第3話 呼び出し
秀二からの誘いから数日がたったころ。
俊哉はやはり悩んでいた。
確かに陵應へ行けば甲子園にもっとも近く、自分自身の力の向上にもなる。だが彼自身は静岡から出ることに多少なりとも抵抗というものがあった。
自分の生まれたこの土地で甲子園を目指したいという気持ちが彼の中ではかなり強い物として残っていたのである。
(うん。やっぱり明倭にしよう。あそこなら部員もほとんど県内の選手だし……それに、俺じゃあ陵應でレギュラーなんて……まぁ明倭でもそれは同じだけど。)
一人ノリツッコミをしヘラッと笑う俊哉。
そんな彼の背後からドンと軽く背中を押され、驚いた俊哉が振り向くとそこには赤みがかかった髪の毛でサイドに短いツインテールが特徴の可愛い女の子がおり、パッと明るい笑顔を見せながら話しかける。
「あれ?トシちゃんすっごい悩んでる感じだけど大丈夫?」
「おぉうマキか。あ、ううんちょっとね・・・」
少し元気無さ気に答える俊哉。
この女の子の名前は宮原マキ《みやはらまき》、俊哉とは幼稚園からの付き合いで幼馴染の間柄である。
そんな俊哉にマキは首を傾げていると、すぐ後ろからもう一人の女性が来る。
「またくだらない事なんでしょ」
ため息をつきながら話す女性。
ロングの髪の毛でスタイルはスレンダーなモデル体型で、顔だちも美人というその女性の名前は
「くだらなくは無いよ明日香。進路さね」
机に突っ伏しながら話す俊哉。
そんな彼を見ながら明日香とマキは互いに顔を見合わせながら肩をすくめる。
「あれ?明倭って言ってなかったっけ?」
「うん。でも、シュウに陵應に行かないかって誘われた。」
その言葉にマキと明日香は驚いた。
彼女たちでも分かる高校の名前を聞き二人は行けばいいじゃないと言ったが俊哉が少し渋っている事に気が付くとそれ以上は言わなかった。
その場の会話が終わり放課後となると帰宅へ向かう生徒たちが教室からゾロゾロと出ていく中、カバンを持った俊哉の元へ先ほどの赤髪の少女、マキが歩み寄ってきた。
「一緒に帰ろー」
「うん、いいよ」
二つ返事で共に帰路へとつく俊哉とマキ。
あのお店のケーキがおいしいとか他愛もない話をする中、マキは先ほどの話の話題を振る。
「さっきの進路の事だけどさ。」
「お、おう」
突然の派内にまた情けのない返事を返す俊哉。
多少キョどる俊哉にマキはパッと明るい笑顔を見せながら話し出した。
「私は、いいと思うよ。陵應に行くの。そりゃ地元で甲子園を目指してほしいっていう思いはあるし、遠く離れるのも……。でもね、秀二君はトシちゃんを必要としてくれてるじゃん。一緒に野球をやろうって言ってくれてる人たちと野球やった方がいいよ。それも方が楽しいもんね。」
ニッと本当に明るい笑顔を見せるマキ。
俊哉はいつも彼女の無垢な笑顔に安心感をもらっていた。
その彼女の言葉を聞き、俊哉は確実な決意を抱いていた。
陵應に行こうかな……と。
マキと家の前で別れ俊哉は自宅の中へと入り部屋へと向かうとボスンとベッドにカバンを放り投げる。
「秀二に連絡するかな。」
そう呟きながら携帯をのぞき込む俊哉であったが、突然の着信に驚いた。
画面のあて先は名前が無く携帯番号のみ。
今流行りのオレオレ詐欺か?と疑いながらもその番号からの着信を取る。
「もしもし。うんそうだけど……え?何で知ってんの?はぁ、うんうん。えっとじゃあ……今度の日曜日でいい?うん明後日。分かった。じゃあ。」
しばらく話をしてピッと電話を切る俊哉の表情は少し困惑にも似た表情であった。
結局俊哉はそのまま秀二へ連絡するのを忘れ、謎の人物との待ち合わせの日へと進んだのであった。
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