FILE005:零華狂い咲く!
「食らいなさい!」
青と白のヒーロー・【アブソリュートゼロ】の姿へと変身したアデリーンが右腕を輝かせ、腰を深く落としてからの正拳突きを繰り出す。
それは敵のガードを崩すほどの破壊力。
金属化している敵怪人の表皮にもおびただしい亀裂が走った。
「全力全開のパンチでやっとこれね。それなら!」
手応えはあったのだ。しかしそれだけでは撃破とまでは至らない。
反撃をバク転で回避した横で鉄製のドラム缶が粉砕されようと動じることなく、着地したアデリーンは専用マシンの右ハンドルを引き抜く。
自ら愛機を分解するような奇行に走ったわけではない。
それは突然に光り出し、ビームソードめいた形状へと変わる。
「零華剣・ブリザードエッジ」
その剣は青い光の刀身を展開しており、束にはスーツと同様の青と白を基調とした色調に、アクセントとして金縁が使われていた。
強い冷気が全体から放たれている。
それを前にしてもなお、ライノセラスガイストは退こうともしない。
「ブゥアー! そんなナマクラでワシを倒せるとでも?」
「そう? 私にはあなたを倒し、彼を連れて帰るという自信がある」
流麗な構えをとってブリザードエッジを向けると、アデリーンは挑発に挑発で返す。
戦えないし傷付いた竜平はそれをただジッと見ているだけだ。
「ツノミサイルで死ね! ブゥアアー!」
少し力んだライノセラスガイストの両肩のツノが射出され、アデリーンの付近に着弾し爆裂。
爆炎を尻目に悠々と歩いて、敵の懐を前にしたアデリーンは踊るような動きで斬る。
無造作に置かれたコンクリートや鉄骨をたやすく破壊するライノセラスガイストの攻撃はすべて躱し、頭突きも間一髪で避けて、そしてブリザードエッジで鼻先から生えたドリル状のツノを切り落とす。
「私は死なないって言ったでしょう?」
両手で持ったブリザードエッジを勇ましく構えるアデリーン。
その時、「ニタァ……」と、ライノセラスが不気味に笑う。
切り落としたツノが突如として爆発を起こし、すぐ近くにいた彼女はその煽りを食らう。
ライノセラスガイストは、武骨な見た目とは裏腹にやり手だ。
ドリル状のツノは超強力なロケット弾だったのだ。
分厚く頑丈な装甲を持つために、自身がそのロケット弾の爆発に巻き込まれてもビクともしない。
アデリーンを葬るとまでは行かずとも、無力化する算段だった。
――目論見通り爆炎に呑まれたかに見えたが、アデリーンは屈することなく冷気で相殺して飛び出した。
「こしゃくなマネを。では二度と再生できぬよう、ミサイルの雨あられをくれてやる!」
両肩からのツノミサイルが、今度は乱射された。
老廃物をミサイルへと作り変えるシステムゆえ、いくらでも作り出せるのだ。
アデリーンはそれをことごとく躱す。
にもかかわらず、ライノセラスガイストはまだ余裕がありそうだ。
「この生体マイクロミサイルもおまけしてやろう……」
更に、ライノセラスの背中のハッチが展開してマイクロミサイルが追加で大量に発射される。
これも無尽蔵であるため、対峙している相手が絶対に死ぬことのないアデリーンでさえなければ今頃は塵と化していたはずなのだ。
もちろん彼女は違った――。
「アデリーン、危ない!?」
「これで!」
氷の防御壁をその場で作り出し、ミサイルの弾幕を耐えしのぐ。
煙の中を切り抜けて、素早く反撃だ。
敵が腕に内蔵していた機銃の掃射も簡単に避けて、距離をダッシュで詰めてからの怪力パンチも回避。
その度に、効果が薄かろうと何かしらのカウンターをお見舞いし、着実に敵へのダメージを蓄積させつつある。
しびれを切らしたライノセラスは、いきり立って地面を踏み鳴らし衝撃波を発生させるだけに飽き足らず、更にツノミサイルも乱射して波状攻撃を試みた。
竜平の叫びが倉庫中に響く中、アデリーンは恐れることもひるむこともせず、敵からの大攻撃を閃光のごとく潜り抜けると、左手から冷凍エネルギーのビームを繰り出して、サイの怪人にダメージを与えると同時に手足を凍結させた。
「たあ――ッ」
凍ったところを一突き。
氷が砕けて、動けるようになったライノセラスガイストがかました頭突きを回避して、カウンター攻撃。
更に斬撃を3連発でフィニッシュ。
重装甲と怪力が自慢のライノセラスガイストも大きく後ずさり、とうとう地面に膝を突くこととなった。
「ブゥアオオオオーッ……」
――勝機。
そう判断したアデリーンがバイザーの下にあるカメラアイを青く光らせて、ブリザードエッジを地面に突き立てると、周囲に雪の結晶型のエンブレムを浮かび上がらせる。
するとライノセラスガイストは凍り付いた。
「終わりッ! ゼロブレイク!」
「ブゥアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
瞬間移動を繰り返しながら凍った敵へと接近。
そして――ヒーローの醍醐味、必殺技名を叫びながらの回転を伴う大ジャンプ、そして繰り出されるのはキック。
貫かれたライノセラスガイストが爆発四散し、元の黒服の姿に戻る。
アデリーンの一連の華麗な戦いぶりに竜平はすっかり魅せられた。
「す、すっげえ……言葉が出ない」
アデリーンは変身を解除し、長い金髪をなびかせ、前髪を手で梳かした。
全身ボロボロで横たわる黒服・【関根】が持つジーンスフィアが砕かれなかったため、近寄ってこれを破壊して回収。
更にこちらも回収しておいたブリザードエッジの先端を向けるが、そこに謎の影が横切った。
すぐに察知したアデリーンはサイドステップで避ける。
「今度はコウモリ!?」
竜平が目を丸くしたとおり、やはり体の一部が何かしらの形で機械化され、2本の足で立っている、全体的に黒っぽいコウモリのような怪人だ。
凶悪な面構えで口元にはいかにも血を吸うのに使われそうな鋭い牙がびっしりと生えそろっている。
目も黄色く光っていて実に不気味だ。
そして翼と一体化した腕の皮膜は傘と傘の骨のようになっていた。
「あなたは【ドリュー・デリンジャー】……!」
アデリーンが警戒しながら呼んだのは、変身している人間の名前だろうか。ともかくコウモリの怪人はこれまた不気味に笑いながらアデリーンに人差し指を指す。
「困るな~~~~~~~~~~。【No.0】……。困るんだよ。我々ヘリックスが誇る最強兵器、【ディスガイスト】をおいそれと勝手に倒してもらっちゃあよお……」
「あなたの仕業ね? ヤマアラシのスフィアを街のチンピラさんに売っていたのは」
「それが何だってんだあ!! 心に闇やネガティブな感情を抱えた人間にスフィアを売るのが、ぼくたちのお仕ご……うっ!?」
何やら強そうな風格を漂わせたコウモリ男――を、アデリーンはその場で流れ作業のようにブリザードエッジで斬って、アイスビームで撃つ。
普通なら防ぐなり躱すなりするところを、このコウモリにはすべて直撃。
ビームも翼を撃ち抜いており、そこから全身に激痛と刺激と悪寒が走り撃たれた箇所は周りが凍っていた。
「ちッ! 仕留め損ねたか!」
「いってェ~~~~! ア~~~~~~! くそッ、やったな……。やってくれたな……! オイッ!!」
どうやらアデリーンは敵を葬ること自体は躊躇しないし、容赦もしない方針のようだ。
マヌケにも油断してやられたコウモリ――もとい、【バットガイスト】はキレて頭に血がのぼってはいるが、声は震えていて情けない。
何が何やら竜平は置いてけぼりだ。
「このぼくをよくもまあコケにしてくれたな……この代償は高くつくぞ。覚えていろーッ!!」
ぶるぶると震えながら関根を無理矢理起こしたバットガイストこと、デリンジャーは捨て台詞を吐くと、逃げられるうちにさっさと逃走。
アデリーンと竜平は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
「なんだったのあのコウモリ」
「知らない。さ、ここを出ましょう」
そうアデリーンが吐き捨てた後、倉庫の外に出て採石場から立ち去ろうとする2人。
アデリーンは、誰かに見られてるような気がしたようで、後ろを振り返るが――。
不思議そうに竜平がアデリーンの顔を見た。
「ねえ、誰かに見られてるような気がしない? 視線を感じるの」
「え? 今は誰もいないんじゃないの、俺たち以外……」
「私の取り越し苦労ならいいんだけど」
気のせいだったことにして、アデリーンは専用バイクのブリザーディアを目の前に呼び直す。
そして、ふたり乗りして採石場を出た。
「灯台下暗しってねぇ。……うぇぇへへへ、ふはははははははぁ~~~~」
気配を消した上でそれを見下ろし、嗤うものがいた。
黒フード、黒コート、黒いサングラス、黒いマスクで正体を隠す何者かが。
金と黒を基調とする銃型のデバイスをホルスターに差していて、右腕には同色のブレスレットを身につけていた。
その出で立ちは、まるで【暗殺者】のようだ。
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