第32話 自己アピール

「人が居る。4人、5人……これ、下層から上がってきた冒険者パーティだな」


 すぐ上の8層にドラゴンが出たことで、このダンジョンが入構禁止になっているのは、ほぼ間違いない。だから8層から降りて来たことは考えられない。


 なんとなく気になったので、見に行くことにした。


     *     *


「もう私を置いていって、ダイゴ。魔力が無くなって自分の怪我さえ治せないヒーラーなんてお荷物もいいところよ!」


「何度も言わせるな、カラミ。俺のパーティからは、絶対に死人は出さない! 魔力が無くなったのも自分の怪我より俺たちを回復させたからなんだ。絶対に連れて帰るから諦めるな!」


「しかし、ダイゴさん。もう9層だというのに、人っ子一人いやしない。おかしいですぜ」


「キリボシの言うとおりだ。ぜんぜん他のパーティと会わないなんて不自然だ。何か起こってるんじゃないか?」


「ああ。俺も下の階層から不思議に思ってたんだが、さすがに9層辺りで他のパーティに会わないなんて考えられん。……よし、小休止だ。カブは辺りを見回ってこい。キリボシとオロシはテントを張れ。カラミを休ませる」


     *     *


 なる程、そういう事ですか。


 ……そこっ。説明くさい言うな!


 俺は風魔法を利用した賢者スキルの『盗聴』でパーティ・ダイコン(パーティ名、勝手に俺命名)の事情を理解した。


「問題は近くに魔物の群れがいる事なんだよなぁ。下層から上がって来たんだ、それなりの強さかと思うけど……怪我人がいて、それがヒーラーとなると、ちょっと辛いかも」


 助けるか、それとも放っておくか?


 冒険者は自己責任だ。でも今ダンジョンに冒険者が1人もいないのは俺にもチョビットだけ原因があったから、ここで誰かが死ぬのは寝覚めが悪い。


 正直、助けたい……が、俺の事を知られるのは避けたかった。それは王国を抜け出すのに都合が良いからだ。御手洗先輩の約束(1章6話参照)を果たすのに、これ以上の機会は無い。


 しかし、それ以上に彼らを助けるのに躊躇する理由が1つある。


 ……恥ずかしいのだ。今の俺の姿を思い出して欲しい。袋に穴を開けて頭と手を出している。腰にベルト代わりの紐。しかも。ハハ、ノーパンだ!


 無理だ。こんな格好で人前に出られるほど俺のメンタルは強くない。


 こっそり隠れて、魔物の方を片づけようかと思っていたら……。


 ?! ……賢者補正なのか、感覚がしきりに『自己アピール』を使えと主張している。


 わけ分からんが、ちょっとやってみよう。


     *     *


 ピロリン。


『自己アピール度=0』

【-■■■■■□□□□□+】


 なんじゃこりゃ?

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