それぞれの衝突
その一方、数百人という兵士を引き連れた集団が破壊され、魔族が続々と侵入してきてる砦へと向かっていた。
「ねぇ、タカアキくん~? 今のって何だったのかな~?」
「……さぁ? 流石に今のは僕にも分からなかったよ。これなら、アニメとかラノベとかしっかり見ておくんだったかな」
「その、あにめ? とからのべ? ってものを見てたらアレが分かるの?」
「あ、いや……こっちの話だから何でもないよ」
先頭を走るのは一人の少年と一人の少女。
二人共、後ろを走る兵士より一回りも若く、戦場に出るにはまだ早いのではと疑ってしまうほど。
だが、一人は魔を滅ぼさんとする勇者。もう一人は女神の恩恵を一身に受ける聖女。セシリアとは違い―———武に特化した聖女。
「それに————」
「どっちも魔法じゃなかったよぉ~。魔法だったら、少なからずその魔法に属性の色が乗るはずだからね~」
魔法を行使する際、現象にはそれぞれの属性が乗る。
火、風、水、雷、氷————そして、聖職者が扱う聖と魔族が扱う闇。そのどれか……もしくは混ざり合った物が現象を起こす際に必要となり、少なからず現象にこべりつくはずなのだ。
「だけど、今の二つには何もなかったよね。綺麗に、混ざる色が見えなくて透明無色だった」
「うん~、私は見たことがないよぉ~」
先ほど上空に上がったあの黒炎。そしてそれを防いだあの紙だ。
どちらも二人にとっては初めて見たものであり、属性を含めない魔法であった。
「味方に一人、敵に一人……かぁ。やりにくそうだなぁ」
「私はどっちでもいいかなぁ~、強ければそれで私の経験値と欲求と快楽を満たしてくれるからねぇ~!」
「まぁ、誰が起こしたか分からないけど……アレを防ぐような人が味方にいるなんて心強いよね」
「そうだね~!」
緊張感がないようなやりとり。
それでいて、どことなく余裕を感じさせるのは後ろの兵に不安を与えない為か―———それとも、本当に余裕なのか。
だが、二人の声は後ろの兵には届いていない。必死に、ただ二人の後ろをついて行くだけ。
その時―———
「おやおや? 私共のところには勇者ですか……やれやれ、重い役割ですなぁ」
大軍を引きつれた魔族が、道の正面から現れる。
肩を竦め、それでいて余裕そうに語るのは先頭にいる背中に骨を生やした魔族。
「……さぁ、そろそろ気を引き締めようかミカエラ」
「うんうん! 高まるよね~、殺したくなるよね~!」
勇者であるタカアキが鞘から剣を抜く。それに続いて、ミカエラも嬉々とした表情と憎悪を含んだ瞳で見据えてメイスを構えた。兵士たちも、それぞれ魔族に向かって剣の切っ先を向ける。
「お二方は私共の方でもよく知られております。片や召喚された勇者に、片や恩恵を賜りし戦闘に特化した聖女……で、ございますね?」
「ふぅん……僕って魔族にも知られてるんだね」
「それは勿論―———殺したくなるような憎き相手ですぞ? どうぞ胸を張っていただきたい」
「それは光栄だね~! よかったねタカアキくん~!」
「いや、それは良くないと思うけどね……」
軽口を叩きつつも、両者の間にはヒリヒリとした空気が張り詰める。
そして————
「四魔将が一人、骨砕のマドラセル―———参ります」
「タカアキ・オウサカ。勇者として、いざ―———」
「ふふふっ~! ミカエラ・ロズウェル、愛と悪と憎しみを抱いて推し通りま~す!」
魔族と勇者と聖女が衝突した。
それは撃退と突破を目的として。
♦♦♦
「……んで、俺はこいつらを相手しないといけないのか? うわぁ……めんどくせ」
「はんっ! もうちょい元気出せよ人間! じゃねぇと俺達もやる気出ねぇだろうが、おいっ!」
「落ち着きなさいよガラフ。目的を忘れないでちょうだい。私達は一刻も早くこの国の王を殺さなきゃいけないんだから」
街の一角、ザガル国王都の中央広場―———そこで、ユリスは対面する。
赤く滾った肌をした屈強な男に三角帽をかぶった幼い少女。そして後ろに続くのは今にも暴れだしそうな大群の魔族。
ユリスが移動していると、ばったりと出くわしてしまった者達。
「やる気なんてそこら辺に捨てようぜ? っていうか、普通に帰れよお前ら」
「できるわけねぇだろぉ! 俺達は人間共をぶっ殺しに来たんだからよぉ! あれか? 親がいる家に余所者入れたくないみたいなやつか!」
「……それに、君一人に言われたところで、私達が退くと思う?」
「ま、違いないか……」
ユリスは肩を竦める。
その姿は魔族の大群相手に臆するどころか余裕そうに見える。
それ態度が、三角帽をかぶった少女を逆なでした。
「……随分と余裕ね? この数が見えないの?」
後ろには魔族の群れ。それぞれが強大で、一人の魔族を相手するのに少なくとも5人の兵士が必要とされる相手。
だけど、大罪の魔術師には関係がない。
「たかだか魔族が多いってだけだろ? そんなの、師匠に比べたら可愛いもんだしな。自分達が数にものを言わせてるから勝てる―———なんてのは傲慢だぜ?」
「人間風情が……っ!」
少女がユリスの言葉に唇を噛みしめる。その姿からはありありと憎悪が感じられ、今にでも襲いかからんとしていた。
「いいから始めようぜ! お前、強いんだろ!? だって姫様と同じ匂いがするんだからよォ!」
「ま、強いかどうかは置いておいて————早く始める事には賛成だ。でないと、セシリアがいつまで経っても安心できねぇからな」
男が拳を構え、少女が虚空から杖を取り出し、ユリスがポケットに手を突っ込む。
一対多。数は圧倒的にユリスが不利―———だが、
「四魔将が一人、血腕のガラフ! 行くぜ人間ッ!」
「四魔将が一人、落堕のカトレア……殺すわ、人間」
「大罪の魔術師、ユリス・アンダーブルク―———傲慢なお前らに、本当の傲慢を教えてやる」
また別の場所で、魔族と大罪の魔術師が衝突する。
それは、防衛と侵攻を目的として。
♦♦♦
そして、一人他の講師陣から離れたミュゼは上空を飛行していた。
背中から黒い翼を生やし、襲撃の大元を倒さんとする為、その相手を探していた。
今は各国の学園から護衛と講師が集まっている。守備はザガル国の通常よりも厚く、自分一人離れたところでさして問題ないと判断したからの行動である。
(……ユリスはどこ行ったのかの? あやつ、何でも勝手に行動しよって)
それに加え、姿が先ほどから見えないユリスを捜索する為。
ミュゼにとって、そこらで逃げ惑う人間や学園の生徒よりもユリスの安全を一番に考えている。
それは、ユリスがミュゼにとって大きな存在であり―———大切な人だからだ。
(あやつの事じゃ、どうせあの聖女を脅かす存在を排除しようと勝手に動いたんじゃろうが……全く、世話の焼ける)
内心愚痴りながら、ミュゼは上空を飛行する。
そして、一向に見当たらない為かその翼を休める為に一度地面に降り立った。
降り立つ先でも、国の兵士が魔族と争っている姿が見える。
拮抗―———ではなく劣勢。統率がとれている分、まだ戦えはするが……それも時間の問題かもしれない。
「やっぱり、大元を倒さんとこれは終わりそうもないのぉ……」
助太刀することなく、ミュゼは愚痴る。
自分がそこら辺の魔族に後れをとるとは思えない。伊達に300年生きてきた実力と才能は覆せるものではないからだ。
だからなのか、どこか今のミュゼからは慢心した様子が感じられる。
「……大元って、私の事?」
そんな時、一人悠々と歩く一人の少女がミュゼの元に現れる。サラリとした銀髪を靡かせ、露出の多い装束が所々血で濡れていた。
その姿を見たミュゼはまた違う意味で愚痴る。
「……嫌じゃのぅ、魔王の娘が出張ってくるとは」
「……やっと会えたね裏切り者。私、人間よりもあなたの方が殺したかった」
ミュゼの背中から冷や汗が出る。
かの英雄と呼ばれたミュゼですら、今相対している相手が脅威に感じたからだ。
「裏切り者言うが、元よりお前さんらの仲間になった覚えはないのじゃが? 一時期は手を貸しておったが、妾の目的が果たせんのであれば手のひらを返すのが普通じゃろ?」
「……一度足を踏みい入れた時点で、あなたは私達の味方になった。でも、裏切った。だから裏切り者────それに、あなたも魔族じゃない」
「半分ってところを忘れないでおくれ。妾は、憎しみと渇望と欲望に沈んだお前さんらと同じになりとぉないわ」
鋭く冷たい視線に臆することなく、ミュゼは鼻を鳴らして堂々と相対する。
だけど————
(弟子を脅かす存在は、なんとしても排除せんといかん……例え、妾の命を差し出しても、じゃ)
ミュゼはその少女に向き直る。
余裕なんてなく、少女と違い顔を引き締めた状態でいつでも戦闘に入れる体勢をとった。
「……じゃあ、遊ぼっか。私、気になった人間を探しに行かなきゃならないし、裏切り者を許すつもりなんてないから」
「ほざけ、わっぱ。妾を楽に倒せると思うなんて思おてくれるな?」
盤上最強の駒。
敵軍、魔王の娘と英雄と呼ばれた半端者が————
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