせてから目元は優しく、口元もゆるませる。
綾女直伝の笑顔の秘訣だ。
これで強張っていた顔も自然と笑顔になれた。
「大丈夫。みんな取り戻してハッピーになりましょう」
そして彼女も、那留にそう語りかけて竜平と葵の救出を誓い、那留から不安を拭い去った。
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