FILE094:スパークルネクサスだ!

 それから翌日のことだった――。

 クラリティアナ邸の地下の秘密基地で、アデリーンは妹のエリスに手伝ってもらいながら、さまざまなシチュエーションのもとにVRトレーニングを行なっていた。

 バディを組んでいる蜜月みづきとは今は別行動であり、彼女は友人の【ムーニャン】という、情報屋の女性と行きつけのカフェで飲んでいる最中――だと、本人から連絡が入っていた。


「姉さん、そろそろ休憩したほうがいいんじゃない?」


「それもそうね」


 トレーニングメニューのうちの1つ、【ジャングルの猛獣たちとの組手】を終えたアデリーンがカラス張りの自動ドアをくぐってエリスに寄り添う。

 彼女の前にあった操作盤の電源を切ってから、アデリーンは妹を連れて地下の基地から地上のリビングへと移動する。


「父さん、母さん、お茶にしま――?」


 陽の光が外から差し込むリビングで、テーブルに向かっている両親に声をかけようとしたアデリーンだが、物々しい雰囲気に戸惑い、浮かない顔もしていたことに違和感も覚えてゆっくりと近付き、エリスと一緒に座る。


「何かあったのね?」


「これを見てくれ」


 アロンソが不安そうに、娘に1通の手紙を渡す。


「『敦森高校の旧校舎でお前らを待つ。浦和竜平と梶原葵を返してほしければ、そこまで来い。偉大なるヘリックスの大幹部ドリュー・デリンジャー』……あのヘタレコウモリ……」


 Hの字が螺旋を描いたようなマーク入りの黒い便箋から取り出すと、そこにはそう記されていた。

 読み終えた彼女が柄にもなく毒まで吐いた通り、組織内でも立場の無い彼の真っ赤な嘘も堂々と書かれていたのである。


「行くのね?」

「うん。私がやらねば誰がやるって、そういうムードじゃないですか」


 口を横一文字にして、真剣な顔でアデリーンは両親の前で宣言する。

 エリスは、心配になったのか胸に右手を当てた。

そんなエリスのほうを見て、アデリーンは口元を緩めて自身のほうを向かせる。


「エリス、お留守番お願いね。父さんと母さんのことは頼んだわよ」


「……ご武運を!」


 愛する妹にあいさつを交わし、託したところでアデリーンはクラリティアナ邸を発つ。

 敦森あつもり高校の旧校舎に向かう途中で蜜月の行きつけのカフェこと、喫茶バー【サファリ】にも立ち寄る。


「アデレードかい?」

「おっ、来たね。青と白のヒーローさん!」


 おしゃれで華のある外観通り、大人な雰囲気漂うその店内で楽しそうに語らっている蜜月と、豊満すぎるボディの店主メロニーと、そんな2人と思い出話に花を咲かせている黒いお団子ヘアーにチャイナファッションの情報屋を見て、アデリーンは早速近寄り、蜜月と情報屋のムーニャンも彼女のほうに振り向く。


「さすが、とっくにご存知だったみたい。あなたがムーニャンさん? 悪いけど今はゆっくりお話ししてる時間は無いの。また今度ね!」


「OKにゃーん」


「お気をつけて……。アデリーンさん、また飲みに来てね♪」


 こうして蜜月の友人たちから見送られると、アデリーンは蜜月も連れてマッハで専用マシンを飛ばし、2人でデリンジャーが待つ旧校舎まで走る。

 そこはオーソドックスな外見の校舎となっていて、既に解体が決まっていたにもかかわらず周りには誰もいない。


「オバケでも出そうな感じよね。いや、待ってんのは根性なしのコウモリ君だけど」


「もー、バカなこと言ってないで行くわよ」


 校舎の中へと潜入するが、戦闘員のシリコニアンすらいない。

 さすがに怪しいとは思ったが、内部を捜索する限りとくに罠もないようで――アデリーンは自身の超感覚を使ってデリンジャーが竜平と葵のカップルを幽閉している部屋を探し出す。


「竜平っちも葵っちもどこに閉じ込められてるのやら。探ってみてくれ」


「かつて3年D組の教室だった部屋みたいよ」


「よっしゃ! 首洗って待ってろコウモリ男!」


 ロン毛の熱血先生や生涯一教師――ではないが、そのクラスルームへとカチ込む。

 わけでもなく、まずアデリーンはそのクラスルーム前の廊下でフラメンコギターを取り出した。


「それってあれでしょ。正しき心の持ち主を癒し、悪しき者どもには地獄の苦しみを与えるという……」


「ご静聴願います」


 アデリーンは、フラメンコギターを弾き始める。

 裏社会の殺し屋だった蜜月はその演奏に心癒されて聞き入り、中に閉じ込められていた竜平に葵、その2人の友人の柳沢も心が洗われるような聞き心地であった。


「ウッ!? こ、この美しいが耳障りな音色は……オアアアアアアア」


「頭が、割れるゥゥゥゥゥ!?」


 しかし、ドリュー・デリンジャーはそうはならなかった。彼は白目をむいてまで苦しみ出し、両耳に手を当てる形で頭を抱えて苦痛にあえいだのだ。

 デリンジャーの支援と監視を命じられたフリッツも、既にデリンジャーによって無理矢理変身させられてしまっていた、油田蝉丸も――。


「スーパーヒーロータイムだコラァ!」


「うわぁぁぁ!?」


 アデリーンが演奏を続ける中、蜜月は深呼吸――からの、凶悪な笑みを浮かべて教室のドアを乱暴に開ける。蹴破ってはいない。

 あまりに急すぎたため、彼女らが来るのをスタンバっていたはずのドリュー・デリンジャーは腰を抜かし、逆に竜平たちは彼女らが助けに来たことを心から喜ぶ。


「黒板消しくらいドアに挟んどきなさいよ。デリンジャーくんってば、人質を取る卑怯者のくせして、変なところでオツムが回らないんでちゅねぇ~~。ザーコ、ザーコ」


ご清聴・・・ありがとうございました。みんな、私たちが来たからにはもう安心よ」


 演奏を終えたアデリーンもそこに入って、2人のヒーローが今ここに並んだ。

 コケた勢いで腕を打ってしまったデリンジャーが呼吸を乱して尻もちをついたまま後退し、シケーダガイストに変えられた教師・蝉丸は自身の中に芽生えた邪悪な心に必死に抗い、フリッツは苦しむあまり白いスカーフをつかんでかきむしりそうにもなったが、安堵していた葵を見ていやらしく笑うと一気に近付いて銃を突きつける。


「アデリーンさん、ミヅキさん。……キャッ!?」


「動くなッ! 動いたらこいつらを殺すぞッ。せっかく助かりそうな命を目の前で失ったお前たちが、絶望のどん底に堕ちるところを見てみたァい……。ゲハハハハハハハぁッ」


 気が触れたような物言いをして、立ち上がったフリッツは今にも拳銃の引鉄を引こうとしていた。

 マズイと、そう思ったデリンジャーはびくびくと体を震わせながら止めようとする。


「お、おいフリッツ! その子はぼくが慰めるんだぞ! それに浦和のガキを殺したらビッグガイスターの……」


「マスター・ギルモアがおっしゃられていたことをお忘れか? あの方のご意思とご命令が最優先でしょうが!」


 仲間割れをはじめた敵を尻目に、アデリーンと蜜月は変身する準備を整えていた。

 悠長に待ってやるつもりは無く、すぐに竜平と葵、柳沢を助け出そうというのだ。


「【氷晶】」


 彼女は、金色のロングヘアーをなびかせて右手を天井に向けて突き上げる。

 青い閃光が走り、全身に青と白のメタル・コンバットスーツを装着する。

 そのプロセスはわずか0.05秒に過ぎない。


「【新生減殺めっさつ】」


 ≪ホーネット! ホッ、ホッ、ホーネット! ニューボーン!≫


 彼女は、右腕につけたブレスレットを起動すると、金と黒の十字剣・スレイヤーブレードの刃を下に向けて構える。

 金と紫のオーラに包まれると、スズメバチを彷彿させるビジュアルで、メタリックゴールドの強化スーツをまとった姿に変身だ。


「零華の戦姫、アブソリュートゼロ!」


「月夜に舞う黄金の影、ゴールドハネムーン!」


 ダブル・ヒーローが決めポーズをとったところで、悪党たちはたじろぎ、人質にされていた竜平たちは「希望を捨てなくてよかった」と、胸をなでおろした。


「く、くっそー、なんでぼくばっかりこんな目に遭わなきゃならない……!?」


 ≪バット!≫


「ダメだこりゃ!」


 ≪フリック!≫


 おびえているデリンジャーとすっかりあきらめた顔のフリッツも、それぞれジーンスフィアとマテリアルスフィアをねじって怪人の姿へと変身。

 コウモリのディスガイストと、全身をバラバラにできる人体標本のようなディスガイストが、セミのディスガイストと並び立つ。

 その刹那、アデリーンはバットガイストとシケーダガイストを殴って教室からグランドまで同時にぶっ飛ばし、その間に竜平と葵と柳沢を連れて逃げる。

 蜜月はフリックガイストを蹴飛ばして、うまく合体も分離も出来ないように毒で一時的に痺れさせた。


「さ、作戦変更だ! 学校ではなく街中の人間をお前の殺人音波で操って、皆殺しにしろッ!」


「ジュミョーッ! もう……たくさんだ!」


「役立たずめッ! 洗脳レベルを上げてや……」


 バットガイストとなったデリンジャーが、抵抗し出したシケーダガイストへ怪しい薬が入った注射器を刺そうとしたとき、追走したゴールドハネムーン/蜜月がそれを銃撃して破壊。

 ガラス片と液体がその場に落ちてこぼれた。


「なんてことを――ッ!?」


「前にショッピングモールでアイビーガイストに変身してたヤツが、似たようなのを注入してたのを見たんでさ。そういうのは好きじゃな~~いの」


 蜜月は、デリンジャーを銃撃して切り刻むと、彼を校庭から街外れの資材置き場まで吹っ飛ばす。

 追いかける前にシケーダガイストにも容赦のない攻撃を加えるが、あくまでも正気に戻すためで、殺すつもりなど毛頭ない。


「さ、リュウヘイもアオイちゃんも、お友達も、今のうちに逃げて!」


「わかった! ……ありがとね」


「どういたしまして」


 アデリーンは、竜平たちを逃がして蜜月と合流する。

 彼女の肩を叩いて振り向かせると、「セミマル先生は私に任せて。ミヅキはデリンジャーを」と、頼み込んだ。

 蜜月はそれに応じて、「承ったぜ!」と、背中の赤紫の翅を展開して飛んで行く。


「た、頼む。またわたしが暴れてしまう前に……」


「はい。私が先生を元に戻します」


 アデリーンが覚悟を決めて右拳に力を溜め、青く光らせた時である。

 大量の金属片が空から押し寄せてアデリーンと油田蝉丸を横切り、火花を飛び散らせたのだ。

 その金属片は合体してフリックガイストの姿かたちをとるも、蜜月に打ち込まれた毒の影響か少しよろめいていた。


「バラバラバラバラ! そうはさせんぞ! ゼェゼェ……」


「セミマル先生をまた、いいように操ろうっていうのね」


「違うなあ。そいつを殺してやるのよ……」


「それだとデリンジャーの作戦を妨害することになるけど、あなた……仲間を裏切る気?」


「そもそもオレはデリンジャーごときに従っているわけではない、禍津様の部下だ。フリック・アウト!」


 フリックガイストは思惑に気付いたアデリーンを嘲笑い、口封じをするようにまたパーツを分離させ、縦横無尽に飛び散らせてかく乱。

 一部の金属片は彼女の体に噛みつかせて、自由を奪う。


「フリック・ショット! バラバラバラバラバラバラ!」


「くッ」


 ピンボールの要領で無数の金属片を跳ね飛ばしてアデリーンを滅多打ちにして、シケーダガイストも巻き込んで大ダメージを与える。

 動けないアデリーンだったが、金属片を凍結させ粉砕するとすぐに立ち上がって、飛びついて来たパーツもつかんで凍らせ、フリックガイストへと投げ返す。


「このッ!」


「ジュミョオオオオオオオオ!」


 逆上したフリックガイストがアデリーンに反撃しようとした時、シケーダ/蝉丸がフリックガイストに体当たりし、更に超音波を発してフリックガイストのボディを振動させて、ばらけさせた上で気絶させた。


「今だ。今のうちに……」


「セミマル先生……はッ! マイナスフォーティーブロウ!」


 右手を握りしめて力を込め、氷をまとう必殺パンチをシケーダガイストへと繰り出す。

 爆発四散するとともにジーンスフィアだけが砕け散り、油田自身はアデリーンによって爆発の中から救い出され、安全なところで降ろされる。


「す、すまなかった。頭がおかしくなってたとはいえ、わたしはこんなにも暴れて……」


「いいんです。先生も早くここから逃げてください」


「ありがとう」


 アデリーンは、またフリックガイストが追撃してこないか警戒しつつも、元に戻ることができた蝉丸を見送り、そのあとセミのジーンスフィアだった破片を回収する。

 件のフリックガイストは、怒り心頭で起き上がってパーツを飛ばしてきたが、アデリーンはそれを手刀で粉砕する。

 フリックガイストの体から少し、力が抜けて行った。


「き、貴様……、アブソリュートゼロめ!」


「だから、悪さなんてするものじゃないのよ。……マシンブリザーディアッ!」


 後ずさるフリックガイストを、見す見す逃すような彼女ではない。

 専用マシンのブリザーディアを召喚するとそれに飛び乗り、更に超感覚によって蜜月がデリンジャーをどこまで遠ざけたかを瞬時に把握。

 フリックガイストを少し凍らせた上で彼めがけて突進し、そのまま資材置き場へと急行する。


「バラバラバラバラッ!?」


「なにイ! げえNo.0!?」


 空中戦でも蜜月に完全に圧されて地べたに落っこち、もう泣き出したい状況に置かれていたデリンジャーのもとにフリックガイストが叩き落とされる。

 そしてアデリーンは専用バイクから降りて、右のハンドルを引き抜き――協力無比なビームソード・ブリザードエッジへと変形させ、蜜月と並び立ってデリンジャーへと突きつけた。


「よっしゃ、これで鬼に金棒だなっ。ワタシよりも更に強いアデレードが来てくれたんだからね」


「どうやらこれを使う時が来たようね。一気にカタを付けましょう」


 確固たる自信を持って蜜月とともに宣言したアデリーンは、虎姫から送ってもらった強化パーツ――【ネクサスフレーム】を取り出して、右腕の腕時計型デバイス・ウォッチングトランサーへと取り付ける。

 すると、自動的に2つの環が交わった形状へと変化し、デバイス全体を半透明のエメラルドグリーンの追加装甲が包み込んだ。


「うわあああああああああああああああ! な……なななな、何をする気だァ――――!?」


「こうする気よ」


 アデリーンがウォッチングトランサーを左手でタッチした時、全身からエメラルドグリーンの淡い光が放たれる。

 バディを組む蜜月はそれを静かに見守り、バットガイストは恐怖からフリックガイストと肩を寄せ合おうとするも拒否された。


(――父さん、母さん、コウイチロウ父さん、リュウヘイ、アオイちゃん、アヤメ姉さん、サユリ母さん、ミヅキ、メロちゃんさん、会ったばかりだけどムーニャンさん、ヒメちゃん、カタリナお姉ちゃん、みんな……力を貸して)


 自分を育ててくれた家族のことも、既に天国へと旅立った人々のことも、新たに家族となった人々のことも、友となった人々のことも――。

 今までに出会い、別れてきた者たちへと思いを馳せて――アデリーンは祈る。

 そして、エメラルドグリーンの光が激しさを増した。


「【スパークルネクサス】」


 青と白のボディに新たに淡いエメラルドグリーンが加わり、マフラーも同色のものへと変わり、背中からはクリアー・ブルーの氷の結晶で出来た翼が広がって、下半身には従来の機能的なスカートに加えて新たに青いコートが加わった。

 ――それは、アブソリュートゼロのスーツの新たなる姿だ。

 その名もスパークルネクサス。


「か、カッコええやん……」


「行くわよ、ミヅキ!」


「ああ! やっちゃおうぜ!」


 今やヒーローの定番中の定番であるパワーアップを果たしたことにより、蜜月にはアデリーンの姿がこれまで以上に頼もしく見えたし、輝いて見えた。

 比喩や誇張表現は抜きに、だ。


「あ……? あ……? か、勝てない。勝てっこないだろう……? こんなの……! アイエエエエエエエエエエ」


 希望がわき上がった2人のヒーローとは違い、恐怖心が限界に達したデリンジャーは逃げ出そうとするが、飛び立とうとした瞬間にフリックガイストともども光の速さで接近してきたアデリーン/アブソリュートゼロに阻まれ、蜜月からのコンビネーション攻撃を受けて張り倒される。


「デリンジャーくんよ、どこへ行くんだぁ?」


「せ、戦略的撤退だあ! ハチがコウモリにかなうと思って……!?」


 おびえから逃走することをそれっぽく言い訳しようとするデリンジャーに、アデリーンが雄叫びを上げてからの鋭いキックと斬撃を浴びせ、更に光線銃・ブリザラスターでアイスビームを撃ち込んで追い打ち。

 またも地面に崩されたデリンジャーは、しばしの間ジタバタしてからうめき声を上げるだけで動かなくなった。


「ちっ、こっちが泣きたいってのに使えないヤロウだ……。しょせんは闇バイヤーからの成り上がりか!」


「ドラァ!」


「バラバラバラバラッ!?」


「次はあなたよ、フリッツ!」


 ビームソードと金と黒の十字剣が、情けも容赦もなくフリックガイストへと向けられる。

 また分離して回避しようとしたが、ビームソードの一太刀のもとに全パーツが凍結し動けなくなって、その上で蜜月が十字剣・スレイヤーブレードで凍ったフリックガイストのボディを突いて毒に冒す。


「ふぇぇへへへへへ、これで二度と分離も合体もできないねえ~~ッ」


「全身を分離・分散できる代わりに、合体しなければ元には戻れないしパワーも出しきれず、パーツが1つでも欠ければ途端に弱体化を引き起こす。それに一時的にでも不死身になれるわけではない。それがあなたの弱点よ」


 おどけてみせた蜜月の横でフリックガイストをまくし立てたアデリーンは、ホルスターにブリザラスターを差して、右手に持ったブリザードエッジを真横に構えて精神を統一する。


「く、くそ、動けオレの体! なぜ動かん! なぜ氷が溶けん!?」


「これで終わらせる。グレイシャルストラッシュ!」


「グアアアアアアアアア! オレはフリックガイスト、でも人生からはドロップ・アウトオオオオオオオオオオオ……!!」


 そして、フリックガイストへ向けて、輝くほど冷たい吹雪のエネルギーをまとった超必殺剣を繰り出した。

 エメラルドグリーンとブルーに輝くそれはフリックガイストの体をやすやすと切り裂き、ド派手に爆発四散させるのだった。

 爆炎とともに、資材置き場には雪のように氷と光の粒が降り注ぐ。

 それをひるんで動けない状態でまざまざと見せつけられたデリンジャーは、完全に戦意を喪失している。


「そこッ」


「ぎにゃあああああああァァァァァ」


 アデリーンはまだ残っていたデリンジャーを逃がさない。

 氷の翼で羽ばたいて彼のもとへ飛来するとすれ違いざまにエメラルドグリーンの軌跡を描いて切り裂き、積まれた資材へとぶっ飛ばしてこれまた派手に大爆発させた。

 大ダメージがたたって変身を解除したデリンジャーは、全身傷と煤だらけになって横たわり、プルプル震えておびえた声を出しながら起き上がる。

 しかし、アデリーンたちに威圧されてまたまた腰を抜かした。


「ち、ちきしょおおおおおおおおおおおお……! 覚えてろっっっっ!!」


 完全に勝ち目のなかったデリンジャーは、大慌てでワープして逃走したのだった。

「ヤレヤレ」と、アデリーンは変身を解除して、蜜月も続けて元の姿に戻る。


「おーい、アデリーン!」


「ミヅキさーん!」


 どちらも「やりきった」という笑みをこぼして資材置き場から道路に出たが、そこに避難していた竜平と葵もやってきて声をかける。

 友人の柳沢とは別れたようだ。


「帰ってお茶でもしましょ」


「そだね」


 高校生カップルに笑顔で振り向いたアデリーンと蜜月は、合流してそのまま遊びに出かけるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る