第43話 ダブルヘッダー
夏休みの練習試合初戦から数日後、聖陵野球部は場所を移動し安倍川沿いの学校へと来ていた。
ここでは聖陵を含め3校の学校が集まり互いに試合をする事になっている。
3校の監督同士が集まり挨拶を交わす。
「本日はよろしくお願いします」
「いやいや此方こそです」
「よろしくお願いしますわ」
3人の監督が挨拶を交わし談笑する。
その中でも春瀬監督は一番若く結構気を使っているようだ。
「でも聖陵さん ここで力をつけましたね」
「え?」
「そうですな 静岡シニアの横山。それに望月、そして富士の庄山でしょう?他にも地元じゃあそれなりに名の通った選手もおるようですしな」
「いえいえ、まだまだ彼奴らは現実を知らない無鉄砲でして」
「でも二年後が楽しみですよ」
「本当ですわ 悔しいですがね ハハハハハ!」
恰幅のいい監督が笑い飛ばしながら話し春瀬監督も一緒に笑う。
しばらく話をしている三人だが、試合時間が近くなって来た為自分たちのチームの所へと戻って行く。
「はぁ…疲れる」
ボヤきながら帰ってくる春瀬監督。
選手たちを集め初戦のオーダーを発表する。
「今日のオーダーは、1番センター横山、2番セカンド山本、3番レフト望月、4番ファースト庄山、5番ライト堀、6番ショート早川、7番サード桑野、8番ピッチャー長尾、9番キャッチャー竹下 これで行くぞ」
『はい!!』
前回と変わったことと言えばサードに桑野、ピッチャーに長尾、レフトに望月、そして竹下を9番に置いたことである。
春瀬監督としては下位打線から上位にチャンスないしランナーを置いて回したいと考え出塁率の良い竹下を9番に置いた打線である。
そして対する相手は沼津南高校。
この夏予選大会でベスト8まで行った高校で、かつては甲子園にも出場している古豪である。
そして監督は先ほど笑っていた恰幅のいい男性である。
「さぁお前ら 今までの聖陵と思ったら足元掬われるぞ 油断はするなよ?」
『はい!!』
「よしいい返事だ!頑張ってこい!!』
笑い飛ばしながら選手たちを送り出す監督。
試合開始となり両校の選手が整列をすると、俊哉の前に立った見た目柄の悪そうな感じの選手が話しかけてくる。
「おう俊哉 久しぶりだな」
「おぉ、山梨」
その選手の名は
「お前、明倭じゃねぇの?」
「色々あってね」
「ふぅん ま、いいけど」
頭をポリポリ掻きながら話す山梨尚徒(以降より山梨)。
挨拶を終えると沼津南の選手らがグラウンドへと散り守備へと着く。
先ほどの山梨はというとマウンドへと上がる。
「トシ、彼奴のデータ分かる?」
「えぇっと確か、ストレートとスライダー、カーブだけだよ?」
俊哉と山本の一二番コンビが話しながらマウンドで投球練習をする山梨を見る。
投球練習が終わり試合開始。
打席には俊哉が入る。
(先頭でいきなり俊哉か・・・さて、どう料理してやるか)
振りかぶり投じた山梨の初球はインコースを抉ぐるようなストレート。
俊哉はこれを避けながら見送りボール。
(相変わらずの喧嘩投法だなぁ・・・インコース当たるか当たらないかの直球で勝負)
避けた俊哉は思わず笑みをこぼす。
それに気づいた山梨もニヤリと笑みを浮かべる。
「分かっててやったのか・・・」
打席へと入りながら呟く俊哉。
次の二球目もインコースへの直球で俊哉はこれを振りに行くとファールになる。
「打ちにきやがった・・・おもしれぇ」
笑みを浮かべ三球目を投じる山梨。
投じられたのはアウトコースへの変化球。
俊哉は踏み込んでこお球をはじき返すと打球は山梨の右を抜けていきセンター前へのヒットとなる。
「うぉ 打たれたぁ!」
一塁を回り止まる俊哉を見ながら悔しがる山梨。
俊哉のヒットで始まった聖陵の攻撃。
続く山本はバントの構えを取り、これをキッチリ決めて行く。
一死二塁として打席には三番の望月。
前の試合ではこのパタンーンを何度も作れば全て得点してきた。
だが・・・
ギィィィン・・・
「あぁ?!」
初球から打って行く望月だが、高く打ち上げてしまいショートフライに終わってしまう。
二死二塁となり打席には四番の明輝弘。
「コイツはストレート勝負しそうだな。さぁ来いよ。お前のストレート」
小さく呟きながら打席へと入りバットを構える明輝弘。
山梨はサインにコクリと頷くとセットポジションからの一球目。
「な、にぃ!?」
明輝弘に対しての初球はカーブ。
ストレートを待っていた明輝弘は完全にタイミングを外されたスイングで空振りをしてしまう。
キッと山梨を睨む明輝弘。
(おー怖!弱点分かってんのによ・・・直球だけで勝負なんかするかよ!)
二球目、三球目と全て変化球を投じ明輝弘はスイングするも空振りをし三振を喫してしまう。
悔しそうにベンチへと戻る明輝弘。
「あー、ストレートで勝負しろよ・・・」
聞こえるか聞こえないか分からない程度に呟く明輝弘。
他の選手は聞こえていたかは分からないが、明輝弘が苛立っていることは分かっている。
聖陵の攻撃は俊哉のヒットのみの無得点となり沼津南の攻撃へと移る。
聖陵のマウンドには左腕の長尾が上がる。
この長尾の課題はコントロール。
その課題のコントロールは今日も荒れていた。
「ボール!フォア!」
「フォアボール!」
一二番に対して四球を与えてしまい無死一二塁。
ピンチを作ってしまい力が入った長尾の入れに行ってしまった球を沼津南の打者は見逃さない。
カキィィィン・・・
「マジか・・・」
三番打者の振り抜いた打球はライト線へのヒット。
二塁ランナーと一塁ランナーも帰り2失点。
初回から失点をしてしまう。
その後も安定せず四球でランナーを出しては打たれるといった展開が目立ち、4回を終えて5対0と大量リードを許してしまう。
「悪い・・・」
「ドンマイドンマイ!」
ベンチに帰り謝る長尾い檄を入れて行く選手たち。
だが、ベンチの雰囲気は明らかに悪くなっていた。
しかも打撃陣は冷え込んでしまい俊哉の2安打のみとなってしまい、前の試合で機能してた俊哉と望月の並びが今日は機能してなかった。
(甘かった・・・俺のミス・・・いや、それを言ったら此奴らを信用してない事になる・・・)
春瀬監督自身もこの打順の並びに期待をしていた。
打線は水物とは言うが、ここまで機能しないとは・・・と思っていた。
そして投手陣の乱調。
長尾は決して悪いピッチャーではないが、安定感にムラが激しいタイプの選手だ。
だが、望月一人に投げさせるわけにはいかない。
長尾を初めとした鈴木や桑野などの投手陣全体のレベルアップが必要なのだ。
春瀬監督は、この厳しい現状をマジマジと見せつけられたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます