FILE010:心悪しき改造人間を討て!



「うわ――――――――ッ!?」


 誰かの悲鳴だ。

 人造人間だからこそ身につけた超感覚で察知したアデリーンは血相を変え、至急でバイクを召喚し、それに乗って現場へ向かう。

 少し開けた区画にある広場であり、多くの人々が逃げまどっている。


「ストーライプー!」


「ヒョーウ!」


 シマウマの怪人・ゼブラガイストとジャガーの怪人が暴れて、すでにかなりの人々が負傷していた。

 その中で、警官1人が蹄鉄型の武器で殴り殺されてミイラ化している。

 ……原理はわからない。


「ヘリックスの怪人! そこまでよ!」


 アデリーンが腕を組んで叫ぶ。

 怪人も含む全員が彼女に注目した。


「ヒョウヒョウヒョウヒョウ……」


「なんだァ? あのチャンネー、殺されに来たのかあ!?」


 前転しながらジャンプしたアデリーンは広場の中心へ着地。

 手のひらから冷凍エネルギーのビームを打ち出し、ゼブラガイストやジャガーの怪人の顔面へ命中させる。

 その弾みで解放された民間人は、アデリーンに一礼して逃げ出す。

 1名のみ手遅れとなってしまったものの、これで犠牲が出るのはなんとか抑えることができた。

 その1名――名も知らぬ警察官だった死体を見て、アデリーンは無念からくる怒りとともに拳を握りしめて震わせる。


「これ以上の非道は許さん! 【氷晶】!」


 凛々しく叫んだと同時に、【氷晶】。

【氷晶】と叫んで変身したアデリーンがメタルコンバットスーツを装着するまでの時間は、わずか0.05秒に過ぎない。


「零華の戦姫! アブソリュートゼロ!」


 王冠と雪の結晶をモチーフとしたそのスーツに全身を包んだアデリーンは、感情に振り回されることなく敵を挑発するポーズを取った。

 この怒りはすべて、目の前の敵を攻撃する際にぶつけるべきだと判断したためだ。


「バカバカしい! ヘリックスに生まれた者はヘリックスに還れ! ヒョーウ!」


「ストラーイプ!」


 金に近い黄色の体毛に青い目を光らせたジャガーガイストが唸る。

 やはりその身は機械化されたような外見で、胸部の装甲にはブチ模様を模した穴が開いている。

 片腕にはコードが配された巨大なカギ爪を備え、四股や腹部も機械化・金属化されて、まるで戦うために生まれたようだった。

 そのジャガーガイストが飛びかかってきたところを迎撃、地べたへ落としたアデリーンは続けてゼブラガイストが投げてきたチェーン付きの蹄鉄を素手ではたき落とし、そのまま手刀を素早く連続でダウンを奪った。


「ストーライプーッ!」


 いきり立ったゼブラが腕先から蹄鉄型のビームを飛ばす。

 アデリーンは回避して冷凍エネルギーのビームで反撃。

 それが直撃したことで、ゼブラガイストは手足が凍結して動けない。


「No.0、お前のせいでライノセラスは療養を余儀なくされたッ! あいつの仇だ!」


「ッ! 先に私たちに手を出したのはあなたたち、それを逆恨みと言うのよ」


 アデリーンに論破され、怒ったジャガーガイストが胸部装甲の穴からスーパーボール大の爆弾を発射。

 発射。

 発射! 

 次から次へと爆発を起こす中、アデリーンはその中を闊歩し、冷凍エネルギーを放出して背後で巻き起こった爆炎を治めてみせた。

 そして、ジャガーガイストにもアイスビームを食らわせる。

 凍ったところをアデリーンがハイキックで打ち砕いた。


「ヒョーウ! ヒョウヒョウヒョウ! ヒョウヒョウヒョウヒョウ……ヒョウーッ!!」


 転倒させられるも起き上がったジャガーガイストは咆哮を上げ、片腕から生えたその巨大なカギ爪を振り回して迫り、追い詰めようとする。

 全部少ない動きで避けたアデリーンは、手刀でカギ爪を攻撃してから両手で抑え込み、激しく抵抗した末にブチ折った。

 彼女はメンタルもフィジカルも常人を超越しているのだ!


「このアマッ! お前もカラカラのミイラになっちまえー!」


「ブリザラスター!」


 ゼブラガイストが起き上がってチェーン付きの蹄鉄を振り回す。

 スライディングで回避と同時に反撃して転ばせると、天にその右手を突き出して武器を召喚した。

 自身のパワーを増幅させ、更に強力な遠距離攻撃を可能とする光線銃・【ブリザラスター】だ。

 見た目はアブソリュートゼロのスーツと同じく、青と白。

 金色で縁取られている。

 アデリーンはそのブリザラスターの引鉄を引いて、早速ゼブラガイストへと容赦なく撃ち込む。

 たじろいでそのまま壁にもたれついた。


「ヒョーウ!?」


 もちろんジャガーガイストにも撃つ。それも3発だ。

 これだけでも相当なダメージを受けたようであり、とうとう膝を突く。

 悔しさから地面を拳で叩いたジャガーガイストが、必死になって次にとる策はこうだ。


「ええーい、戦闘員【シリコニアン】!! われわれを助けろ!!」


「ラーセーンッ!」


 ジャガーガイストに呼ばれて、ケイ素で作られた戦闘員たちがどこからともなくお出ましだ。

 簡素な見た目かつ、裂けた口を持っていて2足歩行のものと4足歩行のものがおり、色や足の数が違っても、運動性や機動性を除いて差異はない。

 群れを成して現れた彼らは、それぞれ咆哮を上げると一斉に敵であるアデリーンのいる方角を向く。


「オメーらが何体やられようとかまわん。No.0をブチ殺せ! ストーライプーッ!!」


「グルーッ!」


 散々やられて全身傷だらけのゼブラガイストが出した指示の下、シリコニアンたちが奇声を上げて動き出す。

 その数の暴力にアデリーンは――屈しない。

 光線銃ブリザラスターの早撃ちで軽く蹴散らして、月面返りを混ぜたジャンプで抜け出す。

 ついでにジャガーとゼブラも撃つ。


「ブリザーディアッ!」


 召喚し直した青き専用バイク・ブリザーディアを駆り、シリコニアンたちを殲滅し始めるアデリーン。

 ジャガーとゼブラの2大怪人もぶっ飛ばした。

 その勢いはとどまることを知らない。

 快進撃だ!


「アターック!!」


 叫んで、1カ所にまとまった敵軍団に突っ込むと同時に、そのままシリコニアンたちを爆破、全滅させた。

 こうなった以上、ジャガーガイストとゼブラガイストはもう後がない。


「あ……? あ……!? うそだろオイ……!?」


「終わりよ! シューティングエンド!」


「スト~~~~~~ライプ~~~~~ッ」


 立ち上がれず、頭を抱えて激しくうろたえるゼブラガイスト。

 アデリーンは容赦がない!

 両手でブリザラスターを持ったかと思えばフルパワーでビームを撃って、ゼブラガイストを撃破。

 そのまま爆発四散し、シマウマの遺伝子を宿した【スフィア】も粉みじんだ。圧倒的すぎる力の差に、ジャガーガイストは戦意を失くして立ち尽くす。


「次はお前……零華剣・ブリザードエッジ! はっ!」


「ヒョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!?」


 ブリザーディアから右ハンドルを取り出してビームソード・ブリザードエッジへと変形させる。

 これまた両手で持つと同時に少し気合を入れてから、ジャガーガイストに急接近し斬撃。

 これは通常攻撃ではない、必殺攻撃だ。

 もちろん斬った相手は爆発四散させた。

 双方ともにジーンスフィアは破壊されており、ジャガーガイストこと長身の黒服男・ヨコダは恐怖のあまり逃げてしまったが、ゼブラガイストに変身していた者に対しては、手足を氷のロープで縛ってその場で捕縛した。


「【この者、暴動殺人犯!】っと。……あっ!」


 雪の結晶マークが目印のカードにそう書いて、変身者の近くに置いておく。

 そこでアデリーンはその者の顔を見て驚く。

 あのシマウマの怪人に変身していたのは、以前アデリーンのナンパに失敗したチンピラ一味の1人――馬場だった。

 戦闘中にずっとやられっぱなしだったゆえ、全身もうボロボロであちこちから血を流していた。


「ウワーッ! アンタやっぱりこないだの……」


「あなたは! どうしてヘリックスなんかの手先に……」


「ち、違うんだあ、ヒーローのネーチャン、許してくれ~~~~っ! おれはあいつらの基地に連れ込まれて、なんか改造手術みてーなことをされて気が付いたら……」


 その時どこかから銃声が。

 次の瞬間には、アデリーンは弾丸をつまんでいた。

 馬場が何者かの凶弾により、射殺されることを未然に防いだのだ。


「へぇ。やると思ったよ。地球外生命体の細胞を用いた、DNA改造実験体……No.0。いや……」


 どこからか、人を食ったような飄々とした口調の女性の声が響いた。

 辺りを見回すアデリーンだが、そこに「いる」と確信した方向にあえて顔を向ける。


「アブソリュートゼロさん」


 また謎めいた女性の声が、ヒーローとしての彼女の名を呼んだ。

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