第42話 試行錯誤
八月に入り聖陵野球部の練習が始まると同時に予定された練習試合もこなすことになる。
組まれた練習試合の試合数は全部で4試合。
うち2試合はダブルヘッダーとなっており、この夏レベルアップを図る。
最初の練習試合前日の練習日。
夕方になり練習が終わると春瀬監督は翌日のオーダーを伝える。
「明日の浜松城北高校戦のオーダーを言うぞ。1番センター横山、2番セカンド山本、3番ピッチャー望月、4番ファースト庄山、5番ライト堀、6番ショート早川、7番キャッチャー竹下、8番サード池田、9番レフト青木。明日はこれで挑むぞ」
『はい!!』
春瀬監督からのオーダー発表に返事をする選手たち。
夏の予選の時と違う打順で挑むことになり春瀬監督も試していきたいのであろう。
そして翌日。
聖陵グラウンドへ浜松城北を招いての試合となる。
この浜松城北は今夏の予選大会では聖陵と同じ3回戦敗退となったが、かつては県ベスト4まで進んだこともある実力校だ。
聖陵学院は後攻となり守備へと着きいざ試合開始。
マウンド上の望月は初回から安定感のあるピッチングを披露し三者凡退。
素晴らしい立ち上がりを見せる一方、打撃陣は1番に入った俊哉は三球目を叩くとピッチャーの股下を抜けていくヒットを放つ。
続く2番の山本はすぐさま送りバントを決め一死二塁のチャンスを作ると、今日3番に入った望月に回る。
「ヒデ、俺に繋げよ」
「はいよー」
ネクストの明輝弘に言われ緩い感じで答える望月。
左打席に入りバットを構える望月は慎重に一球目二球目と見ていきいずれもボールの判定。
三球目はファールにし四球目は見逃しストライク。
これで平行カウントになる。
(打つのは得意じゃねぇけどよ・・・監督が3番にトシじゃなく俺を選んでくれたんだ。期待に応えなきゃな!)
望月の振り抜いたバットにボールが弾き返される。
引っ張った打球はライトの頭を越える当たりとなりランナーの俊哉がホームイン、打った望月は三塁まで行くタイムリースリーベースとなる。
『ナイバッチー!!』
聖陵ベンチから掛け声が飛ぶと望月は嬉しそうに右腕を上げて応える。
1点を入れ、尚も一死二塁として打席には明輝弘。
だが、明輝弘は徹底的な変化球攻めで空振りの三振を喫してしまう。
「くそっ・・・」
悔しそうにベンチへと戻る明輝弘はバットをガンと強めに落とすとドカッとベンチに座り憮然とする。
三回戦の明倭戦ではヒット1本も出ず3三振と本人としては納得のいかない成績だ。
その後も試合は進んで行くが、明輝弘は全ての打席で三振をしてしまう。
どの打席も変化球攻めでの三振とあって明輝弘自身イラついているのか、最後の打席で三振をした後にバットで地面を叩いて悔しがる。
そんな明輝弘とは真逆を行くように俊哉と望月はこの試合絶好調だ。
全ての打席で俊哉は出塁すると望月が俊哉をホームへ返すという、この試合の二人は出来過ぎなくらいである。
春瀬監督も俊哉と望月の活躍に目を見張る。
(一番俊哉と三番望月が上手く機能してる・・・この打順もありか?)
ベンチで采配をしながら色々と考える春瀬監督。
夏休みが終われば秋大会が始まるとあって、監督としてもこの練習試合で様々なパターンを作っておきたい所であり試行錯誤している。
この日の試合は5対2で勝利。
望月は7回を投げ7奪三振無失点の投球内容、そして打撃では4打数3安打4打点と打撃でも結果を残す。
また俊哉は3打数3安打1四球で全打席出塁をし全ての出塁で得点している。
好調な二人がいる一方で4番の明輝弘は4打数0安打3三振と結果が出せないでおり、本人も自覚しているのか苛立ちを見せながら帰って行く。
(試合に勝ったが、結局機能したのは横山と望月の二人 竹下や早川にもヒットが出たが得点に絡めず そして特に庄山が無安打で3三振か 完全に弱点が露呈したな)
勝ったものの物足りない結果だったのか頭を抱える春瀬監督。
中でも明輝弘の打撃不調である。
変化球に手が出ず三振の山を築く事になってしまい、春瀬監督としては変化球打ちを教えたい所だが明輝弘本人も頑固なのか“男はストレートでなんぼでしょう”と言い張り聞く耳持たず。
(アイツももう少し柔軟に考えてくれればなぁ いつの時も四番打者はこんなんばかりだな いや、俺の時の四番は柔軟すぎたな)
帰りの車の運転をしながら考える春瀬監督。
家へと帰り荷物を置き自分の部屋へと行くとスコアブックを見ながら次の試合に向けて再び考え始める。
(次はダブルヘッダー ウチを含めて3校での練習試合・・・今回はウチより強い所もきてるからな、アイツラにはいい経験になる)
秋に向けて・・・
その思いから春瀬監督はチーム力をアップすべく、試行錯誤して行くのである。
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