FILE067:ワタシに惚れるなよ

 ――そして、翌日。

 蜜月の各装備とガジェットが、チューンナップを終えた。


「ぜー、はー、はーっ。我々が一晩でやりきりました。こちらになります」


 ラボの事務室に集ったアデリーンたちの前に、かなりオーバーな感じで息を切らしながら片桐ら科学者一同が蜜月の装備をまとめて持ってきた。

 いずれもチューンナップされたことにより、大まかな外見や細かい装飾まで、何から何まで変わっていた。

 まず、ジングバズショットだが、金色と黒を基調とした色調はそのまま、差し色として新たにダークレッドと紫紺が加わった。

 次にバズソードだが、十字架を思わせる形状はそのままで、刀身が黒みがかった金色に変わっており、やはりダークレッドと青紫がアクセントとして追加されていた。

 その次はハニースイートダガーだが、これについてはあまり変化は無い。

 が、やはりダークレッドと青紫がアクセントとして加えられている。

 最後にブレスジェネレーターだが、コンパスの針のようなパーツはそのままで、これもほかの装備と同様にダークレッドと青紫が使われていた。

 ――なお、どれも金色の割合が増えていたが、いずれも配色のバランスを崩してはいない。


「な、なにい~~~~!? ワタシが長年苦楽をともにしてきたバズソードたちが、こんな風に生まれ変わるとはっ!?」


「えっとですね、名前も変えさせていただいております。剣は【テイラースレイヤーブレード】、銃は【テイラーキルショットヴァイザー】、ナイフは【テイラーハニースイートダガー改】、腕輪は【テイラーブレッシングヴァイザー】、と言った風に。また、【ゼノシウム】合金や【シルバリウム】合金といった、我が社で使用している素材も使わせていただき、よりセーフティかつ、より強力に仕上げました」


「……自社PRが激しいんですね。おトラさん」


「おほん!!」


 少しだけボヤいたが、それはそれとして蜜月は1つずつ受け取って行く。

 ふと、1つだけ何か足りないと思った蜜月は、片桐に対して次にこう訊ねた。


「1つ質問いいですか」


「どうぞ」


「スズメバチのジーンスフィアはどこに行った?」


「蜂須賀さんのようなカンの良い人は嫌いだよ……なんて、冗談ですよ」


「でもこの場にないじゃないですか?」


 片桐とテイラーは、【ブレッシングヴァイザー】へと生まれ変わったブレスレット型ツールを指差す。

 疑念を抱く蜜月はそのブレッシングヴァイザーを手に取るが――かつてジーンスフィアをはめ込むスロットとして使っていた部分を見ると、そこにスズメバチの紋章が描かれていた。

 蜜月だけでなく、アデリーンもそれを見て眉をひそめる。


「ヒメちゃん、これはいったい何がどうなってるのかしら……」

「わたしから話そう。もはやパワードスーツと言っても過言ではなかったホーネットガイストのボディのデータを、我々の技術でアデリーンが使用しているメタル・コンバットスーツとほぼ同様にカスタマイズを行なった。そして、蜂須賀さん専用に適応させてから、それを粒子化させてそのブレッシングヴァイザーの中に収納したのだ。その代わりにジーンスフィアは『消失』してしまったが……。データはすべて、ブレスレットの中の記憶領域に移植されたよ」


 ――やはり、そういうことか。返す言葉が見つからない。蜜月はそのブレッシングヴァイザーをそっと懐に片付けた。


「お虎さんも、片桐さんも、ありがとうございました。それで代金のほうは――……」

「結構だ。お代だなんてとんでもない! ヘリックスとの戦いに存分に役立ててほしいな」


 そうして、蜜月は虎姫とお互いに良い笑顔をして握手を交わし、そのあとアデリーンも加えて3人で熱い抱擁を交わし、最後には磯村も加わって全員でハグした。――片桐はその輪の中に入れてもらえず、真っ白に燃え尽きた。



 ◇◆



「や~カッコよくなったな……元の色合いも好きだったが、これはこれで」


「変身してみて!」


 テイラージャパンのハイテクビルを後にしたアデリーンと蜜月は街の中を散策しており、その途中でアデリーンは蜜月に持ち掛けていた。

 ブレッシングヴァイザーを用いて【減殺】し、生まれ変わったホーネットガイストの姿へと変身することをだ。

 そのために人通りがなく、街を見下ろせる高台まで移動していたのだった。


「もう、ホーネットガイストとは名乗れないな。新しくヒーローネームが必要だが、何がいいかな。レディ・スティンガー……いやそのまんまか……」


「ゴールドハネムーンなんてどう?」


「言うほどゴールドじゃないぜ? スラスターガール……って、これじゃやられ役になっちゃうブーン」


「ワスピー……これも愛されるけどやられちゃうわね」


「イエロージャケット……ってこれじゃヴィランだ」


 ヒーロー活動をするからには、それにふさわしい名前を考えなくてはならない。

 いろいろ話し合ったが、一向に決まらず2人は首をかしげた。

 その果てに思いついたのは――。


「しゃーない。アデリーンの案を採用しよう」


「ワスピーのほう?」


「ちがわい。……まあ、見てて」


 アデリーンの前でカッコつけた風な口調で言いきってから、蜜月は右腕にブレッシングヴァイザーを装着して、更に――【キルショットヴァイザー】へと生まれ変わったも銃型ツールも右手に握る。

 それまでのクセでジーンスフィアを取り出しそうになったが、「もうこの世にはないんだったな……」と、別れを惜しむような表情を浮かべる。

 左手でブレスレットの紋章部分をタッチした刹那、まばゆく光り出す――。


「【減殺】」


 真正面にキルショットヴァイザーを構え、エネルギーを撃ち出したとき、蜜月の体は金色と紫の光に包まれた。

 瞬く間にホーネットガイストの姿へと変身したかと思えば全身に亀裂が入り、その下から――より禍々しくも、よりヒロイックに生まれ変わったメタリックゴールドとメタリックブラックのボディが姿を見せた。

 ほのかに紫色が混じった赤い複眼、マスクも歯牙がむき出しのものから無機質でヒロイックなものへと変わっていた。

 各装備と同じく差し色として新たに加わったダークレッドと青紫も、その新生ボディを彩る。

 更に、どこか中性的な外見だった以前までとは違い、女性的な外見となっており、それを目撃したアデリーンは、よりスタイリッシュな印象を受けたのだった。


「かっこいい――」


「おいおい。ワタシに惚れるなよ?」


 動作確認も兼ねて、蜜月は変身してその新メタル・コンバットスーツをまとった状態でおどけてみせる。

 手も足も何も問題なく動かせたし、アデリーンはこうして喜んでいる。

 ……となれば、次に蜜月がやるべきことは決まっていた。


「ホーネットガイスト改め、【ゴールドハネムーン】。それがヒーローとしてのワタシの名だ!」


 【黄金の蜜月ゴールドハネムーン】。

 それっぽく光魔法的なカッコいいポーズも決めてから、蜜月は背中の翅を展開させ、発光させると――アデリーンと手をつなぎ、そのまま空へと飛び出した。


「一緒に行こう! あんたとワタシなら、どこまでも飛んで行ける!」


「ええ、もちろん!」

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