【第5話】魔鳥コンドルの断末魔!

FILE025:火を吹く殺人コンドル!


 ここは北関東のとある街。

 不良グループが白昼堂々と盗みを働き、その合間に爆竹を鳴らして、ラジカセからも大音量で音楽を垂れ流して大騒ぎしている。

 周りの迷惑など顧みるはずもなく、人々からどれだけ抗議を受けようとやめる気配も、反省した素振りも見せない。


「ヒャッハー! ヒャッハッハッハッハーイ! ウッホホホーイ!」


「イェーイ! ウォゥウォゥウォウウォーウ!」


「ホッホホホーイ! ホッホッホッホーイ! フォ――――!!」


「もっとやろうぜウェエエエ~~~~~~~イ!!」


「騒げ~! 踊れぇ――――! アヒャヒャヒャヒャヒャ!!」


 社会への不満を募らせ定職に就くこともせず、暇もエネルギーも持て余した若者たちの蛮行は続く。

 民家に石を投げ込むは、ガソリンスタンドで勝手にホースから水をぶちまけるは、カツアゲした相手をいじめるは、引ったくりもするは、コンビニのアイス売り場に勝手に上がって自撮り動画も撮影するはで、やりたい放題だ。

 レジから金銭も盗んだところで、また彼らはラジカセやスマートフォンから音楽を垂れ流す。


「ウェーイ! ウェ――――……イ……!?」


 バカ騒ぎしていた最中、突如として不良グループのうちの1人が血を流して倒れた。

 その背後に立っていたのは――赤いコンドルのような姿の怪人。

 トサカを生やしていて、目は黄色く光っていてサングラスやゴーグルのようにつながっており、両腕と一体化した翼からは無数の鋭利な刃物が生えている。

 また、胸部と背部にそれぞれラジコンのリモコンのような形状のシルバーグレーの装甲がついており、足には鋭い爪が生えていて、これで蹴られたら痛そうだ。

 そのコンドル怪人の出現により、周辺でおびえて、あるいは怖いもの見たさに見物していた人々は逃げ出し、不良グループの若者たちは腰を抜かしていた。


「と、鳥だ~~~~っ!!」


「キエエエエエエエエエエエエ――ッ!」


 コンドルの怪人は、奇声を発してから鋭い刃物がついた翼を羽ばたかせて風を起こして不良たちを威圧。

 その時、爆竹や花火が地面に落ちて爆発、炎上し出した。


「逃げぎゃああああああああ」


 そのうちの1人を鋭い刃物がたくさんついた翼で打って撲殺。更に口から吐いた火の玉で追い討ちをかけて数人ほど焼き殺す。

 爆発の影響で火の勢いはますます強くなった。


「キエーッ!」


「ばばばばバケモノ! こっち来んな爆竹投げっぞ!? まだあるんだ、ぞ……!?」


 今度は羽根を手裏剣のように飛ばして、残ったリーダーの左手を切り落とす。

 一緒に爆竹は落ちて爆発し、切り落とされた手の先からは血がしたたり落ちる。

 丸ごとカットされたショックで硬直して、不良リーダーは動けずにいる。

 つい先ほどまでイキリ散らしていた面影はもう見られず、ただただ恐怖で染まりきっていた。


「違うなぁ。おれはバケモノではない……。【コンドルガイスト】だ」


 エコーのかかった甲高い声で、コンドルの怪人がそう名乗る。

 今度は胸部装甲から不快な金属音の音波を発して、不良のリーダーをいたぶり始めた!


「なんで!? なんでなんだよおおおおおおお!? なんで、なんで、俺の腕、どうして、ど、どうして、あ、あ、頭いてえええええええええええええええ!?」


 片手が切り落とされたばかりにも関わらず、不良リーダーはその場で頭を抱えてわめき散らす。

 直後、苛立っている様子のコンドルガイストが不良リーダーの男に近付き、片腕でなぶって転倒させると足蹴にした。


「うるせーなあ~~~~! 早いとこ……逝けッ! キエエエエエエエエ!!」


 追い打ちで腹を蹴って転がしたところに更に火炎の息を吐いて、不良リーダーを焼き殺す。

 彼は無情にもその火炎で骨まで焦がされ、亡き者にされた。

 住民も全員逃げ出したし、不良グループは皆殺しにされて壊滅したため、そこに残ったのは焦げ跡と血だまりだけだった。


「はっはっはっはっはっ。いい殺しっぷりだァ! いいぞぉーコンドルッ! そうやって、不要な人間どもは皆滅亡させてしまえ……!!」


 逃げることなく、その阿鼻叫喚の地獄絵図を見ていた者が1人だけいた。

 サソリ1匹分が体の各部に張り付いたような容姿で、全身が黒ずんだ血のような暗赤色に染まっている。

 毒を循環させるために繋がれたチューブに、そして鋭い金色の眼光。

 芝居がかった口調と動作で不気味に笑うその怪人は、ヘリックスの大幹部・スコーピオンガイスト。

 極端な選民思想を抱く狂人である。



 ◆◆◆



 ここはヘリックスシティ。

 暗雲に覆われ、研究施設が立ち並ぶ悪の総本山。

 その一角にあるホールでスーツ姿の青年がイライラしながら歩いていた。

 彼こそ、ヘリックスという組織の幹部の1人でありながら、ここのところ失態が続いている――ドリュー・デリンジャーである。


「勉強熱心なことだな。ハッハッハッハッハッ!」


「そういうあなたも好きねぇ」


 付近で談笑していた2人の幹部の姿がデリンジャーの目に留まった。

 毛皮のコートを着た長身で大柄な壮年男性と、スーツを着ながらも胸元を大きくはだけた女だ。

 女のほうが穿いているスカートはロングでスリットも入っており、相当スタイルに自信を持っていることが分かる。


「おい、蜂須賀ならまだしも、【禍津まがつ】がいないぞ! どうなってる!」


 ――肩を怒らせてこの2人にズケズケと近寄り、デリンジャーが神経質そうな口調で怒鳴りながら突っかかる。

 そんな彼のことを、背の高いコートの男が鼻で笑い、何やら色っぽい雰囲気の女幹部のほうはくすくす笑う。


「大の男が騒ぐんじゃない。禍津蠍典まがつ かつのり――スコーピオンなら北関東に出向いている。そこで作戦を進めてる頃だろう」


 諌めるような口調でデリンジャーにそう告げたこの長身の男は無精ヒゲを生やしていて、見るものにワイルドな印象を与える。

 しかし髪型のほうは若干ボサボサしていながらも整えており、経営か何かをやっていそうな雰囲気を漂わせている。

 服装もコートの下にはダブルのタキシードを着ており、小じゃれていた。


「何の作戦です、ミスター・ジョーンズ?」


 ジョーンズに更に食ってかかるデリンジャーを前に、「チッチッチッ」、と、お色気たっぷりな女幹部が指を振る。

 そして前かがみになると顔の前に指を立てて、妖艶に微笑みかけた。

 彼女はメガネをかけていて、髪型は茶色いロングウェーブヘアーで肌は血色も良く、切れ長の深紅の瞳は瞳孔がヘビ・・のように縦長となっていて、異質さを放ちながらも美しい。

 泣きボクロも大人っぽさを出すのに一役買っている。

 スタイルもプロポーションも抜群で、そのバストは豊満だった。


「社会のゴミだけを殺すディスガイストを生み出して、北関東一帯を粛清するから、そこで見物していろ……ですってよ。いかにも彼らしい過激な作戦ね」


「Ooh! ミセス・キュイジーネ、is、sexy……?」


 色香漂うハスキーな声とともに危ういほどの美貌を誇る彼女――【キュイジーネ】から告げられた、その内容にビビりながらも、デリンジャーはチラチラと彼女の胸の谷間に視線をやってしまう。

 今のデリンジャーには緊張と焦燥と興奮が同時にやってきており、とても処理が追いつかない状態だ。

 トンチンカンなことを口にしても仕方のないことなのだ。


「それよりドリュー・デリンジャーさん、あなたこそ営業に行かなくていいの?」


 完全にデリンジャーをもてあそんでいる様子のキュイジーネは、姿勢を正すと今度は胸をたくし上げるように腕を組んで煽って行く。

 やんわりとした口調ながらも軽蔑の眼を見せて、心底楽しそうに口元を緩めていた。

 至福の時だったはずのデリンジャーは一気に転落する。


「う、う、うるさい! いつまでも下っぱのセールスマン扱いして……! ぼくも北関東に行って、ジーンスフィアやマテリアルスフィアをばら撒けばいいだけの話だろう! へっ! ちょうどあの辺には、いかにもスフィアを買ってくれそうな、頭やガラの悪い連中がウヨウヨしているからな……!」


「けど、デリンジャーさんだけでは心もとないでしょう。このキュイジーネもご一緒してさしあげてもいいのよ?」


 虚勢を張っているデリンジャーに対し、キュイジーネがその大きな胸を寄せて彼に当てる。

 デリンジャーは目をぐるぐる回して、下品な笑い声を上げるとと気を失った。

 子どもを寝かしつけた母親か、幼い弟をあやし終わった姉のように、キュイジーネは愉しげに笑う。

 一部始終を見守っていたジョーンズのほうはと言うと、バラエティ番組や漫才でも見ている視聴者または観客のように大笑いし、「ゴホン。いやー失礼ぶっこいた!」と咳払いする。


「それにしても、彼には刺激がチト強すぎたんじゃないのかね? ハッハッハッハッ」


「このくらいでアガっちゃうなんて、ウブな子よねぇ。さ、あたくしたちも準備を進めるとしましょうか」


 その場で寝転がったデリンジャーをほっといて、ジョーンズとキュイジーネは互いに悪巧みしながら談笑を再開。


「見てましたよ~、うぇへへへへへ……」


 それを脇で見ていた黒いフードを被り、黒いサングラスと黒マスクで素顔を隠した女が飛び出してキュイジーネに突然抱き着く。

 ホーネットこと、【黄金のスズメバチ】蜂須賀。日本一金のかかる凄腕の暗殺者だ。


「ずるいぞ~、ワタシもま・ぜ・て♪」


「あとであたくしのお部屋にいらっしゃい……♪」


 ――2人の間に割り込めないというのもあったが、なぜだか、ジョーンズが自分が置いてけぼりにされているように感じた。

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